▲▲つ16っ! ぴーんちっ!
その坑道、やはり随分使われていないのだろう、空気が淀んでいるように感じた。
広がる闇は、最早闇の住人を内包しているかのように不気味で。
また、響く音は俺たちの足音と。
水の滴り落ちる音だけで、他、生の気配を感じない。
……さて、スフィアとは便利なもので、立派な光源としての役割もある。
その闇さえ、この水晶玉は払い除けるのだ。
「……。」
道中、転がるレールや、トロッコの残骸に想う。
これを使っていた主たちは、とうに消え。
残されたそれらは、かつて栄えていたであろう名残にして、その栄の骸。
静寂は、本当に寂しさを想い起させた。
「なぁ。」
「?」
「静かだな。」
その寂しさに、俺は声を投げかける。
静寂は、危険も感じさせない。しかし、〝無〟過ぎるのも寂しくて。
「……そうだね~。でも、小さい頃は、怖かったなぁ。」
「へぇ。」
「暗闇って、何がいるか分からないもん。小さい時なんて、ここで肝試ししたりもしたし。あ、でもここ過ごしやすいかも。今は、好きかなぁ。」
アビーは俺の投げ掛けた声が、静寂に反響して消える前に、続けてくれる。
相槌打ちつつ進めたなら、この暗がりにて、肝試しを行っていて。
また、今この静かな世界は好きかもと言ってくる。
言葉から、過ごしやすさを感じ、確かにと頷く。
外とは違い、中は静かで、また気温も低いが、寒すぎるほどではない。
家にしても、いいかもしれないな、おかしな感じで思ってしまう。
「えへへー。ここをお家にしちゃおうかなぁ。そしたら、一緒に暮らす?」
「ほぅ……。ほっ?!」
答えがリンクした。
にっこりとアビーが言ってきて、ぼんやりと相槌を打ったが。
遅れて思考し、思わず吹き出してしまう。
吹き出した声が、変に反響し、相まって顔が赤くなった。
「あははっ!いつかねー、そうなったらねー。」
「……。」
屈託なく笑うアビーに、俺は何も言えない。
本気かどうかも分からないそれは、いやに意識させ、俺の心臓の鼓動を速めた。
心音も高く、もしかしたらその音さえ。
この静寂の暗闇に反響したんじゃないかと思ってしまう。
顔を赤くして暗がりの坑道を進む。
変な緊張はあるものの、それは異性との付き合いのそれであり、いつも通り。
もしかしたら、アビーが緊張を和らげてくれたのかもしれない。
ある地点でアビーは、立ち止まり周りを見渡し始める。
「見てっ!」
言って、そっと光が届いていない、坑道の暗がりの一点を指さしたなら。
微かな煌めきが見えた。
「!」
また、静寂の中、響いてきた、水の音とは違う。
甲高くて、清らかな音色が響いたなら、煌めきが増え。
星空のように闇を彩っていく。
その言葉よろしく、遥か高い所まで星が埋め尽くしていった。
どうやら、広く高い場所に出たようで。
「!!これは……。」
坑道を埋め尽くす、星々の煌めきに、思わず声が漏れた。
「すっごーい!スフィアの原石だ!!こんなに……。」
「!!これが……!」
スフィアの原石。それらが輝き、彩る。
アビーもまた、感嘆の声でそう告げていた。
「!あっ、そうだ、採って帰るんだった……。」
「!」
一しきり見とれたなら、本来の予定を思い出した。
アビーは我に返り、早速その煌めく光の一つに向かっていく。
俺も後をつけ、向かって行ったなら、輪郭が分かり、それは水晶の原石。
いくつもの六角錐が群がった、群晶、クラスターである。
俺たちが発する光に照らされ輝いていると錯覚してしまいそうだが。
それにしては強く、つまりは、自らも光を発している。
そう、単なる水晶の原石ではない、スフィアの原石だ。
その一つに、アビーが両手を付けたなら、静かに、丁寧に。
それでいて力強く、引き抜くように動かしたなら。
それは抵抗なく、素直に採れた。
自分のポシェットにその一つを入れて。
「これは、思ったより沢山採れそう~。大和ちゃんも採ってみて。」
「分かった。」
周りを見渡して、その多さにアビーが呟いた一言。
また、提案もあり、俺は頷いた。
坑道の星々を彩る一つに目を付け、両手を添えたなら、まず感触を感じてみた。
ほんのりと温かいそれに、心まで温かくなりそうな。
「……あれ?」
また、それでいて頑丈なようで。引っ張っただけでは動きもしない。
見よう見まねでは、難しいのか?首を傾げてしまう。
その時、アビーがそっと近づいてきて、俺の手の上に自分の手を重ねる。
「!」
近付いたためにか、抱かれた体勢になり。
そんなアビーに対し、鼓動が弾み、顔が赤くなる。
「えへへっ。一緒にやろう?いい、あたしと同じように力を入れてみて?」
アビーは反対に、動じている様子はない。
丁寧に、教えるように、優しく言ってきた。
「扉開ける時のように、合図で行くよ?せーのっ!」
「せーの!」
合図をくれた。
合わせて俺は、同じように力を入れて、引き抜く。
「!」
先の、〝星〟が煌めく寸前に響いた、清らかな音が響いたなら。
その原石は俺の両手に抱えられるように収まった。
「えへへっ!一緒だね?」
「あ、ああ。」
共同作業に、喜ぶアビー。俺も、初めてのそれにこっくりと頷いた。
その原石を、バックパックに収納しようとしたら。
バックパックの中身から光が溢れてくる。
「!」
何事かと見れば、盾が光っている。
持っているスフィアとは異なるほど強く発光し。
《警告!ロックオン!警告!ロックオン!》
「……?」
同時に、何か訴えかける様なことを言ってきた。俺は首を傾げる。
「!!何これーー!!」
「?」
傍ら、アビーがまた何か見つけたようで。
盾から目を外し、アビーの声の方を向いたなら。
「!」
暗闇の中、輝く星たちが、本物の星のように瞬いていた。……いた?
