▲▲つ28っ! せんじょうだぁ!

 代わりに、よく皆を見たなら。

 レオおじさんはもとより、番台さんもヤグさんも腕っぷしがありそうだ。

 「なあ、皆強そうだな。」

 そっと、呟くように感想を。

 「ねー。」

 アビーが拾ってくれた。

 「おうよ!俺ぁ村一番の男だからな!力仕事なら任せろ!」

 「あたしたちなら、どんな重い物も大丈夫さ!」

 先の三人も拾ってくれた。

 言って、レオおじさんは力こぶを、他の二人は、腕を捲り上げて見せる。

 ……頼もしそうだ。

 「さあ、行くわよ!深い話は中でしなさい。」 

 「!分かった。」

 いつの間にか、バンに乗り込んでいたマフィンが言う。

 クサバさんは運転席に乗っていることから、運転手のようだ。

 指示に頷き、俺とアビー、他の人たちも乗り込んだ。

 村入り口から、道をバンは進む。さながら、木々はトンネルで。

 入り口が遠く離れていく、流れに身を任せて、それを目にして。

 「……。」

 遠くなる入り口に、描かれた看板に目が留まった。

 書かれてあることには。

 〝ようこそどうぶつえんへ〟だった。

 多分、あの村はそう呼ばれていたのだろう。

 傷み具合から、相当な年月は経っているみたいで。

 それが見えなくなったなら、また木々のトンネルばかり。

 しかし、離れていくにつれて。

 道が次第に舗装された、アスファルトへと変わっていく。

 「!」

 やがて、流れる風景に、建物の上部が目に付いてきたなら、息を呑んだ。

 長閑であった先の村とは違い、コンクリートの屋根に、加えて太陽光パネル。

 風力発電用の風車が目立ち、また、空を飛び交う飛行機の群れも見えた。

 かなりの都市、そう判別する。

 「?」

 ふと、横にいたアビーが、俺の横っ腹を突く。

 振り向くと、俺が見ていた方向とは逆の方向を指さした。

 「?何だい?」

 「えとね、あそこにね、大和ちゃんを見つけた、秘密基地があったの。」

 「!」 

 そっと、優しそうに説明しては、微笑む。

 はっとなり俺は、よく探したものの、それは見えない。

 俺を見付けた場所、それは、この体のスタート地点、転生が成された場所。

 そう感じると、……感慨深い。

 そこから、アビーは俺を背負って、あの村まで帰ったのだ。

 つい、アビーに目を向けてしまう。

 アビーは、首を傾げて、どうしたのと言いたげだ。

 「ええと、その、あの時ありがとう。」

 そういうアビーに、ついお礼を告げる。

 「?どうして?」

 アビーは首傾げのまま、聞いてきて

 「いや、あのままあそこにいたら、俺はどうなっていたのかなって。」

 「……うーん。分かんないや。」

 「……そうだな。」

 続くことに、どうなっていたのだろう。

 しかし、アビーが明確に答えられるわけでもない。

 いいや、答えなんて、ないのだろう。

 「……けどさ、だったら。」

 「?」

 「俺を見付けた時、一体アビーは何してたの?」

 切り替えとして、なら、アビーはあの時何をしに来たんだろう。

 まだ首傾げ状態だが、ピンときたようで。

 「あの時も、スフィア狩りだよ!けどね、見つからなくて……。でも、同じ猫の子が泣いているのを見て、守りたくなって、えへへっ、連れてきちゃった。」

 回答、それは、今日と同じ、スフィア狩りの最中のことで。

 アビーはそうして、心配になってわざわざ俺を連れて帰ったのだ。

 「……。」 

 聞いていて俺は、何だか余計、胸の奥が熱くなり。

 「……ありがとう。」

 言葉が漏れる。耳にしたアビーは、また首を傾げ。

 「変な大和ちゃん。」

 そっと笑っては、呟いた。


 やがて風景は変わり、摩天楼のひしめく底を走るようになる。

 「ぅおー!!」

