▲▲つ12っ! やくそうとりとやくそく、ときどききかいのとり
こちらもこちらで、当初の目的のため、薬草求めて歩き出す。
「なあ。」
「?」
精神の負担を軽くするために、俺は口を開く。
「あの、レオおじさん、ごついけど優しいね。」
内容は、さっき出会ったあのおじさんのことで。
「うん!……でもあの人、結構おっちょこちょいだよ。」
アビーが続ける。ただ、おじさんにも欠点があるようで。
「へぇ。」
「おじさんの子供で、男の子がいるんだけど、一人だけね、頬に傷跡のある男の子がいるの。」
「ほう。」
感心の溜息から続くエピソード、俺は頷きながら聞き入る。
「何でも、ある日、その子をあやしていたら、間違って落としてしまったらしくて。崖下に落ちちゃったんだけど、その男の子、頬に深い傷があっただけで、何ともなかったの。それを見たおじさん、安心したんだけど、後で奥さん、ほら、昨日会った、エルザおばさんに思いっきり叱られたんだぁ。」
「……あはは……。」
アビーの言った内容に、少し笑いが込み上げてくる。
「……で、おじさん何て言ったと思う?」
「……さ、さあ……。」
質問を振られるものの、答えは出なくて、曖昧な返事を返す。
ただ、何となく分かりそうな気がしてならない。
「ええとね、〝この子は、ライオンの中で一番強い子だ!ほら、その、獅子は自分の子供を崖から落として、這い上がってきた子をどうとら……。〟とか、言い訳みたいに。そしたらね、エルザおばさん激怒して、おじさんをぼこぼこにしたんだよ……。」
「……。」
解説を聞くに、俺は笑えなくなる。あのおじさんが、可哀そうでならない。
「必死に謝っていたから、その、あたしはそこまでしなくてもって、思ったんだけど、エルザおばさん本気で怒っていたから。」
「……うん。」
「〝ライオンの人〟が本気で怒ると、流石に怖いよ。止められないよ……。」
流石に、怒り過ぎもどうかと互いに思う。アビーは、顔を暗くした。
「……ちなみに、おじさんの傷の大半は、夫婦喧嘩のせいだって。」
「……へぇ……。えっ?!」
付け加えたことに、最初相槌を打っていたが、聞き終えたなら、ぎょっとする。
あの大男に傷を負わせる。
それも残るほどの、どれほど凄まじいものだったか、想像すると背筋が凍る。
昨日見た、エプロン姿のエルザおばさんからは想像できない。
「……でもね。」
「ああ。」
まだ、先があるのか、あのおじさんとエルザおばさんとのバトルに。
相槌一つ、まだ聞き入る。
「おじさんね、ボロボロで、傷だらけでも、誇らしげだったんだ。〝傷は男の勲章!〟って言って、笑って。……涙目だったけど、でも、そうやって、力強いの、すごいなって思うの!」
「……確かにね。」
アビーの感想に、俺は大きく頷く。
おっちょこちょいだが、変に不器用だが、力強く、また、優しい。
その寛大なそれは、あの大男たるおじさんに相応しい、心構えだ。
感心した。
すると。
「ぶぁあああくしょい!!!!」
遠くから野太いくしゃみの声が響いてくる。噂したがための、知らせだ。
「何か、悪い気がしてきた。」
俺はぽつりと呟く。このまま、あの人のことでいじるのも、何だかな、と。
「うん。そうだね。それに、もうすぐだし!さあ、頑張って行こう!」
アビーの頷きに、気合を入れた一言で、歩を進めて行った。
「着いたー!」
アビーの達成感溢れる一声に、歩が止まったなら。
そこは森から開けた草原のようで、さわさわと風と草が歌う。
後方に見える、高木の木々のトンネルとは対照的に、ここにそれらはない。
背丈より少し高いぐらいの低木が、まばらにあるだけで、他はもう草ばかりだ。
薬草なんてありそうにないが。
ただ、漂う香りに、草とは違うものを感じることから。
あるかもしれないと思う。
「よーし、まず休憩!」
目的地に着いたなら、まずやるのは休憩らしく。
言ってアビーは草の絨毯にダイブする。
「あっ!」
が、したらしたで、何かに気づきさっと起き上がる。
「どうした?」
「木の実がなってるっ!えへへっ、休憩ついでに、登って採ろうよ!」
アビーが言って指さす先に見えたのは、橙色に実った木の実で。
ミカンのようだった。ただ、ミカンの木にしては、大きく太い。
そうであっても、登れそうな感じではあった。。
跳ねるように走ったなら、その実りがある木に向かう。俺も後をつけた。
「そうだ!これぐらいなら、余裕で登れるよね?」
その木に到着したなら、俺に提案をしてくる。
「……。」
言われてその木を見上げたなら、確かに登れそうではある。
昨日とは違い、落ちても痛くはないかもしれない。大丈夫だと、俺は頷いた。
「それじゃっ!今日は大和ちゃんが先頭だね!」
「ああ、やってみる。」
アビーの掛け声、俺はまた頷き、そっとその木の幹に足を掛けた。
力を掛けても折れることはなく、登れそうだ。
腕と足と、きちんと動かしたなら、たやすく登り、やがて頂点へ到達する。
「大和ちゃん、すごいすごい!!」
下から俺を褒める声が聞こえる。
「!!」
その声を聞き、体中がふと暖かくなった。
きっとそれは、初めてできたという、達成感のようなもの。
俺は、嬉しくなり、そっと笑みを浮かべた。
木の実いくつかもぎ取ったなら、抱えて、さっと降りる。
「!」
着地も上手くできた。そのことに俺は、また目を丸くする。
「すごいすごい!!やったね、大和ちゃん!」
「あ、ああ。」
