▲▲つ8っ! やまとちゃんのふくー

 その仲裁の何のは、置いておいて。

 アビーが集めてきた食材を、俺とマフィンも加えて運んでいく。

 近くに畑があって、自分たちで作っていた物らしい。

 それにしても、かなりの量で。また、俺が男であるためか、多く持たされている。

 大量でありながらも、持っていける自分に、驚きだ。

 別に、重すぎて持てないほどではないにしろ。

 思った以上にこの体は力が出るみたいで。

 「すっごーい!男の子だね!」

 「私も助かるわ。収穫の時はいつも私が持っていたから。あ、アビーも持っていたわね。」

 さっきのしょんぼりはもういない。

 二人とも俺に賞賛を浴びせてきた。

 「お、お褒めに……預かり……光栄です……。」

 お礼だが、気を抜くと落としそうなため、上手く口を動かせないでいる。

 アビーの家とは違い、近代的な、知ったる台所がある。

 金属製のシンクに、コンロ。

 冷蔵庫に、他、調理器具の数々。まさしく。

 そんな場所にまで持って行って、置いたなら床に座り込んでしまう。

 疲労に動けないかも、少し休憩。

 「お疲れ様。」

 「大和ちゃんお疲れー!」 

 アビーとマフィン二人が、労いの言葉を掛けてくれた。

 「あ……。ありがとう……。」

 疲弊した口ながら、お礼を述べた。

 料理の開始。

 何だかじっとしていられない、疲労はどこへ行ったか。

 手伝いたいと俺は立ち上がったなら、マフィンが制してくる。

 「?」

 「あなたには、ちょっと要件があるわ。……いいえ、思い出したことがあったの。それに、お手伝いはアビーでいいわ。お婆さまもいるんですもの、何とかできまもの。」

 何か、要件があるみたいで、俺を手招きしてくる。

 それに、アビーが何とかやってくれるそうな。 

 手招かれ、台所から、今度は客間より小さい。

 多分マフィンの部屋だろう、案内される。

 中は簡素で、女の子みたいに飾り立てたものじゃない。

 レトロな感じさせして、簡素な机、衣装入れ、それと姿鏡程度しかない。

 「ええと、どういう要件で?」

 部屋に入って俺は聞いてみた。

 「服よ服。それ、アビーのお下がりでしょ?あの子、昔その服着ていたもの、よく覚えているわ。多分合うのないでしょうからね、昨日あの後、あなたを診断した後、用意していたの。あなた、裸で出歩きたくないでしょ?」 

