▲▲つ35っ! きみのうぃざーどになるよ!

 「ねぇ。」

 「?」

 それにおいても、アビーはまだ、希望を捨ててはいない。

 顔を上げて、見たならば、いつものポジティブで。

 「きっと生きているよ!だって、スフィアが導いてくれるんだもん。ここじゃない、どこか、そうだね、帝国の中とか、ね?」

 「……まあ、確かに。」

 らしいことを口にした。確かにと俺も口にして。

 その通りに、頭ではまだ、希望を捨ててはいない。

 なにせ、ここにいない、というだけで、死んだとかの証拠はないのだから。 

 「!」

 丁度いいタイミングだ、号令が遠くから聞こえる。

 合わせて、沢山の足音が一点に向かっているのを耳にする。

 部隊の隊長さんが、伝達のために号令を掛けたのかもしれない。

 「……まあ、私たちがここでうだうだやっても、何の解決にもならないわ。これからは、これからで、考えましょう。」

 同じく号令を耳にしていたマフィンは、その方を向いてぽつりと呟く。

 「そうだねー。その時のことは、その時に、だね!それじゃ、行こっ!」

 「!あ、ああ。」

 アビーは一声、俺は頷いて。

 思考を中断させる結果になったが、仕方がない。

 ないのなら、別のことを考えるしかなくて。

 俺たちもまた、隊員さんたちに続いた。

 隊長さんの話は始まっており、遠くからだが内容を聞いていた。

 内容は、この基地の解放宣言のようだった。

 続くことには、帝国への反撃の前線基地になったと。

 残念な知らせとしては、拉致された人を発見するには至らなかったことだと。

 周りに、残念と思う空気が漂いそうだったが。

 隊長さんは、その空気さえ寄せないほど、強い声で言う。

 諦めてはいけない、と。

 拉致された人々の安否はまだ不明だが、この先進んでいけば、いずれ再会できる。

 締め括りとして、これからも進み続ける。その先に、希望がある限り、と。

 残念な空気は、締め括り後に広がる、歓声に掻き消されて。

 気は再び張り、隊員さんたちはそれぞれに散らばっていった。

 その一人に、最初俺に声を掛けた人がいて、寄って来た。

 寄って来た上で、俺の手を両手でしっかりに握り締めた。

 「ありがとう!」

 第一声は、それで。その瞳は、一筋の希望を見付けたという感じだ。

 俺は、握り締められたことに、キョトンとなる。……終始この様子だね。

 「君のおかげで、我々は、帝国に反撃ができた!これは、我々にとっても、大きな一歩なんだ!……ありがとう!」

 「は、はあ……。」

 続くことに、作戦成功の感謝であり、重ねられた。

 俺は、軽く引いてしまう。

 「だが……。」

 「?」

 すぐに暗い顔になる。疑問に首を傾げたが。

 「!」

 いや、同じくすぐに察する。

 それは、あの幼子の約束が守れなかったということであり。

 「……あの娘のお母さん、見つからなかったな……。それが、残念で仕方ないな。」 

 続くことには、まさしくそれで。 

 「……。」

 察知したからこそ、俺は閉口してしまう。

 「それでも……!」

 再び続く。その際、握り締めた手の力は強くなり。

 「私は、私たちは諦めません!この先に、希望があるなら!」

 「!」

 暗い顔はその人にはなく、希望の色合いになって。

 手からもその情熱を伝えてきて。

 「ここからです!私たちは、これからも進み続けます。今回はありがとう!」

 再び感謝で締め括られた。

 俺は、引き気味だが、頷いた。


 隊員さんたちは、隊長さんの報告の後散り散りだが、整然と行動していた。

 破壊された色々な物品を復旧し、共和連邦の基地として稼働できるようにして。

 ふと次々と航空機が降り立ってくる。

 合わせて増援が。

 中には技術要員なのか、工具類を持ち。

 また、復旧できない場合に備えて、機材・機械もまた持ってきていた。

 それらが入っているであろう、武骨なコンテナも届く。

 そうしていく内に、基地としての機能が戻ってきていた。

 俺は遠くからそれを見つめていて。

 「!」

 また、誰かがこちらに向かってくる。あの隊員さんだ。

 「君たち、協力ありがとう!その、おかげで、助かったよ!」

 「あ、はい……。」

 「いえいえ。これも何かの縁ですし。」

 また、重ね重ねのお礼が来る。俺は生返事で、マフィンは丁寧に対応して。

 「どのようにお礼をすればいいか、分からない。……何か、あるかい?」 

 「お礼はいいわ。」

 恩に報いるためにと進み出るものの、マフィンはいいと断る。

 「……あなたたちも、大変だったでしょう。それに私たちは、スフィア狩りに来たのであって、その目的は達成された。後は、安全に村に帰るだけよ。」 

 「!」

 慈悲深いもので、恩返し何ていいと。

 ただ、続けた言葉に隊員は、ピンと来て顔を上げた。

 「では、帰路、丁重にお送りいたします。」

 閃いたアイデアを言って、深々と頭を下げる。

 俺たち村の住人は、それぞれ顔を合わせたなら、そっとそのアイデアに笑い合い。

 「それで、構わないわ。ありがとう。」

 代表のマフィンの声で、彼らの気持ちを汲み取った。

 お礼を言って、マフィンもまた頭を下げる。

