▲▲つ30っ! うぃざーどだぁ!

 「!」

 けれども動く。逃げろと言われたから。だが……。

 「あ、わわ……!!」

 一人、そう、幼子は腰を完全に抜かして、動けずに。

 ただひたすら、言葉にならない音を口から発するだけで。 

 無慈悲かな巨人は、のっそりと巨躯を動かし、迫る。

 立ち止まったなら、徐に手にしていた得物を見せつける。

 銃だ。

 だが、巨人からしたらであって、こちらからみたら、大砲以外の何物でもない。

 もちろん、直撃したらひとたまりもない。

 獲物を見付けるように、巨人の頭が開いたなら、無機質な機械の球体が覗く。

 センサーのように、眼のように辺りを伺ったなら。

 構え、引き金にその指を掛けた。

 「!!くそぉ!!」

 一声叫び、俺は疾走する。

 《警告!ロックオン!》

 盾は警告する。それでも、逃げずに、俺が幼子の盾になるために、前に出る。

 「来いっ!」

 つい言ったなら、バックパックが開き、盾が飛び出してくる。

 意志を持っているように飛翔したなら、俺の左腕にすっぽりと収まった。

 《管理者権限により発動。AWS・FCSフルドライブ。迎撃行動に移行、状況開始。》

 無機質な盾の音声、それと共に光を集める板が周囲に展開される。

 さらに、あの時、マフィンとの訓練で見せたように、中央も開いた。

 光が集まり、膜を作る。それら、俺と幼子、アビーを包み込んだ。

 《アタッチメントを確認。レーザーセイバー。ドライバ確認。ドライブ。出力制限を解除。アタッチメントを確認。スフィア。ドライバ起動。出力最大限にて使用。》

 「……?」

 盾は自動で何かしているようで、無機質ながらよく喋っている。 

 どういう意味かは、分からないが。

 「!!」

 同じくして、巨人の向けた砲より光弾が放たれた。

 「アビー!!大和ー!!」

 避けるよりも、速い。光に包まれる。同時にマフィンの絶叫が耳に届いた。

 終わりか?いいや。光弾は届くことはない。

 展開された光の盾に阻まれて、俺とアビー、幼子三人、無事でいた。

 相手の兵装は、連射が利くようで、次々と光弾を俺たちに放ってきた。

 「ぐっ!」

 反撃の隙も手段もない状態では、ただ押されるだけで。

 それもいつまで持つか分からない。

 軽い衝撃が伝わり、俺は軽く声を上げた。

 「大丈夫?!」

 「あ、ああ!」

 結界内にて、アビーが俺を心配してくれている。

 頷いて応じる。おかげでか、何とか踏み止まれそうだ。

 《チャージ開始。カウント……。》

 傍ら、盾は何か言っている。稼働音が響き、振動も始まる。

 《シールドバッシュ、スタンバイ。コマンドをどうぞ。》

 「?」

 何か終わったようだ。盾が俺に聞いてくる。

 「……。」

 命令を待っているようだ。ならば、と頷いたなら。

 「シールドバッシュ!」

 言われたまま、その単語を口にする。

 《シールドバッシュ。インパクト。》

 「?!うぉぁああ?!」

 コマンドを言ったなら、盾から強大な衝撃が放たれる。

 反動がこちらに来て、体勢を思わず崩してしまった。

 唸り声のような音が響いたなら、相手にも衝撃が与えられたようで。

 ぐらつく様子を目にする。

 「!」

 それが見せた隙と、睨んだなら。

 「今だ!アビー!」

 「!」

 唐突に、アビーの名前を口にする。アビーは反応した。した上で、駆け出す。

 指示はない。ただ反射的に動いて、アビーは突撃していった。

 スフィアの力で、アビーは光り輝き、手袋から光の刃を迸らせる。

 「う、うにゃにゃにゃにゃにゃにゃー!!」

 咆哮し爪撃にて一閃したなら、巨人の腕が落とされる。

 体勢も崩れたものの、そこは体中からガスを吐き出しながら整えていた。

 「ぐっ!」

 その時立つ土煙、視界を奪う。

 今度はこちらが隙を見せてしまうか、そう思ったものの。

 《ジャマー展開。》

 盾が何か行ったようで、追撃がすぐに来ない。

 「わっぷっ!!ぺっぺっ!!」

 近くからアビーの声。

 まともに土煙を浴びたのだろう、咳き込んだ声が響いてきた。

 どうやら、傍に戻って来ていたようだ。

 《ハック開始。》

 その間にも、盾は何か操作している。

 《完了。火器管制制御。ドライバ確認、起動。》

 何か終わらせたなら、別の起動音がしてくる。

 その頃に、土煙が晴れ、見れば先ほど斬り落とされた巨人の腕の方からだ。

 例の銃が唸りを上げている。

 《撃てます。目標設定。ロックオン。発射。》

 「!」

 どうやら、盾がその銃をコントロールしているらしく。

 それ故に銃は動き、光を貯めていた。

 盾の合図と共に発射され、巨人を撃ち抜く。

 結果、巨人は思いっきりバランスを崩した。

 一撃ではない、何撃も放つ。

 巨人の外殻は破壊され。

 剥き出しの、配線や可動部、関節が露出、それら、内臓のようで。

 盾は容赦しない。目の前の巨人をただひたすら、打ち倒すためだけに。

 攻撃を継続、やがて、巨人は瓦解していった。

 煌めく物一つ、スフィア。

 盾は反応したら、レーザーをそこへ向かって照射する。

 応じるかのように、光を返すスフィア、自発的に浮遊しては。

 主たる盾に向かって来る。

 《アタッチメントを確認。スフィア、最大出力。リモートコントロール。》

 無機質な盾の声、反応してスフィアは輝きを増す。

