▲▲つ32っ! きしゅうだね!がんばるぞー!

 「?!」

 まさか、一緒に行くなんて言うんじゃないだろうか、俺はつい警戒した。

 「……ええと、君。その、危ないよ?ついてこない方がいいよ?」

 「……。」

 一応、聞いてみる。だが、そうじゃないよと、幼子は首を横に振って。 

 「その……。」

 何か、言葉を紡ごうとしていた。

 俺は、乗り込むのを中断して、そっと寄り、しゃがんで、彼女を見たならば。

 「……ええと、お兄ちゃんたちの無事を、お祈りしたくて……。その、えと、言葉が……。す、〝スフィアと共にあらんことを〟……!」

 その先を紡ぎだす。言って、瞳を閉じて震えた。 

 恥ずかしいから?いや、彼女なりの、懸命さで。

 「……?」

 だが、悲しいかな、俺は祈りの言葉が、その言葉の意味が分からない。

 首を傾げてしまう。

 「!」

 助け舟また。

 先に乗っていたマフィンが、荷台から顔を出し。

 様子を見たならひょいと飛び降りて、俺と一緒の位置に躍り出る。

 「……ありがとう。私たち、ちゃんとお母さんを連れて帰るからね。」

 言って、微笑み、頭を撫でてあげた。

 「ええと、マフィン?」

 「?なぁに?」

 「さっきの言葉、何て意味?」

 何だか、水を差すようで嫌なのだが、意味は何なのだろうか?