アビーは褒めちぎってきた。自分ができたこと、もっと嬉しくなった。
「!」
褒めちぎりの言葉だけじゃない。
アビーは、徐に近づいては、俺の頭に手を伸ばし、撫でてきた。
「よしよし!偉い偉い!大和ちゃん、できる子!」
「……。」
褒める言葉をその手に乗せて、撫でられる。
俺は、こそばゆさも相まって、顔がまた赤くなった。
「え、えと、あ、ありがとう。ほ、ほら、その、食べようって言ってたの、採ってきたよ……。」
その顔を隠すように伏せながらも、お礼を言って。
さっき採った木の実を手渡した。
途中、気恥ずかしさもあって、口がよく動かなくなってしまう。
すっと、アビーは受け取ったなら、にっこりと笑顔を向けて。
「うん!そうだね!食べよっ!エルザさんのおにぎりも一緒に。」
そう言った。
休憩に、手渡されたおにぎりと、木の実をいただく。
おにぎりは、一昨日食べたものとそう変わりないが。
木の実はやはりミカンのようで。
柑橘類の酸味に、独特の甘さから、俺の馴染みある。
炬燵の上に備えられるあのミカンに間違いない。
外の皮を剥くと、もちろん知ったるミカンの色合いだ。
滴る果汁もまた、そうであると訴え、さらに、俺たちの喉を潤していく。
「あれぇ?大和ちゃん不思議な食べ方~。」
「えっ?」
ミカンを同じく食べていたが、皮を剥いて食べていたのは俺で。
アビーはそのままダイレクトに貪っている。
俺のその行動が不思議に思え、聞かれた。
俺は、意外な聞かれ方に目を丸くする。
「あ、でも、昔はそうやって食べていたって、聞いたねぇ。あたしはその、あんまり器用じゃないから、上手くできなくて……。」
続けて彼女は、俯いてしまう。
「……ええと、ま、人それぞれ、得意不得意もあったり……だから、そこまで気にしなくていいんじゃないか?」
らしくない様子に、俺は励ましの言葉を掛けた。
「えへへっ。言われちゃった。」
「……はは。」
励まされたと笑う、アビー。らしい顔に戻ったなら、俺もそっと笑った。
食事を採って、座り込んで長閑を満喫していたら。
「!」
途端俺たちの頭上が暗くなり、轟音と共に風も舞う。思わず耳を塞いだ。
草原を優しく撫でるそれではない、切り裂いて押し進む風。
何事かと空を見上げたなら、見えたものに。
ここが古民家の馴染む、長閑な世界などではない。
帝国と共和連邦が争う世界、つまりは異世界であったことを、初めて認識させた。
その空にあった物、それは。
金属でできた鳥の群れ、航空機たちだ。
巨大な航空機がまばらにあり。
また、その機体の下には、巨大な箱のような物がぶら下げてある。
その巨大な航空機を守るように、小さな航空機たちが飛ぶ。
それぞれ異なる、空気を切り裂く轟音ながら。
秩序正しく飛行していき、やがて見えなくなった。
その光景に俺は、固唾を呑む。
改めて異世界だと感じた。
その航空機たち、俺のいた世界でも見たことある形状に近いが。
残念ながらその時存在していない。
それが存在している、繰り返すようだが異世界だ。
「……。」
「!」
また、その光景を見て、圧倒される傍らのアビーが。
やけに静かなのが気になってしょうがない。見れば、静かで、……暗い。
さっきのような、自分の弱さを見せた暗さではない。
別の、そう緊張と言うべきか、いつものアビーらしからない。
「……〝戦場〟だね……。」
「!」
俺が言葉を紡ぐより先に、アビーがぽつりと呟いてくる。
「……〝戦場〟?」
オウム返しのように、聞いた。
もし、その単語が俺の知っているものなら。
イメージだけど、銃弾や砲弾、ミサイルが飛び交う、あの……。
時に、狙撃手が狙い、最悪、殲滅兵器が持ち出されて。
凄惨な光景を見せつける、あの戦場という言葉だろうか。
「うん、そう。〝戦場〟。帝国と、共和の人たちの……。大きなマキナが暴れて、光る光弾が飛び交うの。あたしが聞いた話だとね、ここから南に、お山をいくつも超えた先で、戦っているんだって。」
「……。」
アビーが説明する。概ねイメージ通りのようで。
俺は、聞いて、複雑な顔をする。
あの、長閑な村の世界とは違う世界が。
山の向こうの、その果てにあると思うと……。
あの村を見たら、その戦場とは無縁そうに見えてならないのだが。
これだと、違和感が……。
「……でも終わったら……。」
「終わったら?」
真剣な顔で言葉が紡がれていくものの。
次第に声色が変わり、いつもの調子に戻りつつある。
「……〝スフィア狩り〟だねっ!ふふぅ~!楽しみ~!」
「……。」
緊張を含みながら、いつものような調子以上に言っては、体を伸ばした。
今度は、そんな変貌を見て唖然とする。
「あ、〝スフィア狩り〟ってのはね、マキナの残骸?から、スフィアを漁ってくるお仕事なんだぁ。緊張するお仕事でね、ワクワクもするの!でね、面白い物もあるから、もしかしたら行けるかもしれないね!」
「お、おう……。」
俺が気になった単語を言うよりも速く、アビーが追加で説明してくる。
やはりこの時もテンションは高かった。
俺は圧倒されっぱなしで、頷くことしかできずにいる。
そんな俺をよそに、アビーは立ち上がって、体を伸ばして。
気合を入れるように拳を空に上げたなら。
「よぅしっ!薬草早く採って、その日に備えるぞー!おー!」
元気いっぱいに言うのだった。
その様子は、アビーらしいや。
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