 「……これは、すごいな。」

 感嘆の声が俺とアビーから漏れる。

 「はははっ。どうやら町に入ったようだね。どうだい?なかなか、見るものがあるだろう?」

 運転席のクサバさんが、笑いながら言う。 

 俺は頷く。

 「だがな……。ここよりもすごい所はあるんだぞー。もっと大きなビルが立って、それこそ、見上げたら首が痛くなりそうだ。ははは。」

 続けて、笑うクサバさん、まるで、休日のお父さんみたいだ。

 釣られて笑い、流れる景色を見続ける。

 俺たちみたいに、車を走らせる人たちが見え。

 さらに上空には、空飛ぶ車まで行き交う。

 別世界の様相に、正直驚かされるばっかりで。

 遠くに見える商店街、人々の喧騒さえ聞こえてきそうで。

 なお、獣の耳をしている人たちも、そうでない人たちも均等に存在していた。

 「……。」

 平和な情景だ。つい、そっと優しく微笑んでしまう。

 だが、ここが目的地ではない。

 車は停まることなく、やがて、信号一つない、車線も多く。

 幅広い道路に入り、その速度を上げた。

 いわゆる、高速道路だ。 

 真新しく舗装されたもののようで、アスファルトの独特な匂いがしてきそうだ。

 別世界と言えど、そこは前世と変わりなく。ふと安心感が増していく。

 「……?」

 一方で、クサバさん含む他の人は、やけに緊張した顔になる。

 高速運転だから、速さへの緊張なのかと、思ってしまうものの、違う。

 「……?なぁに?」

 その緊張と相まってくる沈黙に、耐えかねたわけではないが。

 ちょっとした疑問に俺は、アビーを突いて聞いてみる。

 「……何か、皆緊張してない?」

 「う~んとね、これから先に、戦場があるからじゃないかな?」

 「……そうか……。ありがとう。」 

 「えへへっ。いいよ。あたしも、ちょっと苦手なんだ。緊張するの、何だかあたしらしくないし。」

 「……だな。」

 軽い会話で、緊張の空気を緩和させる。

 アビーらしい言葉、幾分か緩和されたようで。

 なお、この先に戦場があるらしく、皆緊張しているのだとか。

 その緊張が、戦場の空気からならば、……想像して俺は唾を飲み込む。

 危険と耳にしているが。

 ここにいる人たちが皆、緊張するほどのことだ、余程な情景なのだろう。

 車は、摩天楼支配する、さながら群晶の町を背に。

 また、山肌の見える景色の道を突き進んでいく。

 目新しい物のない、景色に、次第に飽きが来て俺は、首をかくんとさせてしまう。

 そうしたなら、意識が飛んだ。


 「!」

 「うにゃぁ?!……じゅる……。」

 またがくんと首が動いたなら、意識が戻る。

 ……隣にいたアビーも衝撃で声を上げたが。

 涎をすする音がしたことから、もしかしたらアビーもまた、意識を飛ばして。

 いいや、寝ていたのかもしれない。

 「アビー、大和、着いたわ。……それにしても、呑気なものね……。」

 目的地に着いたとマフィンは言って、ついでに、俺たちの様子に呆れる。

 「……ああ、うん。分かった。……その、ごめん、寝てた……。」 

 「……てへっ……。ごめんね、マフィンちゃん。」  

 何だか申し訳ないや、詫びを言うものの。

 マフィンは首を横に振って、気にしていないと言わんばかり。

 「なぁに!気にすんな!休める時に休む!それが俺たちビストの生き方よ!」

 レオおじさんが俺たちの様子を見て、咎めることはせず。

 豪快に笑いながら、フォローをしてくれた。

 「そうだよ、気にしなくていい。それだけ安心できるってことだ。」

 クサバさんも、そっと笑っては。

 申し訳なさも、そうしたら和らいで。

 「分かった。」

 到着したことに頷いたなら、バックパック背負い。

 手袋装着、バンから降り、その地を踏んだ。

