▲▲つ27っ! しゅっぱーつ!
レーセを手に、下に戻ったなら早速準備をする。
服を整え、バックパックを背負い。
アビーも同じく整え、ポシェットを腰に、さらに手には、手袋を付けた。
これで、いつでも出発できる。マフィンが来るのを待つだけだ。
そう思っていたその時に。
「ん、そう言えば……。」
ここで、肝心なことに気づく。
それは、アビーがなぜこれらを探していたのか、ということだ。
「これ探していたのって、何で?」
聞いてみた。
「あれ?!あたし、説明してなかった?」
「ああ。」
驚くアビー。
俺もまた、そう言えば何で聞いていなかったんだろうと。
今更ながら思ってしまった。
「うぅ~……。」
軽く唸り、悩む。頭を抱えて蹲る。
立ち上がったなら、少々申し訳なさそうな顔を見せて。
「ええとね、マキナって硬いから、切断するために、なんだよ。ごめんね、説明し忘れていた。」
「いや、いいよ。まだ、出発はおろか、マフィンも来ていないし。」
簡単な説明と、忘れていたことへの謝罪。
俺は別に、謝罪を必要とすることじゃないよ、と手で制した。
「説明ありがとう。スフィア狩りって、そんな簡単にはいかないんだな、それが分かったよ。」
フォローと感謝を込めて、俺は頭を下げる。
納得もする。それほど硬いのだから、これは必要なのだろうな。
例えば、硬い装甲の中にあったなら、うかうか爪で切断するわけにもいかない。
そんなことしたら、この前のように、爪が破損してしまう。
これならば、その際手を怪我せずに、簡単に装甲を開けられる、なるほど。
「……?」
ふと思いもする。
どこか映画みたいに。
こんな、光を発する剣で、チャンバラしたりすること、あるんだろうか、と。
「……話変わるけど。」
「?」
「これで、チャンバラ、ええと、レーセ同士で斬り合うようなことする人って、いた?」
「えー?!」
「……?」
話を変えて聞くに、アビーは何か、ピンとくるものがあるようで。
変な叫びに、疑問符を浮かべる。
「ええと、普通しないよぉ……。だって、れーせの説明書に、〝斬り合ってはいけません〟って書いてあるもん。」
「……する人はいなかったんだな。」
「危ないよぉ。火花も散って、光もすごくて、眩しくて……。」
「……だな。分かった。」
取扱説明書には書いてあるらしく、危険だから普通しないとのことだ。
「……と言うことは、他にも取り扱いについて何か書かれてあるんだな。今、ある?」
では、説明書があるなら、気になってもくる。
他にも何か、使い方が分かれば、俺も扱いやすくなるだろう、続けることには。
「うっ……。」
アビーは聞いたなら、顔を青くした。
「……まさか……。」
その表情に、嫌な予感がした。
「……笑わない?」
「?あ、ああ。」
これから言うことに、笑わない?と問われ、俺は笑わないと頷いた。
「……ごめんね、なくしちゃった……。」
「……。」
アビーは続けた。俺は、一瞬思考が止まる。
「ええと、つまり……?」
「ごめんね、使い方が難しくて、使わなくなって、放っていたら、どっか行っちゃった……。」
「……。」
問いの先に待つ答え、紡いだならアビーは頭抱えて蹲ってしまった。
聞いていて、申し訳なくなり、沈黙が走る。
「ごめん、聞かなかったことにするよ。……元気出して。」
その落ち込み様は、相当と思い。
俺はフォローのつもりで、元気付ける言葉を掛ける。
アビーは無言で、頭を横に揺らすだけだ、顔を上げてくれない。
埒が明かない。
この時に、らしくないアビー、どうやってマフィンに会おうか悩んでしまう。
「……アビー、大和、起きてる?」
「!」
光明が差す。
マフィンの声と、戸をノックする音が響き。
耳にしたなら、俺は救いと思い、ぱっと顔を上げた。
「起きてるよ。」
戸に近づいて一言。
開けたなら落ち込んだアビーを励ます〝希望の光〟を迎え入れる。
「?!」
唐突に開いたそれと、また、感じ取った雰囲気に、マフィンは目を丸くした。
「……おはよう、マフィン。ええと、アビーがちょっと、レーセの説明書なくして、がっくりしてさ……。」
彼女から挨拶や、理由を問われるよりも早く。
俺はマフィンに言った、救いを求める一言を。
「……ええと、こちらこそ、おはよう……。」
いきなり俺から話したことに、驚きを隠せないようで。
マフィンはやや後退しながらまず挨拶を。
ちらりと後ろのアビーを見て状況把握、驚きから。
呆れに変わったなら、ジト目になり、奥へ行く。
慰めるために頭でも撫でてあげるのか?いや、何か違う。
指でツンツン突いていた。
「……もしかして、バレてた?」
蹲っているアビーが漏らす。
「当たり前でしょ?底なしに明るいあなたが、そうするとは思えないもの。」
呆れた物言いでマフィンは。
そうしたらアビーは顔を上げて、にへらと笑みを浮かべ。
いたずらっぽく舌を出す。
「てへっ。ちょっとした、演出演出。いつもとは違うアビーちゃんを目指してみました。」
そう言ったアビーは、やはりいつも通りで。
俺は、ほっとする。
だが、マフィンは、無言でアビーの両頬に手を付けたなら、引っ張る。
「?!」
「……たてたてよこよこまぁるかいてぴょんっ!」
「痛い痛い痛い!!」
引っ張った上で、変な歌一つ。
縦横引っ張りグリグリと円を描いたならぱっと手を離す。
痛みにアビーは、涙目になって訴えてきた。
「!」
