▲▲つ15っ! うぃざーどなんじゃない?
「い、今のは……?」
「今の?あたしの必殺技、すごいでしょっ?」
「あ、ああ……。なるほど……。」
そんなアビーに聞くと、必殺技らしい。
「……で、ここで練習したりして、どうしたの?」
呆気には取られているものの、また何でこんなことしたんだかと聞いてみた。
「んとね、〝モンスター〟が出るから。」
「……はぁ……。」
はっきりと答えた。
その回答に、またポカンとしてしまう。
〝モンスター〟が出るから、だそうだが。
まあ、俺のいた世界とは違うから、らしいったららしいのだが。
ここでそう言うのは、あまりにも唐突過ぎる。
「……本当に出るの?」
とりあえず、聞いてみた。
「出るって、噂だよ。鉱山の中に、それもずっと昔、ええと、村長さんが生まれるずっとずっと昔から住んでいるみたいだって。あたしは見たことないんだけどね。」
「……。」
聞くに、噂話レベルのことだそうで。
多少不安が見え隠れしているのはあるが。
重大なことじゃなさそうな印象を受ける。
また、もしかしたら、いわゆる怪談話レベルのことだろう。
「この先、鉱山だけど、皆で肝試ししても出てきたことなかったし。大丈夫だと思うけどねぇ。一応ね。」
「肝試し……。わざわざここまで来てやっていたんだ。」
やっぱりそうで、さらに肝試しのあてにしていたみたいで。
俺は、呆れそうになった。
「だって、村でやってもつまんないもん。やるんだったら、緊張する場所でないと、ね。」
「そ、そうか……。」
肝試し盛り上げのために、選んだそうだ。
これに俺は上手くコメントできないでいる。
「それに、もし出てきても、自慢の爪でやっつけちゃうよ!!」
「……。」
自信満々に言い切った。ガッツポーズまで加えて。
その自信の大きさを表している。俺としては、不安がよぎり、どうとも言えない。
「そうだ!大和ちゃんもやってみなよ!不安も何も、きれいに飛んでっちゃうよ、きっと!」
「……うぇ?!」
自信がないからと解釈したようで、アビーは俺に提案をしてきた。
いきなり横っ腹を突かれたそれに、目を丸くしてしまう。
「ちょ……いきなり……!!」
心の準備もなしに言われたから、言葉が用意できないで、たどたどしい。
「大丈夫大丈夫!あたし一人でこれなら、二人でできたら、きっともっとすごいよっ!」
背中を押すような一言が掛けられる。ただし、俺には強引に聞こえたが。
「うぅ……分かった。やってみるよ。」
根負け気味だ、俺は自信なさそうにして、言われるがまま、構える。
「そうそう!」
「……。」
アビーのように、まずはシャドーボクシングを。
してみたら意外と上手かったらしく。
子供の健気な姿を見て喜ぶ、母親のような笑顔をしていた。
「……あたしみたいに、やれるかなぁ……。」
俺がひとしきり動いた後で。
傍らのアビーはそっと、自信なさげに呟いては、スフィアを取り出した。
光輝いてはいないそれは、少しアビーの物より小さい物のようで。
「その、使ってみて!」
不安はあるが、それを振り切ってアビーは、そのスフィアを手渡した。
「あ、ああ……。」
手を止め受け取った俺は、アビーのようにそのスフィアを握り締める。
言われるがままな、状態だが、致し方ない。
握ったなら、途端、激しく発光しだした。
「!!」
アビーの比じゃない発光に驚き、俺は思わず落としそうになる。
「!わぁ、すっごーい!!」
アビーの驚嘆の声、また、俺が落としそうになった。
スフィアを持っている手を上から握ってくれた。
「あたしより、上手なんじゃない?!ねねね!どうやったの?」
「ええ~……。」
はしゃいで聞いてくるアビーに、俺は引き気味だ。
ただ何となくやっただけなので、コツなんて知りようがない。
説明なんて、無理だ。
「もしかしたら、もしかして。あたしの、さっきのできるかなぁ?」
引いた俺を追うように、話は進められ、アビーは期待の眼差しを俺に向けてくる。
その眼差しを向けられると、俺は引けなくなってしまう。
「……分かった。やってみる。」
やっぱり言われるがままな形だが、俺は頷き、再びスフィアを握り締める。
アビーよりも強い輝きがまた溢れ、その状態のスフィアを。
服のポケットに入れたなら、全身を包む発光が体全体に溢れた。
その輝き、やはりアビー以上で。
「!!」
その輝きに自分自身でさえ、驚きを隠せない。
「ジャンプしてみてよ!」
「ああ。」
アビーの指示が来た。俺は、頷いて地面を蹴ると。
その跳躍は人間のそれを遥かに超えた跳躍で。
「おお?!」
驚嘆の声がここでも漏れる。
「……っと!」
すぐに空中浮遊は終わり、俺は地上へ降り立つ。
アビーのように、空中で体を回転させて、上手く着地した。
それを見たアビーは、手を叩いて大はしゃぎしている。
「わぁ~!!大和ちゃんすっごい!!」
黄色い声援がアビーより。
俺は、自分がこれほどできるとは、思ってもいなくて、まだ目が真ん丸だ。
「ねぇねぇ!!次は、もしかして、やる?あたしの、あの技、やる?」
「……どうだろう……。」
俺のさっきのジャンプに、可能性を見出したアビーは。
自分の必殺技ができるかもしれないと勧めてきた。
なお、自信はない。
まだまだ驚きだらけだが。
