▲▲つ25っ! すふぃあがりだぁー!

 「さあ、練習終わったから、これから昼食よ!さ、行きましょう!」

 切り替えたことには、今日の昼食に。手をパンパンと叩き、場をも切り替える。

 「!」

 気づいたアビーは、また耳を立てて、興味津々な様子を見せて。

 しがみついていていた木から離れ、スキップ越しにこちらに向かう。

 「わーい!お昼お昼~!」

 耳にした単語を口にしながら、楽しそうに。

 どうやら、昼食を採るということに強い反応を示したようで。

 先ほどの、ウィザードという単語以上の反応だ。

 「……。ウィザードならまだしも、食べ物に反応するなんて……。」

 傍にいたマフィンは、頭痛を起こしたようだ、頭を抱える。

 アビーのその能天気に、俺は苦笑を漏らした。


 それから、スフィアを片付け、マフィンの家に戻ったなら、早速昼食をと。

 マフィンは台所に向かい、俺もアビーも追従。

 赴いたなら、早速その支度が始まる。

 食材は備蓄されたものがあり。

 また、マフィンはスフィアを扱うように手を宙で動かしたなら。

 意思を持っているかのように、台所中の、道具という道具が動き出した。

 「!」

 その光景に息を呑む。

 なぜかとよく見れば。

 包丁やまな板、お玉の先端などに、小さく一点、光り輝く物が見えた。

 スフィアだ。

 スフィアを搭載した道具たちは、マフィンに指示されるままに。

 手際よい人がそうするように動いていた。

 あっという間に、食材は切られ、細かく、あるいは大きく。

 つまりは適した形になり、鍋やフライパンに投入されていく。

 火加減さえ、マフィンの指示で自動的に調整されていく。

 マフィンがそれでいて、自分自身ですることがあるとすれば、味付けだ。

 手慣れたもので、調味料を各種取り出したなら。

 さっと投入、すぐに適切な味付けを施せたようで、頷く。

 「……。」

 俺は、呆然としてそれを見つめていた。

 スフィアって、あんな風にも扱えるんだと、思うと。

 素直にすごいと思ってしまう。

 「!あ、あれ?」

 傍ら、アビーはお皿を持ってきている。

 マフィンの動きに合わせて、そろそろ仕上がると見越してか。

 見て、遅れて俺は声を上げた。

 「マフィンちゃん!持って来たよっ!」

 「ええ、ありがとう。」

 「えへへっ!」

 立ち込める炊飯と、料理の香りに上機嫌のアビー。

 とびっきりに笑顔を振りまいて言ったなら。

 マフィンに言われ、その笑顔はより輝く。

 用意されたお皿に、マフィンはお玉や、へらを用いて器用に配膳していく。

 「!」

 呆然から我に返った俺は、盛られていったそれを手に。

 居間に運ぼうとしたなら、アビーと手が触れ合う。

 「!!」

 「えへへっ!」

 手が触れ合ったことに、少し顔が明かるなる。

 アビーは気にせず、いつもの朗らかな笑顔のままで。

 「一緒に持って行こっ!」

 言って、首を傾げてくる。

 俺は静かに頷き、アビーと一緒に、お皿に盛られた料理を運んで行った。

 そのタイミングで、居間に現れたのは村長さんだ。

 慣れたか、驚かなくなってきたものの。

 一体いつもどこにいるんだろうか、気になってくる。

 俺は、料理を置いたなら、深々とお辞儀を一つ、向けて。

 「うむ!」

 その一声だけ、村長は発し頷いたなら、上座へ。

 最後に、マフィンが料理を手持ちしたなら、食卓に着く。

 そうして、昨日と同じように食卓を囲んだ。


 食事を終え、片付け帰路に。

 「待って。」

 「?」

 その時マフィンに止められる。振り返り、マフィンを見たなら。

 「渡すものがあるの。」

 「?分かった。」

 何か渡すものがあるようで。俺は、マフィンに歩み寄る。

