▲▲つ22っ! おうちにくるって

 「あ~……家は……。」

 知っての通りだが、この村に、俺が所有している家はない。

 言葉濁して、俺はアビーを見る。

 「えっ!マフィンちゃん、あたしの家にくるのー?いいよー!」

 俺の目配せに気づいたアビーは、耳を立て、笑顔で了承してきた。

 「アビーには……っていいわ。別に、大和と二人で何かしたいってわけじゃないし。それじゃ、アビー、明日あなたの家に行くわ。」

 アビーの言葉に悩み、聞いていないと言いたげだが。

 言葉を区切り、そもそも俺が自分の家を持っていなくて。 

 また、アビー抜きで何かしたいわけでもないと、予定を告げた。

 

 支度を済ませ、俺とアビーは、帰路につこうとした。

 振り返り見れば、見送りのマフィン。 

 「その、今日はありがとう。……また。明日……。」

 そっと、今日何度目かのお礼を告げる。

 「ふふっ。真面目ね。いいわよ、気にしなくて。それじゃ、明日また。」

 そっと笑い、小さく手を振って俺とアビーを見送る。 

 「マフィンちゃん、今日はありがとー。えへへっ。また、明日ね!」

 アビーは、言って手を振って応えた。にっこりと、明るく笑顔も添えて。

 俺たちは帰路につき。

 また、マフィンはその、俺たちの姿が見えなくなるまで手を振っていた。 

 その道中、アビーは非常に上機嫌で、スキップまでしていた。

 「今日のご飯、とっても美味しかったね!」

 「ん、そうだね。」 

 跳ねながら俺の前に出て、にっこりと笑いながら言う。

 俺は相槌を打って。

 「いつも、マフィンちゃんはお料理上手だけど、今日は、本当に今日は美味しかったなぁ。」

 「?そう……か?でも、何で、重ね重ね。」 

 やたら美味しいを繰り返して、笑いながら言う。

 それで、重ね重ね、美味しいと言ってくる、その理由は?