流石にやり過ぎでは、そう言おうと思うものの。
「うん。いつも通りね。」
マフィンはアビーのそんな様子を見て、にっこりと笑い。
いつも通りと納得してみせた。
両頬をさすりながら涙目のアビーは、恨めしそうにしてマフィンを見るものの。
訴えは一蹴され、それよりも当初の目的果たしなさいと、逆に訴えられる始末。
目的、それはスフィア狩りに行くこと。
「!分かった。」
そのため俺は、頷き、最後準備を整える。
両手に例の手袋をはめ、盾の入ったバックパックを背負った。
また、アビーから渡されたレーセも、腰にある引っ掛け部分に取り付けた。
アビーは渋々整えている。
「全く、いつも通り、緊張感はないわね。」
腰に手を当て、呆れ顔のマフィンは呟く。
「えー……。緊張したって、上手く進むとは限らないもん。あたしはあたしだから、マイペースっ!」
言われたアビー、ガッツポーズしながらにっこり笑顔。
「それと、ねっ!緊張しないでしょ?」
「!」
俺に目配せ、ウィンクも添えて。俺はハッとなってしまう。
どうやら、俺の緊張ほぐすための。
ちょっとしたパフォーマンスのようだったのだ。
「そう……か。」
ぽつりと呟いたなら。
「ありがとう、アビー、それとマフィン。」
そっと笑って言った。
マフィンは戸惑ったが、分かったという感じで彼女も微笑む。
アビーは元から笑顔で。
そう、いつも通り、緊張はない。
「気持ちの準備は整ったようね。それじゃ、行きましょう。」
マフィンの掛け声に、俺とアビー頷いたなら、スフィア狩りに出発する。
何も、歩いて向かうわけではないようだ。
村の外れ、出入り口、そこにバンタイプの車が停まっている。
また、多く人がいることから、他にも何人かスフィア狩りに向かうようで。
「おー!アビー、大和、マフィン!来たのか!がはははっ!」
その内の一人、大男が振り返るなり、言葉を掛けてくる。
お得意の、豪快な笑い飛ばし。
それは、レオおじさんだ。
俺、アビー、マフィン、それぞれ頭を下げて挨拶を。
「ほう、マフィン。その男の子が、例の……。」
「?」
また一人、ぬっと影を現した。優しい瞳で、背が高い男。
ただ、レオおじさんとは違って、スマートな体つきだ。
生えている耳は、馬のようで。
「!あ、クサバさん!おはよー!」
「!その人が……。」
クサバさん、その人は、確か、草履を編んでくれた人。
アビーの手振り付きの声で判明、気づいた俺は、アビーに合わせ、頭を下げる。
「そうだよ!大和ちゃん!」
「……噂には聞いているよ。虎猫で、しかも、ウィザードになると公言しているってね。ふふふ……。私も楽しみだ。」
「?!」
続くことに、俺の紹介を。ただ、話に違和感があり、ぎょっとする。
それは、俺が公言したことになっていることになっている。
〝ウィザード〟という単語。
誰だろうか、と気になって俺は見渡す。
クサバさんを見ても、俺だと知って、楽しみに笑うだけで。
「がっはははは!!モンスターを倒したって言うんでな、もう村中噂だらけだぜ!」
「……。」
高らかに笑い飛ばすレオおじさんを見て、……確信する、この人だ。
咎めはしないが、何だかなと、思ってしまった。
「へぇ!あんたたちも参加するのかい!」
「!あ、番台さん!」
またもう一人、顔を出したなら、番台さん。
「おー!虎ちゃんの言ってたの!」
「?」
またまた、顔を出す。
今度は、……虎柄っぽい毛髪だが、何か違う人。輪っかみたいな模様もある。
……誰?
「あ!番台さん、とヤグっち!おはよう!!」
傍ら、アビーが指さすことに、一人は虎の人。
もう一人謎の人を指さして言い、挨拶交わす。
「……ええと、もう一人は、誰?」
俺は聞いてみる。
「ん?もう一人って、ええと、ああ!」
番台さんの隣の人、示したならアビーは頷いて。
「〝ジャガーの人〟。あたしはヤグっちって呼んでるの!」
「……そ、そうか。」
ジャガーの人らしい。説明を聞いて頷いたなら、向き直り。
「その、虎猫の大和です。よろしくお願いします。」
「ん!ああ!よろしく!いつも虎ちゃんから聞いてるよ!この間、薬草沢山採取してきたってね。ありがとう!」
初めての人だ、俺は自分で紹介したなら、相手も頭を下げて。
さらにお礼まで言ってきた。
「?」
俺は、薬草採取は、番台さんに頼まれてやったのであって。
そのヤグさんには関わっていないはずだが。
「あ、言ってなかった!あたしも実は、銭湯で働いてるんだ!へへっ!」
鼻で笑って付け加えて、なるほどと俺は納得する。銭湯の、従業員だったんだ。
分かったと、俺も頭を下げた。
「ついでに言うと、あたしと虎ちゃんと二人で、〝アマゾネス姉妹〟って呼ばれているんだ!」
「はぁ……。」
付け加えることに、俗称もあるみたいで。ただし、違和感が。
「ええと、マフィン……ちょっと……。」
「?」
「ジャガーはそうだけど、虎ってアマゾンにはいないよね?」
違和感それは、名称へのツッコミ。
俺はマフィンに寄って、耳打ちしてみることには。
「……この際、それは聞かないことにしておくわ。本人たちが言っているの、もうそういう風に広まっているし。」
「……分かった。何も気付かなかったことにするよ。」
マフィンの回答に、俺はもうツッコむのをやめた。
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