 そうしたら、彼女はそっと自分の背中に手を回し、まさぐったなら。

 手袋と、スフィアを取り出した。

 スフィアの大きさは20mmぐらい、手袋は、手にフィットする物のようで。

 「……これは?」

 「スフィアは、あなたが昨日持ってきた原石を切り出したものよ。手袋は、一介のスフィア使いの証。手を怪我したら、上手く扱えないでしょ?」

 聞くにこれらは、俺のために用意したもので。

 スフィアは、俺が昨日持って来た原石を切り出した物のようで。

 手袋は、単純に手の保護だろう。

 「ありがとう。」

 手渡されたそれを、俺は手に取って、お礼を述べて。

 「……?」

 それから、手渡された物の内、手袋をよく見たなら。

 単純な手袋ではないことに気付いた。

 手首部分に、装飾のように小さなスフィアが施され。

 また、爪の部分を保護のためか、やけに厚い何かが。

 それでいて、指先自体は不自由なく動かせる、特殊な手袋だ。

 不思議さに首を傾げた。

 「不思議そうな顔をしてるわね。どうしたの?」

 「いや……。この手袋、何だか不思議でな……。」

 聞かれる。

 「まあ、それは私たちみたいに、〝爪〟を使う人用で、かつ、スフィア、他道具を使う人向けの物だから。私も持っているもの。」

 「……あ、はぁ……。」

 不思議なそれについて、深く聞いてみようとしたなら、マフィンは答えて。

 同じような手袋を取り出した。

 俺は、見て、しかし不思議を拭えずに生返事に。

 「……こうしたら、手を怪我せずに済むのよ、ほら。」

 マフィンは、生返事の俺に見せるように。

 自分の手に手袋をはめたなら、発光させる。

 手袋は光の膜に包まれた。

 「……。」

 見とれる。

 「叩いてみて?」

 「え……?!」

 横腹を突くように言われ、ぎょっとする。

 そう言われても、何のことだか分からないでいたが。

 マフィンの顔に滲み出る自信に、頷かざるを得ない。

 「……分かった。けど、痛かったらごめんな。」

 そうして、彼女の手を思いっきり叩くために、振り上げて、はたいたなら。

 「いっでぇ?!」

 光の膜に弾かれた挙句、……痛みが俺に来た。彼女は平気そうにしていて。

 叫んだ俺は、軽く涙が出そうになる。

 「痛かったでしょ?ごめんなさいね。」

 「……ぬぅ。」

 さっき俺が言ったことを、言われ、少し複雑だ。

 「こうすると、手を保護できるの。あなた、昨日思いっきりケガしてたじゃない、爪が割れてね。」

 「あぁ……。なるほど。……確かに。」

 「そのためのものよ。きちんと使いなさいよね。」

 続く保護具であると証明、俺は痛み消えぬ表情でも納得。

 その手袋があれば、あのドラゴンを相手にした時でも、爪が割れずに済むそうだ。

 きちんと使いなさいねと、付け加えに俺は頷いた。

 「ありがとう、マフィン。色々と……。」

 お礼を言って、ようやく俺とアビー帰路に。

 手を振って、マフィンにさよならを告げた。アビーもまた、同じように。

 「……待って。」

 「……?」

 呼び止められること、テイク2。

 何だろうと、また振り返ったなら。

 「言い忘れていたことが一つ。明日も、アビー訪ねるわ。」

 「?いいよぉ。」

 明日の予定をと、アビーに行ってきた。アビーは何の疑いもなく頷く。

 「……。」

 それで終わりではなさそうで、ただ明日の。

 アビーを訪ねるだけではない様子をマフィンは見せる。顔が、少し曇っていた。

 「マフィン?」

 その様子に疑問が浮かんだ俺は。

 理由を聞くためにまず、彼女の名前を口にしてみた。

 そっと、視線を俺とアビー、交互に見たなら。

 「明日、〝スフィア狩り〟に行こうと思うの。あなたたちがよければ、だけどもね。」