 「うわっ!」

 途端顔に掛かる土煙。何か、焦げたような臭い。微かに高い、温度。

 煙晴れたなら、見える景色は、長閑のそれではない。

 まさしく、戦場だ。

 辺りに広がるのは、残骸。

 大小様々な金属塊が転がり、マキナ、ないし、他兵器たちの亡骸。

 煙を上げている物もあり、様子から時間がそれほど経っていない感じだ。

 「……。」

 幸い、〝死〟が転がっている様子はない。

 それは、凄惨なこの状況における、唯一の救いだろうか。

 無言で、見渡していた。

 「ちょっと!女性陣は避難した方がいいって、どういうこと?」

 「!」

 マフィンの驚愕の声がする。

 向いたなら、俺たちとは別の人と、話をしているようで。

 その対峙する人は、バンで来たメンバーじゃない。服装も、違う。

 その人の服装、それは、軍人のそれ。

 迷彩柄で、その服の上から、装甲のような物を装着している。

 戦場において、見掛けられる服装だ。

 二の腕付近には、国章だろうか、施されている。

 国章、円で象られた五つの花弁の花と、取り囲む二重丸。

 よく分からないが、所属している組織を示す。

 また、普通の人じゃない。獣の耳があり、ビストだ。

 銀色の髪をして、かつ、耳は猫とは違う、……狼?だろうか。

 その人が、マフィンと何か応対している。

 また、汚れ具合といい、ついさっきまで戦っていたという印象が伺い知れた。 

 「……詳しくお話を聞かせてください。」

 話は続いているようで。その軍人と何か、話し合っている。

 時折頷いては、話が進んでいるようで、滞る様子はない。

 「……分かったわ。」

 「がははっ!気にすんな!そんな奴、俺がこの腕でぶっ飛ばしてやるよ!」

 話が終わり、マフィンは頷く。

 近くで聞いていたレオおじさんは、腕を上げ、力こぶ見せて。

 豪快に笑い飛ばしていた。

 兵隊さんは、苦笑を隠し、分かったと頭を下げている。

 「ほぇ?〝狼の人〟?」

 「やっぱり?」

 俺の近くにいたアビーは、呑気に呟く。やっぱりかな、とこちらも思った。

 さっきまで兵隊さんと話をしていたマフィンと、レオおじさんが戻ってくる。

 マフィンは何か不安そうな顔でいて。

 「何かあったのか?」

 その様子に、問い掛ける。

 「それを今から言うのよ。」

 「……分かった。」

 そう質問されると予想しており、マフィンは語りだす。頷いて聞き入った。

 「……何でも、町で若い、それも年頃のビストの女性が誘拐されているの。丁度、私やアビーみたいな感じね。それより上となると、確実に狙われるって。」

 「……また何で?しかも、女性?」

 「詳しくは分からないけれど、帝国に、実験体として拉致されている、という情報があるらしいわ。……女性を使う実験って、……何かしらね。」

 「……。」

 嫌に暗いマフィンの言葉、不安さえ、溢れてきそうで。

 俺は、黙して聞きながら、また、唾を飲み込んで。

 「だから今、ビストの女性が迂闊に外に出ないよう、まして、こんな場所に来ないようにしているらしいわ。だから、共和連邦の兵士たちも、結構神経尖らせているのよ。」 

 「……なるほど。」 

 詳しくは分からないが、女性が拉致される事態があり。

 そのため、警戒している、と。

 だから、さっきあんな風に、声が荒げて。

 「ん?ということは、さっきの兵隊さんは、共和連邦の?」

 浮かぶ疑問、さっきまで話していた兵隊さんについて。

 「そうよ。あの、二の腕にあったマークが、その証。」

 「へぇ。なら、覚えておくよ。」

 共和連邦らしい、覚えておく。マフィンの丁寧な説明に、頷いて。

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