▲▲つ31っ! さくせん

 俺は、アビーに頬ずりされ、何も話せない。

 嬉しさ、歓喜彼女のそれら全て、こちらに伝わってきた。 

 「……し、信じられないわ……。」 

 マフィンはまだ、驚愕したままで、頭を抱えてウロウロとしていた。

 「?!きゃぁ?!」

 彼女も思考停止していたか、スフィアが転がっていることに気づかず。

 うっかり踏んでしまい、滑らせ、転ぶ。

 「うにゃう?!」 

 「!」

 転んだ衝撃で、体を打ってしまって、変な声を上げた。

 「ま、マフィン、大丈夫か?!」

 「……え、ええ。大丈夫よ……。」

 「わっ!」

 アビーを剥がし、マフィンに駆け寄って、手を差し伸べた。

 マフィンは俺の手を掴み、立ち上がったが、まだ、上の空のようで。

 「ええと、ごめん。」

 よく分からないでいる俺は、なぜか謝ってしまった。

 「……あ、あなたのせいじゃないわよ、別に。それよりも、あなた、とんでもないことになっているわ。」

 「?」

 それは俺のせいじゃないと、マフィンは言って。

 代わりとして、周囲を見るよう言ってきた。

 「!」

 見渡して、はっとなる。

 自覚がなかったが、周辺に沢山のスフィアが転がっていた。

 「おー!大漁だー!」

 アビーも気付いて、このことにも歓喜する。

 「がはははっ!そうだな、大漁だ!こりゃぁ、母ちゃんも喜ぶぜ!」

 レオおじさんもだ。

 その大漁な様子、つまりはスフィア狩りの成功で。

 マキナの巨人を退けたすごさもさることながら。

 大漁の様子はさらに歓喜を呼んでいた。

 「「うぃー!!!」」

 番台さんは、ヤグさんと共に手を上げて喜んでいて。

 その光景に、今になってそっと笑みが漏れた。

 「そうだ!」

 「?」

 その歓喜の中、アビーは何か思い立ったようで、転がるスフィアの内。

 いくつかを両手に掬い持ったなら、立ち上がり、幼子へ歩み寄る。

 「これあげる!」

 「?!」

 アビーから目の前に差し出されたスフィアの山を目にして。

 幼子は目を白黒させた。

 差し出したアビーは、にっこりと笑み、促していて。

 「で、でも……。」

 しかし、幼子は躊躇っていて。

 「お裾分け!これで、お願い叶うよね!スフィアの導き、通じるよね!」

 続くアビーの断定に、その躊躇いは失せ、笑顔で応える。

 それを受け取ったなら、幼子は涙ぐんで。

 「あ、ありがとう!!!」

 思いっきり、頭を下げた。

 「な、何が起こったんだ?!!」

 「!」

 その雰囲気壊す、怒号、遠くから。

 誰かが駆け寄ってきた。それも、多数の足音引きつれて。

 近づくにつれて、それらが。

 その人たちが俺たちがスフィア狩りに従事する前に別れた。

 共和連邦の兵隊さんたちだと分かる。

 〝狼の人〟で構成されているらしく、皆、狼の耳をしている。

 どうやら、あの時別れた兵隊さんの仲間だろう。

 その人たちは、別れた時とは打って変わって、相当な重装備をしている。

 ある者は、巨大な大砲をその背中に担いでいた。

 「!!」

 地を鳴らす轟音がしたならら、車両も見えた。

 無限軌道の踏み締める音も、そう、戦車だ。

 記憶に見た物と、似てはいるもののハイテクな装備も見受けられ、別物だ。

 ……例の、マキナ騒ぎによって、出動してきたに違いない。

 だが、遅かったようで、もうマキナは残骸だ。

 号令と共に、兵隊さんたちは散会して調べているものの。

 さっき言った通り、もう残骸しかなく。

 「……一体何が……っ?!」

 「分かりません!ですが、強力な兵器が用いられた模様。……ですが、周辺にそれらしい物は発見できませんが。」

 「他の異変といえば、そこの少年が怪しいと。彼の周囲だけ、異様に沢山のスフィアがあります。」

 「!」

 周辺調査をしていた一人が、やがて俺に行きついた。

 俺に行きついた一人が、走ってくる。

 「君!……事情を聞いていいか?」

 一人の隊員が聞いてくる。俺は断る理由はない、頷いたなら紡ぎだす。

 「ええと……。……。」


 「……というわけなんです。」

 「……。」

 起きたことを、嘘偽りなく話したなら。

 事情を聞きに来た隊員さんは、絶句して、信じられない様子を見せていた。

 だが事実。

 転がる残骸が物語る、転がるスフィアが物語る、俺が、俺たちがしたこと。

 「……。」

 絶句、思考中故に、ここにて言葉がない。

 「ええと、他にもありまして、……この幼子のことなんですけれども。」

 「!」

 話題転換になるか分からないが、他にも事情を説明することがある。

 俺は、近くにいた幼子のことを切り出してみる。

 思考していた隊員さんは、中断して聞き入る。

 「……母親を拉致されていたらしく、また、願い事のためにスフィアを集めていて。……ここに来たらしいのです。」

 「!」

 「!!ひぅ?!」

 「!」

 幼子の事情を説明したら、隊員さんもまたピンと来たらしく。

 やがて、視線をその幼子に向けたものの。 

 屈強な兵士の瞳だ、返って彼女を怯えさせてしまった。

 しまったとここで思う。

 怖い思いをさせてしまったかもしれない。

 だが、隊員さんは、しゃがんで。

 彼女と同じ目線になったなら、そっと頭を撫でていた。

 立ち上がり、俺を見たなら。

 「……確かに。拉致されて母親を失った子供も多くいる。この娘もその一人だろう。……すまないな、今まで力になれてなかったのかもな。私たちも、その、行動はしていたが……。」