 不安が見え隠れする声で、言う。

 「!」 

 「!!」

 俺はその単語に、ピンとくる。

 ……いや、だけじゃないアビーもまた、ピンときて、加えて、目を輝かせる。

 スフィア狩り。

 アビーから聞いた話で。

 戦場に赴いて、廃棄されたマキナからスフィアを回収する作業。

 アビーは、その時、言ったなら楽しそうにしていたが。

 なお、マフィンの表情の曇りからは、生易しいものじゃない。

 危険だという不安が、見え隠れする。

 「スフィア狩り行くのっ?!いくのっ?!うわーい。」

 「……はぁ……。何だか、バカバカしくなってきたわ。」

 「……ははっ……。」

 その見え隠れしていたマフィンの、危険への不安さえ掻き消してしまう。

 子供のようなアビーの明るさに、頭抱え、マフィンは溜息を洩らした。 

 俺は苦笑するしかなく。

 「……そう言えば、危ないのか?」

 やがて子供のようなはしゃぎように発展していったアビーを横に、俺が一言。

 アビーからは楽しさしか伝わらない。

 では、他の、マフィンはどうなのだろう、先の不安な表情も気になりはする。

 「下手したら、大怪我するわよ。そりゃ、直接戦地に赴いて、戦闘行為をするよりはましでしょうけれども。」

 「……なるほど……。」

 マフィンが簡単に言うには、ケガすることはあるとのこと。

 アビーの説明でふんわりしたものが、ややはっきりしてきた気がする。

 そうして、俺は頷く。 

 「ありがとう。それじゃ、明日。」

 「ばいばーい!マフィンちゃん!」

 明日の予定を聞いた所で、俺とアビーは直り、見送るマフィンに挨拶を。

 隣のアビーは、大きく元気に手を振って、やっと帰路に。

 家の方に向けて、歩き出したなら、……俺はまたマフィンに振り返る。 

 「……。」

 無言で、視線を合わせたなら。

 「……もう何もないわよ。早く帰って、休んでなさいな!」

 マフィンからの言葉が飛んできた。

 返事には、アビーと同じように手を振って。

 またまた足を家路に合わせたなら、歩き出した。


 道中俺は、今日習ったことを復習するように、スフィアを。

 それも、マフィンからもらった分も含めて複数、光らせ、宙に浮かせていた。

 ついでに、もらった手袋も、光らせ、装着してみる。

 「あっはは~!スフィア狩り、スフィア狩り!」

 一方のアビーは、スフィア狩りと聞いて、舞い上がっている。

 スキップしながら、鼻歌交じりに。

 「!」

 気まぐれ猫さんよろしく、アビーは止まったなら。

 俺をちらりと見ては、また嬉しそうに微笑む。

 「……。」

 くるりと反転しては、また鼻歌を始める。俺は、何だったのかと首を傾げ。

 「うぃざーど、うぃざーど!」

 ただし、鼻歌の内容は変わり。

 スフィアの使い手の最上級にして、最高の誉れ名を。俺は、コメントできない。

 軽く恥ずかしいことと、コロコロ変わる行動を見て、少しだけ頭が痛くなる。

 抱えたのと同じタイミングでまた、アビーは足を止め、俺に振り返る。

 「やっぱり、うぃざーどじゃない?えへへっ!もしそうだったら、あの時からのあたしの考え、合ってるのかもね?」

 「……どうだろうね。俺だって、本格的に扱ったのは今日だし。」

 スフィアの使い方について言ってきたが、俺としては相応しくないような。

 アビーの意見に、俺ははっきりしない物言いで返す。

 「そうかな~。すぐ上手くなって、うぃざーどになれそうだよぉ。」

 「……。」

 おだての上塗りで、返してきた。俺は何も言えず。

 「!」

 ならばと切り返しに、閃きが一つ。 

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