▲▲つ21っ! すふぃあのみちびき

 「……何よ、その顔。……変な想像したんじゃないでしょうね?」

 「!!」

 俺のその顔、さらに、考えたこと見抜かれたようで。

 マフィンはジト目でこちらに言ってきた。

 余計ドキリと、心臓を高鳴らせてしまう。

 「……まあ、いいわ。とりあえず、変なことはしないように。ほら、早く脱ぎなさいよ。」

 ジト目ながらも、しかし頬は紅潮している。

 想像ついているからであり、だからこそ、釘刺すように言った。

 そんなマフィンに従い、俺は服を脱ぎ、下着姿だ。

 持っていた服は、受け手をしているマフィンに手渡した。

 アビーは、ポシェットを取り去り、躊躇いなく脱ぎ、同じように手渡す。

 その様子に、何だか諦めにも似た感情をマフィンは見せ、溜息一つ。

 俺はアビーの様子に、顔を赤くした。

 近くに男がいるのに、躊躇いのないその様子に。

 何度もこのようになったが、流石に慣れてきたか。

 その紅潮具合も幾分落ち着いている。

 ただ、アビーらしいけれど。

 「!」

 と、マフィンが持っていこうとしたら。

 俺の服とアビーの服から、スフィアが零れ落ちる。

 そう言えば、ずっとポケットに入れっぱなしだった気がする。

 落とすのも嫌で、俺は取るように手を広げ、伸ばしたなら。

 不意に落下するスフィアの速度が落ちる……。

 いや、だけじゃない、逆に上昇を始める。

 やがて二つとも、従うように、吸い込まれるように飛んできては。

 俺の手に収まっていく。

 「?!な、何だ?!」

 自分でも、何が起きたのか分からない。

 「?!そ、それは……。」

 何か察知したマフィンは、俺の行為に目を丸くし、見つめてくる。

 「!!おー!うぃざーどだぁ!!」

 アビーは、ぱぁっと顔を明るくし、俺を指して言う、誉高き存在の名を。

 「……。」 

 「……ええと……?」

 マフィンは見つめたままだが、じっと、訝し気に、無言で。

 俺は、何か気に障ったんじゃないかと心配になり、小さく声を出す。

 マフィンは、考え込むように首を傾げたなら。

 「……本当……かな?」

 呟くように言う。

 腑に落ちない、そんな表情のまま、マフィンは居間を後にした。

 その姿が見えなくなった後、この家の奥の方から、けたたましい音が響きだす。 

 「!」

 規則正しく動く、機械の音、ミシンのそれに近いか。

 聞いたなら、なるほどと思えた。

 きっとそれが、この前アビーが言った。

 マフィンの家にある、服を作る機械だと。 

 「はい、そのままだと寒いし、何より、恥ずかしいでしょ?」

 「?!」

 と、思いふけっていたら、また居間の戸が開く。

 真新しい服を抱えて、マフィンが姿を現した。

 いきなりの登場と、もう終わったのか、と思考。

 驚きが合わさって、俺は飛び退きそうになった。

 が、あのけたたましい音は止まっていなくて。

 ……どうやら、まだ終わっていないのか。

 なら、その服は?