 《フォトンシールド、オービタルレンジ。》

 盾はスフィアに命令する。

 応じたスフィアは飛び、俺たちを包むように大きく光の膜を展開した。 

 「!!うおぉ?!」

 同じくして、また光弾が襲い掛かる。そう、まだ一体だけしか倒していない。

 まだ、いくらも残っている。衝撃は、まだ続く。

 攻撃に、軽く呻いたものの、光の膜が防いでくれた。

 「……。」

 手は、ないか?さっきと同じ、防戦の状態にて、打開する手立てを模索。

 「アビー!大和ー!!」

 「!」

 遠くからマフィンの呼ぶ声。

 方を向けば、スフィアをいくつも展開して。

 俺たちに駆け寄ろうとする姿が見えた。

 方を向く、例のマキナの巨人も。当然、手にした銃口も向けていた。

 「!!」

 こちらから、視線を逸らしたものの、今度はマフィンがピンチに。

 マフィンにターゲットが変わり。

 危険が迫るその時に、思考が答えを導き出してくれた。 

 マフィンが展開しているスフィア、それと同数ほどのスフィアなら。

 貰っていたじゃないか。

 この前の修行も思い出せば、可能ではないか。

 「……。」

 そっと、手を差し出して、気を張ったなら。

 応じるように、俺のポケットから動き出すスフィアたち。

 《アタッチメントを確認。スフィア、最大出力。》 

 「!」

 どうやら、応じたのはスフィアだけじゃない、気づいたのは俺だけじゃない。

 盾もだ。

 さっき制御して、光の盾を作り上げたスフィアと同様。

 今しがた展開したスフィアに対しても、制御を行い。

 この前の修行以上の輝きを、放たせる。

 《スフィア複数確認。リンク。ドライブ範囲、拡大。》

 「?!」

 「?!な、何だ?!そこら辺から輝きがっ?!」

 次に盾は、別のコマンドを実行。

 そうしたなら、辺りの残骸からも、光が放たれ始める。

 マキナの残骸にて、スフィアを搭載した部分。

 「?!あ、熱いっ?!ど、どうして……?!」

 「!」

 幼子の持っていたであろうスフィアも応じているようだ、光が溢れる。

 《オービタルレーザー、スタンバイ。》

 「!!」

 盾が何かしだした。

 《撃てます。指示をどうぞ。》

 「!お、俺か……?!……撃てっ!」

 最後、俺に指示を求めた。

 ……予想できないが、他に手立てもない。

 戸惑いあれど、やむなく俺は指示を出し。

 《発射。》

 盾の指示と共に、レーザーが辺り一面から目の前の巨人に向かって放たれた。

 「!」

 強い発光と、相当なエネルギーだろう、空気まで振動させて。

 音を伴って相手を切り裂いていく。

 相当なエネルギーだろう、成す術なく巨人は瓦解した。

 瓦解したなら、動力源たるスフィアが飛び出す。

 それはまた、数多もの光を取り込んで輝き、また、自らも放出する。

 呼応する。

 あちこちから光が登ったなら。

 スフィアがあちこちから登り、こちらへ、主たる盾の元へ集ってくる。

 「!」

 まるで、星々だ。

 集ったそれら、俺たちを守るように広がったなら、まさしく星空で。

 煌めきが一閃。また別の巨人をたやすく貫いていく。

 瓦解したならば、繰り返して、スフィアが集って。

 やがて、数多の光の筋がゆっくりと消え去ったなら。

 地の鳴りも、土煙も失せて、……マキナの巨人はいなくなった。

 「……。」

 その光景に、何も言えないでいる。

 「!」

 音が微かに響いたなら、俺を主として、沢山のスフィアたちが集ってきた。

 とても、俺じゃ持ちきれない量だ。

 それら、ゆっくりと地に降りて、まるで、跪くようで。

 静かな音を立て、眠るように光を失っていく。

 《状況終了。敵影ゼロ。監視モードへ移行。》

 同じくして、盾もまた、静かになる。

 開いた表面を閉じ、板も格納したなら、いつもの、小さな盾に戻って。

 スフィアたちの清らかな音色が遠退いたなら、やがて静寂が辺りを覆った。

 「……。」

 その情景に、何を言おう。言葉が思い浮かばない。

 「……うぃ、〝ウィザード〟……っ!」

 誰かが思い浮かべた、その誉れ高き名称、紡がれて。それは、例の幼子から。

 「!」

 聞いていたアビーはまた、瞳を期待に丸々とさせたなら。

 「すっごーい!うぃざーどだぁ!!!」

 飛び上がるような喜びようで、幼子と同じ言葉を繰り返した。

 「……ウィザード……ですってっ……?!」

 ようやくこちらに合流した、マフィンが震える声で言う。

 瞳は驚愕しており。

 先ほどの光景が、夢でも見ていたんじゃないかと言わんばかりだ。

 「がはははっ!すっげぇなおい!!」

 「まさか、君がねぇ……。」

 「へぇ~~。」

 感嘆の声と共に、姿を現すレオおじさんと、番台さん、ヤグさん。

 「……。」

 俺はマフィン以上の驚愕だ、我を失っていて、応じることができないでいる。

 手は震えている。正直、何をしたのか分からないままで。

 「?!」

 「がっははははっ!すっげえじゃねぇか、おい!」 

 ドンと、思いっきり肩をレオおじさんに叩かれる。

 歓喜の声が響く。その衝撃で、思考が動き出してきた。

 「わ~い!うぃざーどだぁ~!」

 「?!」

 そうなったけれども、今度はアビーが抱き着いてきた。

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