こうなったらとことんやってみようと俺は、また、空中へ飛び上がる。
アビーのように両手を広げ。
それぞれの手を、猫が爪を出すような形にしたなら、振り下ろす。
凄まじい衝撃が伝わり、圧力と風と共に、大地を切り裂いた。
「!!わっぷ?!」
「ぐわっ?!」
それが凄まじすぎて、飛んでいるこちらにまで砂煙が立ち上ってきた。
視界を奪われたまま落下するも、反射的に回転して、上手く着地できた。
土煙が消えたなら。
「……。」
そこには、アビーが付けた以上の傷跡が大地に記されていた。
大きさも、彼女のそれを数段上回っている。
俺は、その凄まじさに、言葉が浮かばない。
「……。」
当のアビーも言葉を発せないでいる。
目に土煙が入ったか、涙目をその瞼の端から溢れさせてもいた。
やっと目が開く。その光景を見て、ぱっと顔を明るくしたなら。
「すっごい!!!大和ちゃんやるぅ!!」
歓喜の声を交え、飛び跳ねながら。
俺のそれを、さも自分の子供のように喜んでいた。
飛び跳ねたのを止めたなら、じっと俺を見つめて。
「あたし、大和ちゃんのすごいとこ、また見つけたね!大和ちゃん、素敵!」
「?!」
頬を少し赤くして、照れながら言い、俺に抱き着いてきた。
俺にもその熱が伝染する、頬が赤くなる。
挙句、アビーは頬ずりして喜びをさらに表現していた。
照れ臭いのも俺に伝染したか、俺までそう感じてしまう。
一しきり、抱き締めあったなら。
アビーの熱が冷めたようで離れ、また俺の方に向き直る。
「大和ちゃん、もしかしたら〝うぃざーど〟かもしれないね。」
「……そう、か?」
確信した感じで、アビーが言った。
ビスト、いや、この世界における……。
スフィアを扱う者全ての最高峰の敬称にして、憧れの言葉。
素直に喜べないでいる。
それも、スフィアを扱うのが今日この瞬間初めてであり。
長く使っている人物から賜ったものでもない以上、実感が湧くわけでもなく。
……単なる、お世辞じゃないか、そう思えて仕方なくて。
「うぅ~!これで、モンスターが出てきても、あたしたち二人でやっつけちゃえるね!」
「ははっ。どうなんだろう?」
そんな俺を気にすることなく、アビーはいつもの屈託ない表情で言う。
モンスターがどれほどか知らないが、果たしてどうだろうか、疑問が残る。
立ち止まっていた歩も、ここで再び動き出す。パンを齧ったなら、鉱山へ。
「うぃざーど、うぃざーど!大和ちゃんうぃざーど!最強の猫さんだい!どんな敵もやっつけちゃうからね~!」
その道中に、アビーは即興で変な歌を思いつき、口ずさんでいた。
「……何その歌……。」
ちょっとだけ恥ずかしいし、……何だか変な気分になる。
一応聞いたつもりで呟いたのだが。
「えっ!この歌、〝さいきょー大和ちゃん〟ってタイトル。今作ったの!」
言葉が届いたようで。アビーが答えてくれた。
「いいでしょ!」
続けて、屈託ない笑顔。悪い気は一切感じられない。
「……まあ、アビーらしいか。」
茶化すような感じはない。俺は、彼女らしいやと、そっと笑った。
谷を抜けたなら、山肌に武骨な鉄扉のある場所が見えてきた。
その扉から微かに見える、二本等間隔の金属棒も見える。レールだ。
年数が相当経っているのだろう、それら全て錆で覆われていた。
鉄扉の先が、炭鉱ないし鉱山であることを物語っている。
一切の活がないその様相は、閉鎖から随分の時を歩んだものと伺えるものの。
背景は想像できない。
「着いたー!」
大きく伸びをして、アビーは喜びを表す。ここがその、目的の場所だ。
「……。」
俺は、黙したままじっとその場所を見つめていた。
「あーと、ここが目的地なんだよね。随分と古い……。」
思いついた疑問を口にしてみる。
「!んとね、むかーしの昔。ここでスフィアの原石も採れていたんだけど、ええと、〝戦争〟が起きて、閉じちゃったんだって。」
「へぇ。」
聞くに、相当昔のことらしい。俺は感心した。
話もさておき、アビーはその鉄扉に向かって行き。
扉を閉じているかんぬきに手を掛けた。
「あれ?」
そのかんぬきさえ錆びており、アビーが力を入れてもびくともしない。
「!」
俺も駆け寄って、アビーと同じように手を掛けた。
「!大和ちゃん!」
「手伝うよ。」
「うん。じゃあ、せーので行くよ!」
俺が手を掛けたことが、嬉しいのか、ぱっと明るくしたアビー。
さらに、合図をして、一緒に動かそうと言ってきた。俺は静かに頷く。
「せーのっ!」
「せーの!」
一緒に口ずさんだなら、一緒に力を入れる。
パラパラと錆びた金属の、擦り落ちる音が聞こえたなら。
軋むようにかんぬきの棒が動く。
それが外れたなら。
風雨いくつも経て錆びついた、道閉ざす鉄扉に手を掛け。
押し込んだなら、唸り声と聞き間違うほどの不快な音を立てて。
その道を開けていく。
開けたなら、俺とアビー二人で顔を合わせて、頷く。
アビーは自信満々ながらも、やはり緊張の色が見て取れた。
そっと、スフィアに手を伸ばしたなら、握り、光り輝かせる。
同じように俺も、アビーから渡されたそれを、同じように光り輝かせて。
二人、その坑道の闇へと向かっていく。
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