▲▲つ17っ! うぃざーどっ?!
避けようと身を屈めたが遅く、光線は俺を焼き尽くさんと襲い掛かってきた。
だが、その閃光が俺を焼き尽くすことはなかった。
なぜなら、あの盾が飛んできて。
俺の眼前に、結界のように立ち塞がったなら、光を拡散させていく。
「!」
ふと感じる温もりに。
あの、アビーと会う前の、冷たい床で俺を温めていた安らぎを思い起こした。
《アイギス展開。反撃を開始します。このコマンドには、管理者による装着が義務付けられます。管理者、どうぞ。》
「?な、何だぁ?」
盾は言う。
また、眼前にあって、結界を広げてはいるが。
手に取ってくれと待ち構えているかのよう。
「……。」
俺は、言われるがままに、盾に手を伸ばす。取っ手に手を掛けたなら。
《コマンド実行。只今より、反撃行動を開始します。》
盾は言って、光線を今度は押し返し始める。
《AWS・FCSリンク。フォトンシールドバッシュ、ドライブ。》
「!」
「?!ギャァオォォアァア?!」
圧力と衝撃を伴って、今度はドラゴンを弾き飛ばす。
痛みがあるか、悲痛な叫びが上がった。
その巨躯さえ、この盾は見事押し返した。俺は驚きに目を見開く。
だからと言って、相手がこのまま大人しく引き下がるわけじゃない。
体を起こしたなら、余計激怒し、咆哮。
さらには、力いっぱい己の爪で俺に攻撃してきた。
「!ぐあぁ?!」
その力強く、衝撃に弾き飛ばされてしまう。
《カウンターインパクト。》
その衝撃を相殺するように。
盾から衝撃が、そのおかげで俺は、体勢を整えて、何とか無事に着地できた。
「!!」
すかさずドラゴンの二撃目が迫ってくる。
着地したばっかりに、体勢を整えるのには、ギリギリで。
力を入れて握ることさえできない、そんな状態にても、構え、動こうと抗う。
力ない指は、だらりとした感じでいて、柔らかい。
それでいて、真っ直ぐと。両の手をそう構えたなら、前屈する。
周囲に気を放つために、強めたなら。
またあの、水晶たちが光り輝く音が響き渡った。
「!!」
その瞬間、自身の身体能力が上がったか、全てスローモーションに見えてくる。
迫る爪撃、衝撃波。
それを纏ってなお、滑らかに、受け流すように体を回転させ、跳躍する。
爪も衝撃も、全て俺を掠め、俺は、跳躍の頂点に達する。
徐に自分の服に入れたスフィアを取り出したなら。
それを投げつけるように放った。
放ったそれを、加速させるように手を広げ、押したなら、強く煌めいた。
《FCS、リモートコントロール。レーザー照射。》
「!」
煌めき目掛けて、盾が言う。
すると、盾にある水晶玉も同じく煌めき。
光路を伴う真っ直ぐな光がスフィアに放たれた。
その強さに一瞬目を閉じる。
「?!ぐあ?!」
スフィアに到達した光、言うなればレーザーは、激しい光を生じ。
そこから、衝撃と電撃を辺りに撒き散らす。
また、当のスフィアは、自らもレーザーを発し、周囲の原石に放った。
原石に当たった光、プリズムで拡散し、より広範囲にレーザーを撒いていく。
やがて光路に満たされた空間、干渉し強め合い、光の牢獄が出来上がる。
「ギャァオォオオオオオオ?!」
悲痛に似た叫びが上がる。ドラゴンは、その光路にズタズタにされていた。
光に当てられたドラゴン、自らも発光していく。
風が凪いだと感じたなら、その姿が灰となり消えていった。
その灰舞う先に、煌めきが一つ、そのドラゴンのスフィア、落ちていく。
光路が消え、辺りの光が弱々しくなっていく中。
俺もまた、スフィアと同じように落下していく。
《対象消滅を確認、周辺をチェック。生体反応一つ、アビー。他異常なし、状況終了。システム移行、監視モード。》
落下していく中、淡々と盾は言って、展開していた板を閉じていく。
「っと。」
軽い衝撃が一つだけ、俺は暗がりになりつつある中、上手く着地した。
「っとと。」
また、落ちてきた、アビーからもらったスフィアを上手くキャッチする。
痛むため、力強く握れないが。
そっと両手に入れたなら、ほんのりとした明かりが湧き、辺りを照らす。
その照らされた中、アビーを探したなら。
空間の端の方で、ポカンとした表情のアビーが、小さく座って見ていた。
「……アビー……。おーい……。」
「……。」
近づいて呼び掛けてみるも反応がない。
手を目の前で動かすと、視線が揺れ動くことから。
……失礼なことだが、生きてはいる。
ドラゴンの攻撃に吹っ飛ばされたが、どうやら打ち所悪くはなかったらしい。
「!!」
それから遅れてと、反応が出始めてくる。
思考が今まで止まっていたようで、徐々に回復したなら、目の色が変わっていく。
心弾むような色合いに変わったなら、顔をぱっと明るくし、飛び上がったなら。
「すっごーい!!」
「?!」
驚嘆の声を上げ、踊るように周りで弾みだす。
その急激な変化に、今度はこちらが思考停止だ。
「すっごーい!!あれすっごい!!大和ちゃん、やっぱりうぃざーどなんじゃない?あはははっ!!」