 話はまとまり、俺たちは隊員さんたちと共に元の場所へ帰ることになった。

 帰りは、陸路じゃない。

 どうやら、隊員さんたちが用意した航空機によって輸送してくれるそうな。

 だとすると、帰りは速いな。

 基地機能を自分たちの物にしたらしいからか、滑走路も使い放題の様子。

 もう、滑走路にはその航空機が待機していた。

 その航空機、主翼が変形して、垂直離着陸もできる物のようで。

 さっき見た、研究員とサイボーグを乗せて。

 消えるように飛んで行った航空機と比べて、一回り小さい。

 昔の記憶なら、空でその航空機は飛行機のように航空できる代物だったはず。

 その航空機、いつでも発進できるように、プロペラを回し。

 エンジン音を響かせていた。

 手招きされて、俺たちは中に乗り込む。

 後方の扉が閉まったなら、一呼吸置いて、航空機は空に昇っていく。

 「!!わー!すっごーい!!」

 羽ばたいて行く中、アビーは外を見て感嘆の声を上げた。

 俺も、久し振りの、上空からの光景に、アビーと同じ声を上げる。

 そうしている内に、あっという間に、出発した場所へ。

 そう、あの幼子に見送られた場所に戻って来てしまった。

 「!」

 そんな俺たちを出迎えるのは。

 まさに、あの時俺たちに祈りの言葉を捧げた幼子で。

 突然降りてくる、航空機に目を丸くしていた。

 垣間見える、俺や隊員さんの姿を見ては、期待の色に染まる。

 その幼子の目の前に、軟着陸したならば、後方の扉が大きく開き。

 階段のように倒れ込んでいく。

 それはきっと、希望の階段だろう、幼子にとっては。

 「お母さん!!」

 「!!」

 故に、第一声はそれで。

 耳にした俺は、……気まずくなった。いや、俺以外もまた、同様に。

 降りていくが、普通なら仕事が終わったと思うだろう。

 けれど、幼子の姿を見たならば、彼女の願いもまた思い起こされて。

 母親の帰還を願った、だが、この航空機には、……いない。

 最後、見送りのために隊員さんが降りたなら。

 幼子の顔は不安の色合いに染まる。瞳は、震えだして。

 「……お母さん……は?」

 声も震えて、言葉紡がれて。その言葉に、一同は暗い顔をした。

 「……ええと……。」

 その理由をと、まず俺が前に出て、彼女に説明しようとした。

 が、隊員さんが手で制して、私が行くと、目配せした。

 それは、この作戦に俺たちを参加させたのは。

 自分の責任なのだからと、訴えてきて。

 「君、すまない。基地を奪還はしたが、君のお母さんは奪還できなかった。」

 「!!」

 前に出て、しゃがみ、幼子に向き合ったなら、真実を告げる。

 誤魔化しても、変わるわけじゃない事実だから。

 聞いた幼子は、ショックの色を瞳に見せて。

 「基地に、確認できなかった。だが、死んだという証拠はない。おそらく、帝国のどこかにいると考えられる。今は無理だが、いずれはきっと取り戻せる、信じて欲しい!」

 隊員さんによる弁解は述べられて。

 「……ぅ……ぁ……あぅぅ……。うわぁああああん!!お母さぁぁん!!」

 「?!」

 しかしそれら、幼子の泣き声に掻き消されて。

 願い叶わなかったことへの、悲壮の叫び、伴って。

 その幼子、難しい話なんて、まだ分からない。

 いかなる苦労がそこにあったかも、まだ分からない。

 この後、それが、いかに難しいかも、まだ分からない。

 信じて欲しいと願っても、幼いがために、信じることは難しく。

 故に、まだ、終わっていないなんて、分からない。

 彼女が求めたものは、母親の帰還そのものであり。

 それが今未完であるならば、彼女にとっては、願いが叶わなかったに等しく。

 「……くっ。」

 掛ける言葉なくて、隊員さんは苦悶の表情を見せるしかない。

 いや、隊員さんだけじゃない、俺たちも。

 悲壮がために、言葉思いつかず、顔を逸らすしかなくて。

 慰めの言葉、誰も思いつかず、無言。

 ただただ悲壮だけが、流されていく。 

 「!」

 いや、俺だけはなぜか違った。俺だけは、言葉を思いついた。

 そっと、隊員さんの肩を叩いて、交代してくれと耳打ちした。

 何か、アイデアがあると感じてくれたようで、頷いて交代してくれる。

 「……?!ふぇ?!」

 そっと、俺は、幼子の体を抱き締めたなら。

 「……大丈夫だ。俺が、連れ帰ってきてあげるよ。」

 「?!」

 言葉初めに、まず優しくそう言って。

 幼子は抱き締められたことに、目を白黒させている。

 「信じられない?なら、こう言ったら、信じてくれる?」

 「……?」

 まだきっと、信じられていないだろう。だが、この〝言葉〟なら。

 「……俺は〝ウィザード〟だ。君が最初そう言っただろう?信じて。必ず、俺が、連れて帰ってきてあげるよ!」

 〝ウィザード〟。

 誉れ高き、言葉。加えて、約束も。そっと自信満々に言ったつもりであったが。

 情けないことに、言った傍から、体全体が震えてしまった。

 「……。」

 「「……。」」

 その言葉を放った後、幼子は呆然として。

 見渡したなら、他の全員は唖然としていて。

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