 聞いていた俺は首を傾げる。

 「だって、今日は大変な日だったんだよ?倒せなかったらあたしたち、死んでいたかもしれないもん。だから……っ!」

 「なるほど。」

 似合わない真剣で告げるその理由。

 俺たちはあのまま、死んでいたかもしれないのだ。 

 生還したなら、その味は生きているという証と相まって。

 何倍も美味しく感じられた、と。

 ……ただ、最後途切れてしまったのが、少々残念だが。

 それでも補完できた。俺は、同意として頷く。

 「えへへっ……。」

 言い終えたなら、慣れない表情やめて、慣れたいつもの笑顔に。

 見た俺も、頬を緩ませた。 

 「よぅし!それじゃ、気分転換に銭湯だぁー!」

 いつもの笑顔になったなら、次の予定を言う。

 いきなりかもしれないが、それはいつもの彼女らしく。

 背を伸ばし、空に手を元気よく突き上げた。

 「そうだね。」

 予定に納得を。

 頷いたなら、アビーは笑みを浮かべて俺を見て。

 前に向き直ったなら、その足を銭湯へ向けた。

 俺もアビーのその姿を追うように、足を速める。


 銭湯に着いたなら、アビーは戸を開くなり。

 「番台さん!今日も来たよー!」

 開口一番に、嬉しそうな挨拶を一つ。

 「!」

 アビーの元気な声に、気付いた番台さんは、顔を上げて。

 入り口にいる俺たちに視線を向けた。

 向けるなり、歓迎の、しかし、いつも以上。

 例えば、テレビとかに出てくる有名人が訪ねてきた、笑顔も添えてきた。

 「?」

 どうしてだろう、俺は首を傾げる。

 「ああ、色々と聞いているよ。鉱山にいた化け物、倒したんだってな。レオのおじさんが言って回っていてねぇ。もう、村中噂で持ちきりよ~。」 

 「!!」

 その理由、それは化け物を倒した、ということのようで。

 どうやら、ここにまで話が回ってきている。

 回りの速さに、俺は目を丸くした。

 その上で、噂されていることに、少し顔を赤くする。

 「えへへっ!!そうでしょ~!」

 「?!」 

 その噂話に乗っかる形で、アビーは俺に腕組みして、自慢げに。

 赤面の俺は、アビーにそうされて、余計赤くなる。

 「あっはは~!全く、二人とも仲がよろしくて。」

 そんな様子に、番台さんは冷やかすように笑った。

 冷やかされ、火が噴きそうになった。

 「……っと、挨拶が遅れたね。いらっしゃい。いつも通り、だろう?」

 「!……あ、はい。お風呂、いただきます……。」 

 冷やかしもこれくらいと、番台さんは切り替えて。

 通常営業に、その口上を述べて。

 俺も、赤面が少し和らぎ、頭を下げて応じた。

 それぞれ更衣室に行き、服を脱ぎ、男女それぞれ分かれて、大浴場に。

 夕刻はとうに過ぎて、その時だというのに人はほとんどいない。

 「?」

 そのはずなのに、大浴場の湯煙の中、人影が一つ、朧ながら見える。

 誰か先に来ていたのか、首を傾げて見る。

 「あ、大和ちゃん!えへへっ!一緒に入ろっ!」

 「ふっ?!」

 その人影は、歓迎するかのように腕を広げ、言ってくる。

 聞き慣れた声、その主は、やはりアビー!!思わず変な声が漏れる。

 なお、これで三回目……。

 なぜここに?……なんて野暮だった。

 奥には薬湯があって、そこは男女共通のため、繋がっており。 

 そこを通ればここに辿り着ける。

 着替えた後、素早く移動したのだろう、アビーなら可能だ。

 「……。」 

 赤面するも、前ほどではなく。どうやら、いい加減慣れてきたようだ。

 湯煙に目が慣れて。

 よりその姿が見えるようになれば、それほど赤面するほどじゃない。

 ちゃんと大事な部分は隠しているようで。

 ……赤面もいささか、落ち着いていった。 

 「ねっ?」

 首を傾げて、可愛らしくねだってきた。

 俺は、まあ、アビーだし、と軽く鼻息一つ漏らして、静かに頷いた。 

 「えへへ~。洗いっこ洗いっこ!」

 俺の返事を感じたなら、スキップするようにこちらに近づいてきた。

 それじゃ滑ってしまうだろう、思ってしまったものの。

 器用なもので、アビーは滑ることなく俺に近づいた。 

 そっと、俺の手を握り、エスコートしてくる。 

 「……。」

 されるがままだが、悪い気はしない、俺は頷いて従った。

 それから、アビーと交互に、背中を洗い合う。

 「……その、痛くないかい?」 

 背中に強く、タオルを押し当て、擦る。

 力入れ過ぎていないか、俺はアビーに聞いてみた。

 「ううん、大丈夫。丁度いいよぉ~。」

 心地よさそうだ。

 「次、あたしね~。」

 「うん、よろしく。」

 言ったなら、アビーはタオルを持ち、俺は頷いて背中を見せた。 

 「?!」

 向けたなら、かなりの力でごしごしと擦ってくる。