 「ええと、マフィン。服……もう直ったの?」

 登場した彼女に俺は、恐る恐る聞いてみる。

 「違うわ。前に作っていたのよ、予備の分も。アビーのもあるわよ。」

 「な、なるほど……。」 

 持って来た物は予備らしく。

 どうやらここに来る前に、とうに作っていたもののようで。

 淡々とながら、説明に俺は納得する。

 それにしても、いつの間にか作っていたのか……。

 驚きはあるものの。

 前もそんな風に用意していたんだ、それほどではなくなっていた。 

 「え、えと、ありがとう。」

 少し落ち着けて、俺はお礼を述べる。

 「いいえ、どういたしまして。そのままじゃ、ちょっとね……。」

 言いながら、マフィンは服を手渡してくる。俺は、頭を下げて受け取った。

 「マフィンちゃんありがとー!」 

 「……いつものことだし、もう今更何言われても、ね……。」

 アビーに向いたなら、同じく手渡して。

 アビーは嬉しそうに受け取っては、お礼を。

 言われたマフィンは、呆れ具合で答えていた。

 それぞれが、それぞれ着たなら、手渡した服同様、着心地はよく、相応で。

 いや、前の服と寸分違わないかもしれない。

 「……マフィン、すごいな。」

 俺は賞賛の言葉を口にする。

 「別に。大したことじゃないわ。今もまた、向こうの部屋で機械が動いているもの、すぐにできることだから。」

 簡単だと、マフィンは普通に言いきる。そこに、自慢気は感じさせなくて。

 「それでも、だな。けど、お礼にどうすればいい?」

 このようなすごいことだ、何かお礼もしたくなるよ。

 この前、俺のために服を用意してくれたんだから。 

 謙遜だなと、続けてお礼を聞いた。

 「……いいわよ。今日アビーとあなたが持ってきたスフィアの原石だけでも十分で、モンスターと対峙して帰ってきた挙句、モンスターのスフィアを狩る、むしろお礼は私が言いたいくらいよ。いいえ、村中が言いたくなるかもしれないわね。」