「……うぃ、ウィザード……。」
多少戻ってきた思考ながら、やはりアビーの思考は分からない。
賞賛の声で、かつ内容が〝ウィザード〟だとか。
先も言われたが、ここでもそう言われようとは。
実感もないし、また、お世辞とか、言い過ぎな気がする。
「……いや流石に、言い過ぎだろう。それよりも、大丈夫か?」
「あっははー!そんなことないよ!!うぃざーど、うぃざーど!!」
「……。」
言い過ぎだろう、言って、付け加えに大丈夫かも聞いたが。
彼女はその誉高き名称を口にするだけで、……余計心配になってきた。
吹っ飛ばされた時に、頭を思いっきり打ったに違いない。
こちらの声が届いていないような気がする。
「っとと。ご、ごめんね。つい、すごかったから。えへへっ。大丈夫だよっ、ちょっと体を打っただけだからぁ。あたし、こう見えて頑丈なんだもん!」
「……。それは、よかった。」
いや、届いてはいたみたいで。
はしゃぐほどのことだったからか、興奮がこちらにも伝わってくる。
落ち着いて、こちらに向き直った。
それ以上に、無事なのはよかったと、俺は胸を撫で下ろした。
しかし、体を落ち着かせて、こちらに向き直ったのはいいが。
今度は涙ぐませてくる。
「?!お、おい、大丈夫か?」
やっぱり、傷めてるじゃないか、心配して俺は、彼女の体に手を触れたなら。
「ううん。違うの。何だかね、すっごいのが起きたから、涙が溢れてきちゃって。……えへへっ、何でだろう?」
「……。」
まだあの興奮が冷めていない、伝わる震えが証明する。
彼女の涙、それは、感涙であったと悟った。
「……その、落ち着いて。」
感動させるものは、なかっただろう。俺は、落ち着かせるために言う。
「目の前にいるのは、アビーが助けた、ただの虎猫だ。大それた存在じゃないよ。」
続けるに、残酷かもしれないけれど、期待を裏切ることになるけれど。
……この言葉は聞いてくれない。
アビーは首を横に振って。また、その際飛び散る、涙の雫。
「そ、そんなことないよっ。だって、あたしを助けてくれた、あんな、きれいな光景を見せてくれた、あんなの、普通じゃできない。うっ……。えうぅぅ、うにゃぁぁああ……!!」
「あ、おい……!!」
「ごわがっだぁぁ!!げど……。」
「いぎででよがっだぁお!!!」
「……。」
堰を切ったように、彼女の涙が溢れ、洪水を起こす。
止めようとしたが止まらず。鼻声、嗚咽交じりの声に、ただ聞き入るしかない。
また、それは怖いのを我慢していたんだろう。
何せ、自分よりも体格差がある相手に対峙したんだ、感じないわけがない。
これは、安堵も含めたそれだ。色々な感情が混じり、心と顔ぐしゃぐしゃだ。
「……。」
このまま、何もしないのも癪だ。
なお安心させるためにも、落ち着かせるためにも、俺はアビーを抱き締める。
いきなりそうしたのに、自分自身驚いたものだが、致し方ない。
何だか、何もせずに泣かせ続けるのも、悪い気がして。
そうしたなら、アビーは一瞬驚いたか、泣き止み、しかしすぐまた涙を流した。
一しきり泣いたなら、やがて嗚咽から鼻をすする声に変わっていく。
そっと、離したなら。
アビーは涙交じりの、赤い顔をしていたが、幾分落ち着いたようで。
「……えへへっ。ぐすっ。怖くって、嬉しくって……。すっごくて……。」
元のアビーに戻ったかのようだ。俺も、ほっと一息つく。
「ねぇ。」
「?」
「やっぱり、うぃざーどじゃない?」
「……分からないけど、違うんじゃない?」
話も元に戻って、俺がウィザードじゃないか言ってきた。
俺は、自信なんてなく、違うんじゃないと首を横に振る。
「ううん!そうだよっ!絶対そうっ!えへへっ!うぃざーど……。嬉しいな、お話でしか聞いたことないもん!本当に会えるなんて……。」
「……。」
相当な期待を持っているらしく、覆すのも難しそうだ。
アビーは、俺をそう称して仕方ない。
故に黙するしかなく。
「そうだっ!!みんなに教えよう!早速、マフィンちゃんにっ!ついでに、スフィアの原石もっと!」
俺の否定、やんわりだが、それをよそに、強引にも決めてしまう。
決意して立ち上がったなら。
ぐっと体を伸ばしてリラックス、今にも駆け出しそうだ。
「!!」
その時点で、重要なことを思い出す。
「アビー!そ、その……。」
「?」
はしゃぐその姿に、俺は水を差すようだが。
思い出したことを口にしなければならない。
絶対な、使命感あって。
「……出口、どうしよう。」
「……にゃ?!」
この状況において、次に重要なこと。
それは、出口。さっき、ドラゴンに破壊されたのだが。
「……。」
「……。」
二人、顔を付き合わせて、押し黙る。
「うにゃぁああああ?!」
「うあぁあああああ?!」
二人同時に、似たような声を上げ、慌てだす。
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