 思わぬそれに、飛び退きそうになって。

 「ほぇ?」

 「い、痛い痛い痛い!ちょ、つ、強すぎ……。」 

 俺は痛みを訴えたなら、アビーは変な声をして、……首を傾げているみたい。

 「?あ、あれ……。」

 通じたか、俺の訴えを聞き、そっと微笑んだように感じ。

 その微笑みに似合う力で、優しく、撫でるように擦りだした。 

 きょとんとして、見たならば、今度はにっこりと笑み。

 「……。」

 その笑みに、赤面も忘れ、つられ笑む。


 体を洗い流したら、今度は大浴場に、としたらアビーは、奥の扉の方を指さした。

 そこは、薬湯のある場所で。

 「……いいのか?何か、悪い気がする……。」 

 「いいのいいの!」

 ケガをしたわけでも、毒を盛られたわけでもない。

 薬湯を使うのは気が引けて仕方がなく。

 一方のアビーは、気にしていない様子で。

 「……。」

 アビーが言うならと、この先の言葉、紡がずに頷いた。

 「!」

 薬湯の部屋の戸を開けたなら、この前とは違って、強い香りがする。

 この前、大量に持って来たからなのか、薬草の成分が多いようだ。

 「わ~いっ!今日はすっごいぞー!」

 「……。」  

 アビーはそう表現する。喜びも伴っているようで。

 俺は、アビーのらしい感じに、何も言わず。

 「さっ!入ろっ!」

 「ああ。」

 エスコートに従って、湯舟に浸かった。


 「……う~あ~……。」

 浴場から上がり、更衣室に戻ったなら。

 ぐったりと近くの椅子に、倒れこむように座った。

 顔が火照っている感じもする。

 だから赤い、全身も。なお、気恥ずかしさ成分は少なめ。 

 どうやら、この前とは違い、俺は湯にあたったのかもしれない。

 あるいは、本来の薬湯の効能が、これなのかもな。

 少しだけ湯冷めしたら、服を着て、荷物を持って更衣室を出たなら。

 「……元気だなぁ……。」

 真っ先に目に留まったのは、牛乳瓶片手に、一気飲みしているアビーの姿。

 その元気さに、つい声が出る。

 同じ時間湯に入っていたはずなのに。

 湯気を全身から立たせながらも、こちらと違い。

 更衣室で涼んでいた様子は伺えない。

 「!あ、大和ちゃん!」

 「先に出てたんだ。ごめんな、遅くなって。」

 「ううん。気にしてない。」

 俺が出てきたと気づいたなら、アビーは声を掛けた。

 俺は、遅くなったと言うと、気にしていないとアビーは首を横に振って。 

 さらに、俺のために、冷蔵庫から牛乳瓶を持って来てくれた。 

 「ありがとう。」

 手渡してきた牛乳を、俺は受け取って口を付ける。

 同じように一気に飲み干した。


 銭湯から出たなら、とうに夕刻を過ぎて、夜が深まった時間のようで。

 「ありがとー!また来るね~!」

 「ありがとう。また、きます。」

 銭湯に振り返って、番台さん目掛けて二人、手を振った。

 またの機会願う、言葉も添えて。

 遠くに見えた番台さんは、小さく手を振って応えてくれた。

 足を帰路に、歩き出してしばらく。

 「!」

 途中の家で、賑やかな様子の音を聞く。 

 見ればそこは、レオおじさんの家で、窓から漏れる光に映る影は、非常に多く。

 また、それぞれが乱雑で、それでいて楽しそうに動いていた。

 アビーから聞いた、大家族の様相そのままのようで。

 「!レオおじさん……。……くくっ。」 

 団欒を映す影の内、一段大きく、立派な雄の獅子を思わせる風貌が。 

 沢山の小さな影に乗っかられていて。

 でも倒れることなく、力こぶを見せつけて。

 〝俺は村一番の男だ!〟そんな声が聞こえてきそうな。

 その様子につい、笑みを零した。

 「……ねぇ、大和ちゃん。」

 「!何?」

 つい見入っていたが、どうやらアビーもそのようで。傍らぽつりと聞いてくる。

 顔を見たなら、俺と同じように笑みを浮かべていて。

 「あんなおっきな家族、素敵だね?」

 「ああ。」

 憧れるように言ってくる。

 「……将来、あたしもあんな風に家族に包まれるのかなぁ。」

 「!!」

 憧れの言葉を続けると、聞いていた俺はつい赤面、プラス、ドキリと緊張し。

 変に背筋を強張らせてしまった。

 「?あれ、どうしたの?」

 「……いや、何でもない。」

 アビーはそれが、どういう意味か理解していないようで、首を傾げた。

 俺は、何でもないと区切り、やや速足でレオおじさんの家を通り過ぎる。

 ……アビーには、早かったのかもしれないね……。

 「?変な大和ちゃん。」  

 俺のそれが可笑しく、そっと笑みを浮かべたなら、アビーも追いかけてきた。

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