 「あ……。」

 内容に、そう言えばと思い出す。

 ちょっとした内容に、また、最後の言葉に顔を赤くする。

 マフィンは、伝えたなら、そっと衣装入れを開けた。

 そこから取り出されたのは、虎猫を模した風合いの服。

 下は短パンで、上は普通の半袖シャツながら、共に虎猫の柄をしている。

 また、靴もあり、それも虎猫風だ。

 「何よりあなた、〝虎猫〟ですもの、アビーみたいな赤茶色の風合いは似合わないと思うの。はい、どうぞ、着てみて。」

 「あ……、ありがとう。」

 手渡して、親切にアドバイスも言っても来る。

 虎柄に、アビーの色合いはさすがに、似合わないでしょう、だと。

 俺は、お礼を言った。

 「あと、これ。男の子用。」

 「!あ、ありがとう。」

 また、下着もくれた。女性用ではなく、ちゃんと男性用の物。

 トランクスタイプだ。その、手渡した時、マフィンの顔が赤くなった。

 そも、異性だ、変に意識しそうになりえる。

 「そ、その、ここで着替えていいから。その方がいいでしょ?私、台所に行ってくるから……。」

 「あ、うん……。」

 俺もまた、より顔を赤くしそうになる。

 気遣いの一言を言って、マフィンは部屋を一旦出た。

 と、思ったらまた引き返して覗く。

 「……あと、私物、机の中とか、衣装入れとか漁らないでね。……漁ったり、覗いたりしたら……。……。」

 「!!の、覗かないから!」

 どうやら、何かしないように釘を刺しに戻ったようで。

 赤面から一転して、鬼の形相にも似たものに変わり。

 また、スフィアを取り出しては、発光、威圧が俺に向けられた。

 俺は背筋を凍らせ、首を横に振る。

 「……そう……。」

 静かに言っては、去っていく。

 「……。」

 俺は、覗くつもりはないが、仮に覗いたら殺されそうだ。

 大人しく、着替えることだけにする。

 「……ふぅむ……。」

 アビーから貰った服や下着を脱ぎ。

 マフィンが用意してくれた品々を身に着けたなら、しっくりくる感じで。

 サイズも丁度良く、また、動きやすくはある。

 姿鏡に映せば、自分の毛色と相まって、なお丁度良く感じ。

 感嘆に近い息を漏らした。

 元々着ていた服を、丁寧に畳んだなら。

 これがお下がりであったことを再認識して思うこと。

 「それにしても、すごいな。」

 誰かのお下がりならまだしも、一から用意したとするなら。

 マフィンはすごいし、また、大変感謝したくなる。

 それも踏まえてぽつりと呟いた。

 「……ええと、マフィン……は、いないか。」

 着替えたなら、戸を開けて、周りを見渡すものの、マフィンはいない。 

 代わりに、この部屋まで香ってくる、炊飯のいい香り。

 そう言えば、台所に行っている、と言っていたな。

 俺は、部屋を出て、台所まで向かった。

 「……ええと、マフィン……。」

 台所に顔を出すなり、さっきと同じセリフを言ったなら。

 「!あら、あなた……。なかなか似合うわね。」

 マフィンの第一声はそれで。

 食事の準備中で、割烹着を着て調理場で手を動かしながら。

 こちらの方を振り返り、言った。しっくりしたわね、そんな感じで褒めてくれた。

 「……その、ありがとう。わざわざ用意してくれたんだよな。」

 重ね重ねのお礼を述べる。

 「いいのよ。それに、裸で出歩かれるのも、見ているこちらが恥ずかしくなるし、寒さで震えるの、見ていられないもの。それに、対して苦労してないわ、指を弾くだけで、できるようなものだもの。」