 「祈りの言葉よ。スフィアが導く、幸運が道中にありますように、って意味なのよ。」

 「……なるほど。」 

 マフィンは丁寧に説明してくれた。おかげで、理解できたよ。

 そこで、内心、思ったことには。

 どこかのSF映画に、似たようなセリフがあったような気がしてならない。

 だが、問うのも野暮だ、理解して、素直に俺はそっと。

 応答には不十分かもしれないが、笑みを返して。

 「……行ってきます。」 

 言葉を、伝えた。

 その言葉を残し、俺とマフィンは、トラックに乗り込んで。

 戦場の奥地へと向かっていく。


 帝国の基地までは遠い模様で、窮屈な車内ながら。

 長い時間延々とエンジンの音と、土を踏む音を耳にする。

 そっと、荷台から顔を覗かせたなら、風景は先とあまり変わらない。

 残骸が多く転がっているという違いはあるが。

 「!」

 次第に、警戒しているのか、その速度が落ちていく感覚を得た。

 想像だが、ようやく近くまで来たか、という感じだ。

 「ここから、だ。ここから先は、おそらく敵の警戒も強いからね。」

 隊員さんが、顔を出して言う。

 「!」

 聞いていて、ごくりと唾を飲み込んだ。

 ここは、いよいよ戦場の奥深く。

 あのマキナの巨人が、おそらく襲い掛かってくるかもしれない場所、意識して。

 「行こう。作戦開始だ。」

 隊員さんは、俺の意識を感じてか、続けて告げる、合図のように。

 皮切りに、中にいた他の隊員さんや、レオおじさんたちも降り始めた。

 「……。」

 若干の震え感じ、緊張も。

 緩和のために俺は、自分の頬を、ペチペチと軽くたたいて、気合を入れた。

 「?何それー?」

 降りようとした止まり、アビーが、不思議そうに聞いてきた。

 「ああこれ?ちょっとした習慣だよ。緊張したりして、いつも通りならないなら、ちょっとだけ目を覚まさせるみたいに、ね。」

 「へぇー。おもしろそー!あたしもやってみよー!」

 説明したなら、興味を持ったみたいで。

 アビーもまた自分自身の頬をペチペチと叩いた。

 「……いったーい!」

 「……。」

 力が強すぎたか、頬を赤く腫らしてしまう。涙目にもなった。

 俺は、呆れて物が言えなくなる。

 「……呑気ね。アビーらしいっちゃらしいけど……。」

 後ろから先に降り立とうとするマフィンが一言。呆れた顔をしながら。

 「けど、マフィンらしいわね。」

 「えー?!けなしてるー?」

 「してないわよ。」

 続けたなら、確かにと俺は頷く。おかげか、何だか、緊張がほぐれてきた。

 言われたアビーは、ややむくれっつらを見せたが。

 マフィンに宥められたなら、その顔も収める。

 「と、その前に、思い出したことが。」

 「?」

 マフィンは、降りようとしたらまた立ち止まった。

 腰のポシェットに手を伸ばしたら。

 じゃらりと沢山の何かをこちらに手渡してくる。

 スフィアだ。……マフィンが持って来たものにしては、数が多いのだが。

 「さっき沢山あったでしょ?持って来たわ。あなた、あれだけ沢山あったのに持って行かなかったもの。全部は持ってこれなかったけれどね。」

 「!」

 「助けになるでしょ?」

 「あ、ありがとう。」

 さっき、俺が、俺の盾が操った、スフィアたちだったようだ。

 それを手渡したなら、俺は受け取り、お礼を一つ。

 「じゃあ、先に。」 

 受け取ったのを見て、お礼を耳にしたら、マフィンは先に降り立った。

 俺は、手渡されたスフィアを、まずバックパックに収納して。

 背負ったなら後に続いていく。

 「うー……。」

 アビーがその後に続くものの、頬をまださすっていた。


 降り立ってすぐ基地……というわけではない。

 まあ、何となく分かるけど、いきなり基地だったら、総攻撃だよね……。

 降り立った場所は、小高い丘のようで。

 その丘の、下あたりに、いかにもな場所が見えた。

 金網や、有刺鉄線で境界され、立ち入り禁止の看板が所々にあてがわれ。

 その周囲を、こちらの隊員さんと似たような服装の人が哨戒している様。

 奥には、アスファルト敷きで、『H』のマークがある場所や。

 奥には、大きな道路。

 近くに大きな航空機がある、飾り気のない、武骨な建物群ときたら。

 軍事基地以外の何でもない。

 隊員さんが双眼鏡で観察している。

 「!」

 別の隊員さんが、こちらにも双眼鏡を手渡し、勧めてきたなら、覗いてみる。

 基地で哨戒していた人の他、遠くから急いで駆け寄ってくる兵隊が一人。

 歩哨が集まって、事情を聞き始めていた。

 聞いて、軽く驚く様子を見せたなら。

 散り散りに動き、同時に、サイレンが鳴り響いた。

 同じくして、基地内にある、物資の内、巨大なコンテナが開き。

 中から金属の巨人が姿を現した。

 マキナの大型兵器。それも、こちら側に奇襲を仕掛けてきた時以上の数で。

 まあ、基地だから、沢山あってもおかしくはないか。

 「……。」

 双眼鏡から目を離し、周りを見渡したなら。

 隊員さんたちは、早速行動するようで、こちらも慌ただしい。

 「!」

 後方に置いたはずの、車両の一群がこの時前に来た。

 その中には、戦車の他、巨大な大砲を備えた、剥き出しの砲装備や。

 ……帝国の基地に負けじと大きい、コンテナがいくつかあった。

 数は、帝国と比べると少ないけれど。

 必要な装備を持って出撃していたが。

 これほどの一群がこちらに随伴していたとは、思いもよらない。

 ……そのコンテナ、中身は……。

 隊長さんの指示により、タブレット端末にて操作をしたなら。

 コンテナが開き中から作動音がし始めた。

 無機質なモーター駆動音、重々しい音が響いたなら、中身が姿を現す。

 マキナ。

 それもこちらは、獣のようで。

 獣よろしく、四脚で立ったなら、背が開き、そこから巨大な火砲が姿を現した。

 背にある巨大な火砲を作動させ、照準を合わせ始める。

 「ガォオオオオ!!」

 「?!」

 攻撃の狼煙に、凄まじい音量で咆哮したなら。

 背中の火砲から巨大な光弾が放たれる。

 「ってー!」

 合わせて、装備を展開していた隊員さんたちもまた、砲撃を放った。

 幾多もの光弾、砲弾飛び込んだ矢先、基地から爆炎が上がる。

 「!」

 俺の背を誰かが突き、見たならレオおじさんが。にぃっと笑ったなら。

 「俺たちも続くぞ。なぁに。突破は任せておけ。これでも俺は、その昔それなりに名を馳せた男だぜ?」

 「!」

 言ってくる。ここにきて、突撃と。自信満々に、自分を誇って。

 俺は、聞いていてごくりと唾を飲み込んだ。緊張に、手が震えだす。

 「だから言ってるだろ、名を馳せた男が傍にいるんだ、緊張するな。信じていないなら、教えてやるよ。これでも〝西の荒獅子〟と呼ばれたんだぜ?」

 「は、はぁ……。」

 ここにきて緊張する俺に、安心しろと話をしてくれる。

 内容に、確かに自分の二つ名を付け加えたようだが。

 緊張のあまり、やはり生返事に。

 「……ん?」

 緊張を片隅に、変に疑問が湧いた。

 「ええと、レオおじさん、じゃあ、〝東の……〟とかってあるんですか?」

 話題に乗って、俺は聞いてみた。

 「いるぞ。〝東の荒獅子〟。」

 「へぇ。ええと、誰です?」

 「……うちの母ちゃん、エルザ……。」

 「……。」

 いたらしく、さてその正体はと。

 レオおじさんは、正体を口にして、若干青冷めてしまった。

 正体を聞き、俺も何も言えなくなる。

 エルザおばさんだったらしい。

 あの人、レオおじさんの手綱を握る、肝っ玉母ちゃんだけじゃなく。

 かつて狩人だけじゃなく。

 ……レオおじさんに並ぶほどの二つ名の持ち主だったんだ。

 「……がはははっ!母ちゃんの雷に比べれば、怖くはないぜ、なあ!」

 「……は、はい……。」

 暗い顔をしたレオおじさんだが、豪快に笑い飛ばす。

 自信ない俺は、少し震えが緩和されたか、小さい声ながらも返事をした。

 「!」

 また、肩を叩かれたなら、アビーだ。

 「行こっ!」

 手を差し伸べて、安心させる笑みを浮かべたなら。

 見て俺は、手を取ったなら駆け出す。

 相手の基地は目前。

 防御のために、急ぎ車両やマキナを呼びつける様子が垣間見えた。

 防御のバリケードや、防壁が完成しそうな勢いだが。

 「!」

 レオおじさんが徐に立ち止まったなら。ぐっと、体中に力をため込む。

 その際スフィアを用いたか、全身が発光していることに気づく。

 「一挙入魂!!」

 言うなり、拳により光が集中してくる。

 腕は筋肉肥大により太くなり、血管さえ浮き出ている。

 その様子は、バネに力を込めるのに似ていた。

 「ぬぅぅぉりゃぁあああああああ!!!」

 咆哮一つ、押さえていたバネを開放する、弾むように全身を跳躍させたなら。

 力が解放される。

 空気が獅子の咆哮を纏って、衝撃と共に相手側に向かった。

 「!!ぎゃぁああああ!!」

 「ひぇぇ!!お助けー!!」

 「防御が、……ぐぇ?!」

 その衝撃たるや、凄まじく。

 恐らく、トンはあるであろうトラックさえ吹き飛ばし。

 取って付けた防御の壁は、たやすく瓦解する。

 応戦しようと構えていた兵士たちは、一歩遅く。

 その力に飲まれて吹っ飛ばされてしまった。

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