点滅を繰り返すそれは、まるで、俺たちに何か知らせているかのようで。
一定パターンで点滅を繰り返す。……何だろう、モールス信号?
《警告!接近を確認。これより戦闘モードに移行。各攻撃管制チェック、システム起動。AWS作動。》
「!!」
その点滅に合わせて、盾は何か展開し始める。
作動する振動を感じたなら、俺は視線を移して見るに。
この間と同じよう、盾から板が飛び出していた。
また、より警戒を強めているのか、さらに板を展開して。
……そう、実用される〝盾〟に近い形になっていた。
感じる異様な空気の振動、圧。
「ガォォォォ!!!」
「?!」
「うにゃぁ?!」
感じる、咆哮。俺とアビーは二人して顔合わせ、目を丸くした。
さも、強敵出現!と言わんばかりに、水晶たちが強く光ったなら。
空間を覆いつくすほど点灯し、シルエットを象り、やがて色彩を施していく。
「!!」
その姿に息を呑む。
一言でいうなら、〝ドラゴン〟だ。ゲームや色々な物語に出てくる、それ。
トカゲか何か、爬虫類を思わせる外観に。
翼竜の翼を持ち、恐竜のような爪をその四肢に生やす。
……違うとすれば、胸辺りに光り輝く物が、スフィアが埋められていることか。
「な、何だ、こりゃぁ……。」
その存在に俺は、驚愕しながらも疑問を呈する。
だが、相手は怒っているように思えて。
つまりはピンチなんじゃないかとすぐ思ってしまった。
「も、〝モンスター〟?!うおぉぁぁあわわわわわわ……。」
「!!モンスター!あれが……っ!」
アビーは答えてくれた、驚愕して、また、珍しく慌てている様子。
答えにハッとし、俺はよく見れば、確かに、モンスター、化け物だ。
俺がしたゲーム内でも見かけた、ドラゴン。
西洋製のドラゴンで、強敵、まさしく、モンスター。
確信に変わったなら、俺は緊張に顔を強張らせる。
「……アビー、こういう時って、どうしてた?」
隣のアビーに、対処法を聞いてみた。
「に、逃げるのぉ!!!うにゃぁああああ!!」
「!だなっ!!」
回答、並びに、選択されるコマンドは、『逃げる』だった。
恐怖したアビーは地面を蹴り、無拍子で反転して、出口へ。
俺も彼女に合わせて、出口へ急いだ。
だが、方向と共に閃光がこちらに向かってくる。
咄嗟に二人別々の方向に飛び退いたなら。
出入り口と思しき通路が、光で焼かれて、溶かされてしまう。
「!!」
つまりは、『逃げられない』。退路を断たれてしまう。
その状況に、さらに緊張が迸り、冷や汗が溢れた。
脈拍が異様に跳ね上がる。
アビーや他のスキンシップによる緊張のそれではない。
……ピンチのピンチ、大ピンチに。
反対方向に飛び退いたアビーを見ても、同じ様子で。
冷や汗を流して、一瞬目を瞑ったなら、意を決したか、力強く見開き、睨む。
全身を覆っていた光が強くなったなら、俺はアビーの考えを見抜く。
「!」
絶体絶命状態で、その打破として考え出したことに。
ここで、巨大な相手と戦うことだ。
体格差があり過ぎるこの状況で、その選択肢、最早それ以外はない。
窮鼠猫を噛むというが、……この場合、窮地はアビー……猫で、立場が逆だが。
「!!」
……もう一つピンとくる。
モンスターが出てきても、二人でやっつけちゃおう、その言葉。
まさか、本当にやるつもりなのか。
「……。」
どの道、これしかないのなら。
俺も目を瞑り、見開いたなら気合を。途端、発光が強くなる。
睨み合いの中。
「う……うにゃぁああああ!!!」
最初に声を上げ、突撃していったのはアビーだ。
猫が爪を出すように手を開き。
光が手に収束したなら、爪で引き裂くように振り払った。
猫パンチ……か。
「ガォォォォ!!」
同じように、咆哮してドラゴンが自らの爪を使って振り払う。
「みぎゃぁぁ!!!」
アビーの叫びと共に、弾かれた挙句、吹っ飛ばされてしまった。
「アビー!!」
俺は叫んだ。叫んだ上で、地を強く蹴り疾走する。
踏み切りつけて、飛び上がったなら。
その勢いのまま、自らの腕を広げ、手を広げ、猫のようにその手を振り下ろす。
「おぉぉぉ!!」
衝撃波が響き、相手にのしかかった。
だが、悲しいかな、竜麟とは強靭と。
聞き知ったる物語、ゲームにて語られるその通りに強靭で。
ダメージを与えることは叶わず。
「!!ぎぃぃぃやあぁぁ?!」
挙句、反発した力に、自分の爪が耐えられず、折れ散る。
その際加わる激痛に、思わず悲鳴を上げた。
着地は上手くいったが、激痛に手を握ることができないでいる。
それは隙であり、感じたドラゴンは俺を向き、咆哮するか、口を大きく広げた。
「!」
いいや、咆哮じゃない。光が密集しているのを見逃さない。
あの、出口を潰した、光線だ!
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