 弁解を告げるものの、複雑な表情をして、言葉を濁した。

 「……帝国相手に、非力だった……。」

 「……。」

 苦しむような形で、言葉が吐き出された。

 事情をよく知らない俺は、彼らがどのような目に合ってきたか。

 所詮想像でしかないが、……何度も作戦を実行して、抵抗してきた。

 しかれども、それは叶わなかったのだろう。今日までそれが、続いている。

 悲壮もあって、顔を隠した。

 「……。」

 その苦そうな表情が少しだけ和らぐのを待っていたなら。

 何か思いついたように、顔を上げる。

 「……少し、待ってくれないか。」 

 「?」

 隊員さんは、言い残して、俺から素早く立ち去って行く。

 向こうで隊長や他の隊員と話をしているようで、その様子が見えた。

 隊長さんは、俺から話を聞いていた隊員さんの話を聞いて。

 また、アイデアがあったのだろう、付け加えたなら、複雑な顔をしていた。

 その上で、近くにいた他の隊員さんたちを見渡し。

 また、兵装を見たのだろう頷き、合わせて他の全員が、同じように頷いた。

 どうやら、何か話がまとまったみたいだ。

 隊員さんが戻ってくる。その表情は、決意に満ちている。

 「作戦が決まった。」

 「!」

 戻ってきてからの一言、それは作戦立案で。

 言ったなら、隊員さんはしゃがみ、幼子に顔を合わせたなら。

 「お母さん、連れ戻してきてあげるよ。」

 「!!」

 そう告げる。その瞬間、幼子の顔が明るくなったのを目にした。

 その表情を見るよりも早く、隊員さんは体を起こし、俺に向き直ったなら。 

 「奪還作戦だ。……近くに帝国の基地があって、奇襲も併せて行う。その、君が……。」

 「?」

 いきなりな言葉だ。何事かと首を傾げたなら。

 ただ、隊員さんは、途中言葉を濁している。

 「君が、〝ウィザード〟と見込んで頼みたい。協力を、お願いしたい!」

 「はっ?!」

 強く言い切って、頭を下げた。言われた言葉に、こちらは目を丸くする。

 驚きのあまり、思考が吹っ飛んでしまい。

 加えて俺は戸惑って掛ける言葉が浮かばなくなる。

 どうしよう、救いを求めて目配せしたなら。

 「……待って。一応、代表として、私が話を聞きます。」

 救いの船をマフィンが出す。俺と隊員さんの間に立っては、話を聞いていた。

 頷いたなら、後ろにいる面々に向かい。

 「私は協力しようと思うわ。どう?これも、何かの縁だし。」

 言ったなら、皆はそっと微笑み。

 「分かったー!」

 「アビーに同意!」

 「私たちだって、ビストだ!腕なら自信あるよ。」

 「あまり、腕に自信はないが……。私も協力させてくれ。」

 「へへっ。これでも、〝一撃の拳〟と呼ばれていてね。」

 「!皆!」

 言われて頷く、スフィア狩りに来た、全員。

 アビー、レオおじさん、番台さん、クサバさん、ヤグさん。

 それぞれが名乗り出たなら、それぞれ、力を見せつけるように。

 それぞれの得意な構えをして見せた。

 感じる頼もしさ。これもまた、何かの縁、マフィンの言葉、自分で反芻して。

 「……。」

 村の仲間総出を見た隊員さんは、そっと頷き、また、隊長さんの所へ赴く。

 判断を仰いだなら、早速戻ってきては、こちらに直って。

 「承諾を得られた。君だけではなく、君たちの協力もあるなら、これほど心強いことはない。その、協力感謝します!」

 「!」

 俺だけじゃなく、村の仲間も作戦に加えてくれたようで。

 頭を下げ、その協力に感謝する。

 その報告を聞いて、俺は他の仲間に相槌を交わして。

 一人なら不安でも、村の仲間といるなら、絶対に大丈夫だ、そう思える。

 一緒に、この舟に乗ろう。

 「……それで、俺たちは何をすればいい?」

 早速本題に取り掛かる。

 「……そうだな……。」

 俺たちの決意を感じて、頭を上げて、真剣に向きなったなら。

 立案された作戦を話し始めた。

 具体的には、こうだ。奇襲作戦。電撃作戦とも言える。

 密に相手の基地付近まで移動し、一気に攻撃を仕掛ける。

 仕掛けたなら、俺たちが突撃する。 

 どうやら、今までできなかったのは、帝国側が。

 さっきやったような偽装作戦があって、反撃できないことが要因だったらしく。

 それを今日、ついに俺が、俺たちが達成してしまった。

 相手は、大わらわだということらしい。

 それが隙で、今この瞬間に攻撃する、ということだ。

 「っしゃ!やってやろうじゃねぇか!」

 一通り聞いたレオおじさんは、バシンと手を突き合わせ。 

 気合を十分に入れ込んでいた。

 流石、獅子と言わんばかりに、口元にはにやりと笑みさえ浮かべている。

 余裕か、それとも、楽しいからか、分からないけれど。

 その一声を皮切りに、また気合を入れ直す俺たち。

 「いいんだな?」

 隊員さんは聞く。

 「……ええ。皆がいいって言うなら、俺は従いますよ。」

 俺は頷いて、答えた。

 答えたなら、作戦は開始される。

 そうなると、例えば尻込みして逃げたくもなるが。

 生憎、皆が付いているんだ、そんな考え、ありやしない。

 もう移動が開始される。

 俺たちは、部隊が用意した、迷彩柄のトラックに乗り込もうとしていた。

 その時、幼子が駆け寄ってくる。

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