 「はぁ……。」

 どうやら、俺とアビーが今日やったことは、相当なことのようで。

 マフィンは十分すぎるとの回答を示した。

 俺は、聞きながらも、実感できないでいる。 

 「ふっふ~ん!」

 ……傍ら、自慢気なアビー、立ち上がって胸を張って、鼻高々に。

 「?!い、痛い痛い痛い!!」

 「……すごいことだけど、アビー、あなたがそうだと思うと何か腹が立ってきたわ。」

 からの、その高々した鼻を折りに。

 マフィンはアビーの両頬を握っては、引っ張った。

 痛みに悲鳴が上がり、マフィンは少し額に青筋を立てながら言う。

 「うぇえん。分かったからぁ、痛くしないでぇ~。ごめんなさぁ~い!」

 「……全く。アビーはもう少し慎ましさを学習しなさい。」

 涙目のアビーが訴えたなら、マフィンは引っ張るのを解き、呆れ返る。

 丁度いいタイミングで、奥からの音が止まった。仕上がったのだろう。

 その音に反応して、マフィンは耳をピクリとさせて。

 「終わったみたいね。待ってて。」

 言ったなら振り返り、居間から出ていく。

 静かにカタンと音がしたなら、廊下からパタパタと足音が。

 居間の戸が開いたなら。

 さっきと同じように、丁寧に畳まれた俺たちの服が、腕に載せられていた。

 「ほら。終わったわよ。」 

 差し出されたなら。

 「ありがとう、マフィン。」

 「ありがとー、マフィンちゃん!」 

 お礼を言って、それぞれ受け取る。

 受け取ったなら、俺はバックパックに押し込めた際に、ふと思いつく。

 「アビー。入れなよ。」

 「!!え、いいの?」  

 スペースに余裕があって、ならばアビーのも入れようと思い。

 口を開かせて向けたなら、アビーは嬉しそうに目を輝かせた。

 「いいよ。手に持ったまま、ここから帰るのも難だしさ。」

 言ってそっと微笑み、俺は頷いた。

 「えへへっ!よろしくっ!」

 嫌がることなく、手渡してきたそれを。

 俺は丁寧に折り、バックパックに詰め込んだ。

 「……。」

 傍らマフィンは、そんな俺たちのやり取りをじっと見ていて。

 「……ねぇ。」

 「?」

 何か思いついたようで、言い始めてくる。聞き入るために、彼女を見たなら。

 「あなたたち、この後どうするの?」

 「あ……。」

 「?何かあったっけ?」

 予定を聞いてきたが、そう言えば、ないな。

 今日はアビーに連れられて、鉱山に行く、という予定だけでしかなく。

 俺とアビーは、互いに顔を合わせて。

 どうだったっけと聞き合うみたいに目配せする。

 「ん~。何にも決めてないや。いつもみたいにのんびり過ごそうかなぁと思っていたよ?」

 「俺もないよ。」 

 互いに、何もないと結論を出す。

 「そう。よかったら、夕飯食べていく?時間も時間じゃない。アビーのことだから、何も用意していないだろうし。」 

 マフィンの思いつきは、夕飯の誘いで。

 「いいの?いいの~?」

 そうならば、とアビーは目を輝かせて言葉を繰り返す。

 「いいわよ。今日は頑張ってくれたし、ね。お礼も兼ねて。」

 本心からの誘いのようで、マフィンは言った。

 「うわ~い!!」

 聞いたアビーは、嬉しさのあまり、全身で体現。

 子供のようにはしゃぎ、両腕を頭まで上げるほど、飛び上がった。 

 天井まで着きそうなほどの跳躍だった。

 マフィンはふっと、その喜びように、呆れかいつも通りの安堵か。

 鼻息一つ漏らす。

 「それじゃ、用意してくるから、座って待ってなさいな。」

 いつもの、だから、そっと笑み、用意するとマフィンは言って。

 また居間から出ていくのだった。

 間を開けて、炊飯の音が響き、香りが鼻腔をくすぐる。 

 「えへへっ。何だか今日は、いいことが沢山あるね。〝スフィアの導き〟ってことかなぁ。」 

 「?」

 二人だけになったなら、アビーがぽつりと不思議なことを言って。

 笑みを浮かべた。俺は首を傾げる。

 「え?この言葉?ええとね、スフィアに関することをしたら、その日、いいことがあるっていうちょっとしたおまじない。」

 「へぇ。」

 「いつもだったらね、マフィンちゃんにチクチク言われるんだ。今日はそれがなくて、ご飯まで貰えたもん、いいことばかりだよ。」

 「……そうなんだな。」 

 先の言葉は、おまじないの類らしく。

 だからで、いつもとは違って、優しく、ご飯も頂けると。

 その幸運を喜んでいるのだ。

 これも、文化なのだろう。感心する。 


 マフィンが台所から戻って来たなら、食事の始まり。

 慎ましいながらも、手の込み様から、もてなしの心を感じられた。

 アビーと協力し、配膳、並べたなら。

 そのタイミングで村長さんがその姿を現した。

 ……今まで、どこにいたんだろうか、そう思えてしまう。

 村長さんが座り、箸をつけたなら、夕食の始まりで。

 加えて、あてとして今日の話もなかなか盛り上がった。

 アビーの説明がたどたどしく。

 いまいちなために伝わりにくく、俺が補足していた。

 マフィンは、聞く度に首を傾げて。

 本当に俺たちが例のドラゴンをやったのか、と信じてくれなかった。

 食事が終わったなら、村長はまた家の奥へと消えていった。

 そのミステリアスが心残りに、俺とアビーは皿を台所まで運んで行った。

 ついでに、洗おうとしたが、マフィンに止められてしまう。 

 「今日はここまでいいわ。後はやっておくわ。」

 言ってくる。

 「いいのか?いつも以上に多いんだから、手伝えるならやりたいよ。」 

 一人だと、大変だろう聞くが、首を横に振る。

 「大丈夫。それよりも、あなたたち、今日は大変だったんだから。家に帰ってゆっくり休みなさいよ。」

 「……分かった。……ありがとう。」

 そんなことよりも、俺とアビーは疲れているでしょうと労われる。

 その心遣いに、俺は、何か心残りになるも、礼を一つ、頭を下げた。

 「!あ、あるわ。手伝うことじゃないけど。」

 「?」

 マフィンは思い出したかのように一言。

 俺は頭を上げて彼女を見た。訝し気に見る表情で。

 「その、明日、家に行っていいかしら?」

 「……家……にか?」

 「そう。」

 言ってきたことには、明日俺を訪ねたいということだ。

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