 「……それは、すごいな。」

 ふっと、微笑み、礼には及ばないというような感じで返してくる。

 その内容に、俺は感心した。

 「!わぁ!大和ちゃん、素敵!」

 料理の手伝いをしていたアビーが、隅の方から顔を出す。

 マフィンとの内容を聞いて、また、俺の姿を見て褒めてきた。

 「ありがとう。」

 素直にお礼を言った。

 「ねっ!すごいでしょ!えっへん!」 

 「……。」

 続くことに、さも自分のことのように自信満々に、胸を張る。

 俺は沈黙して聞かなかったことにする。

 「何でアビーが胸を張るの!私のことなのに!まったく……。」

 「てへっ!ごめんね。」

 それは私のセリフと、マフィンが軽く叱る。

 舌を出して、アビーはおどけながらも謝った。

 険悪な感じはなく、仲がよろしいようで。

 「まったく、アビーは……。ほら、手が止まってる!速く動かしなさい。」

 「はぁ~い。」

 呆れながら、料理の手が止まっていると、注意、このやり取りを締め括った。

 生返事一つ、アビーは自分の持ち場に戻る。

 「ええと、俺はどうすれば、いい?」

 用事もない、なら、手伝えることがあるなら、手伝いたいな。

 ちょっと言葉を漏らしてみる。

 なにせ、服を見繕ってくれたこともある、何か返せることがあるなら、と。

 「いいえ。あなたは居間でくつろいでいなさいな。お礼に何かしたいってなら、それは別の機会でいいわ。」

 「はぁ……。」

 やっぱりマフィンはしなくていいという感じで。

 「そうね、その代わり、今度スフィア、あるいはスフィアの原石を持ってきてくれればいいわ。だから、今日はゆっくりしていきなさい。」

 「……分かった。」

 代わりとしての頼みは、スフィアを採ってきてくれと。

 俺は了解の意で頭を下げた。


 料理が完成して、客間に運ばれる。

 内容は、どれも素朴な、田舎で採れた野菜を作った、数々の料理。

 郷土料理だろうか、そういう物だ。

 「それでは、いただきます。」

 マフィンの合図で、それぞれ両手を合わせる。

 号令をやった後、村長が料理に手を付けたなら、それぞれ手を付けていった。

 「んー!おーいしー!」

 料理を頬張ったアビーが一番に感想を言ってきた。

 労働を行ったことも含めて、とても満足そうに、笑顔いっぱいで言ってくる。

 「……おいしい。」

 俺も口にしたなら、アビーと同じ感想を。

 傍ら、脳裏には、これほどおいしい物を久し振りに食べたとも感じてしまう。

 感嘆の息が、前後に漏れた。

 その、前世?といえばいいか。

 その時はもう、食べ物の味なんて感じていなかった気がする。

 「……ふふっ。お粗末さま。」

 言われたマフィンもまた、嬉しくて笑顔だ。


 昼食を食べて、食器を片付けたなら、麓へ戻る。

 聞きたいことも聞けたし、まだ実感はないが、時代も分かった。

 その満足な帰路に差し掛かる、その寸で、村長の家の玄関を振り返るなら。

 マフィンと村長が見送ってくれていた。マフィンに至っては、手を振りながら。

 「今日はありがとー!」

 アビーは見送る二人にお礼を残す。

 「その、色々とありがとう!」

 俺も続けた。

 「いいのですよ!また、困ったら訪ねてきてくださいね!」 

 返答は、マフィンだ。そっと笑い、振る手も大きく、見送ってくれた。


 そうしてまた来た道を引き返す。

 来た時はある意味全力疾走だったが、ここからはゆっくりに。

 俺はその道中、履いている靴を気にして、動きながら。

 履き心地など確認していた。

 俺用だということで、本当に、しっくり来ている。

 これなら、来る前に一緒にやった、木登りも楽にできそうだ。

 「どうしたの?」

 俺がそういう風にしていたなら、首を傾げながらアビーが聞いてきた。

 「いや、結構しっくりくるな、とね。すごいんだな、本当。」

 それはピッタリだからと、俺は。マフィンのすごさへの感嘆を添えて。

 「そうだよ!すっごいんだから。あたしの服も、作ってもらったことがあるんだ!」

 自分のことのように自慢げに返答が。

 「しかし、どうやっているんだろうな。あの時の診断だけで、俺のサイズを測ったり、もう、服を作ってあったりと。」

 湧いてきた疑問を、呟いてみる。 

 「ん~とね。マフィンちゃんすごいんだよっ!」

 それで言葉を区切ってきた。

 すごいの、一点張りはいいとしても、どうしてかこれじゃ分からない。

 「具体的に?」 

 俺は追求してみる。 

 「ええとね、マフィンちゃんの家に、何か機械か道具があって。」

 「ほう。」 

 「糸が沢山付いている機械でね、スフィアが取り付けられていて、マフィンちゃんが指を鳴らすだけで服を作ってくれるんだ。あたし、見たことがあるんだよ。」

 「へぇ……。」 

 追求した先で、どうやら自動の縫製機、裁断機とかがあるのだろう。

 洋裁が簡単にできるとみれる。

 案内されなかったから。

 実物を見たことがない故、あんまり想像できないでいるが。

 「サイズを測るのもすごいんだよ!」

 「それも気になるね。」

 続けられる、マフィンのすごさ。

 診断だけで、俺のサイズを把握するとか、なかなかなものだろう。

 「何でも、触ったら大体分かるんだって。ん~と、どう言えばいいのかな、相手の体から出る……オーラ?気……だっけ?それを感じるだけで、把握できて、ええと、何でも、スフィアを使う時の応用だって。」

 「……何となく、分かってきた。」

 アビーの説明から、おおよそ掴めた。

 オーラとか、気功とか、そういうのにも長けていそうな雰囲気から。

 それで把握できているに違いない。

 「あたし、よく服をダメにしちゃうから……。その度に色々言われたり。」

 「へぇ。」

 「……〝また破いて!〟とか、〝……また小さくなった?!まだ成長しているの?!〟とか。そんなに背は変わっていないのに……。……もしかして、胸?」

 「……。」

 ただ、文句は言われているようで。最後気になることを呟いたなら。

 アビーは自分の胸に手を当てて、労わるようにさする。

 俺は、その様子に息を呑み、顔を赤くし、視線を逸らした。

 「……う~ん。分っかんないや!」

 文句に対する言葉なんて、どうでもよくなってきたようで。

 もう、すっかり元のアビーだ、何も考えてなさそう。

 「……そう。」 

 俺は、らしいなと、静かに呟く。 

 「!あ、そう言えば。」

 「?」

 話題の切り替わり。

 「……服もらった後、何か言われた?あたしなんか、服を直したから、町までお使い、とか言われたことあるんだよぉ?」

 「ああ……。」

 まあ、しょっちゅう服を傷めていたら、何だか言われそうだな。

 アビーは言われたらしく、少し不満そうに言ってくる。

 「……特に何も頼まれては……。」

 「え~!ズルいズルい!……あたしばっかり……。」

 特になかったと言ったなら、羨ましそうな顔で言ってくる。

 「!いや、待てよ……。」

 はたと思い出すことには。

 「?」

 「……思い出した。マフィンに言われたこと。スフィアの原石を持ってくれたら、とか、スフィアを採ってきてくれたら、とか。」

 言葉を区切って思い出したことは、……ある意味お使いだった。

 「うわぁ……。」

 最初首を傾げていたが、聞いたアビーは顔を暗くする。

 何だか、俺が言ったことが、悪い話題のようで。

 「ええと、これって、相当まずい?危険?」

 聞いてみる。

 「……う~、マフィンちゃん鬼だー……。だって、危険も危険だよぉ。ええと、スフィアの原石採取って、危険な廃鉱に行かなくちゃいけないし、スフィアに加工された物を手に入れるなんて、もっと危険な場所に行かないといけないし。どうしよう……。大和ちゃんが死んじゃう……。」

 みるみる内に不安そうになったなら、伝えられる危険な予感。

 「……。」

 そのアビーらしからぬ様子に、どれほどか想像し、絶句する。

 「ううん!負けてちゃダメ。あたしが守るんだ!あたしが、大和ちゃんを助けるんだ!」

 その表情の曇りは、アビーの強い決意によって掻き消されていく。

 拳を握り、力強ささえ感じるその姿、頼もしささえ感じた。

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