▲▲つ4っ! いっしょにいこっ

 家に入る光が少なくなり、暗闇が現れ始める。……夕暮れが過ぎたぐらいか。

 俺が気が付いてから、結構な時間が過ぎたのだろう。

 アビーが気づいたなら、また階段を上って何か、探してくる。

 大した物じゃないようで、片手に握りしめられるほどの大きさ。

 階段から降りて来るなり、その〝何か〟を、潰すような感じで握った。

 「!」

 途端溢れる光、古民家の中を満たす。

 夕闇に眠ろうとしていた、数々の品々は、この時また目を覚ますのだ。

 俺はまた、いきなりのそれに、目を丸くさせ、見入ってしまう。

 「……それは?」

 俺はアビーに聞いてみた。 

 「これが〝スフィア〟だよ!ね、光ってるでしょ?」

 「……。」 

 これが、〝スフィア〟というものらしい。確かに、自ら発光しているな。

 「あと、これから〝えねるぎー〟?だっけ、採れて、お湯を沸かしたり、色んなこともできるんだよ!あたしたち、これを使って生活しているんだ!」

 「……へぇ……。」

 追加解説、なお、えっへんと自慢気だ。俺は感心する。

 どうやら、その光る水晶玉は、ビストたちにとっても生活必需品のようらしく。

 光、熱などの源、つまりは、〝えねるぎー〟、エネルギー源ということか。

 原理は分からないが、扱い方は分かるらしい。

 「あ……。」

 自慢気なのは良かったが、水を差すようにアビーのお腹が鳴る。

 ちょっとだけ、恥ずかしさに頬が赤く染まった。

 「えと、お腹、空いてるよね?」

 「……ああ。」

 誤魔化しも踏まえて、俺に聞いてくる。

 彼女はもちろん、俺は、腹が鳴っていなくても、空いているのは感じていた。

 同意する。

 「……お店、開いているかな……。」

 不安そうだ。

 また、何より、俺がどれぐらい眠っていたかは知らないが。

 俺に対してより不安そうに見つめていた。

 マフィンさんから言われたこと、栄養を採ってとか、反芻する感じで。

 そっと頭の側面に、両手の人差し指を当てて。

 ねじ込むように動かして、考え出した。

 そっと顔を上げたなら。

 より頬を赤くして、自分の、それなりの大きさの胸に手を当てて、……揉みだす。

 「……出るかな……?」

 「!!いやいやいや!!!普通に何か、適当に食べられるものとかで!」

 ……それがどういう行為か、察しがついた。

 アビーの少し恥ずかしそうながら、優しそうな笑みで。

 俺に視線を送って告げる言葉に、俺はさらに顔を赤くして。

 首を横に振り、普通に食べられる物をと要求した。

 「分かった!じゃあ、何か貰ってくるよ!」

 「……そうだね……。」

 飲み水など、確保するついでだと、アビーは何か貰えないか。

 尋ねてくれるそうだ。俺は頭を下げ、彼女を見送る。


 バタバタと、外から音がしたなら、勢いよく開き。

 アビーが両手に、収まり切れないほど大きなおにぎりを二つ持ってくる。

 「えへへ!いつもお世話になってるからねって!お隣さんがくれたんだ!」

 とびっきりの笑顔で差し出してくる。

 「……。」

 その大きさに、絶句した。

 どうだろうか、俺の口に入るのだろうか?

 「はい!これ!」

 「……あ、ああ……。」

 一つ俺に渡すものの、あまりの大きさだ、上手く手に取れるのだろうか不安で。

 言葉が震えてしまう。

 「!!」

 やっぱりだが、思ったより重量がある。

 思わず落としそうになるものの、辛うじて堪えた。

 俺とアビー二人、家の中央、囲炉裏の場所へ。

 アビーは楽々持っているものの、俺の場合、その大きさに震えながら持っていく。

 座ったなら。

 「いっただきまーす!!」

 アビーは元気よく、食べ物への挨拶を。

 「い……いただきます……。……いきなり、食えるか、これ……。」

 俺も続けるものの、……おにぎりの大きさに圧倒され、不安げに。

 少しずつ、頬張ってみる。

 アビーは、勢いよく食べ進めて、なんと、半分まで食べてしまっていた。

 「は、早いっ!!」

 その食べっぷりに、思わず漏れた一言。

 「ん~!おいしー!」

 掛けられた本人は、大変美味しそうに食べていた。

 そのおいしさのあまり、頬が崩れてしまいそうなほどに。

 「……確かに……。」

 遅れて俺も、感じた味に、コメントを。同じような意見で。

 食べていたら見える、具材。魚と、昆布のようで。

 それぞれが、お米によく合っている。

 ……この馴染みある具材、存在しているんだ。ふと、感心してしまう。


 「ふ~!ご馳走様!」

 食べ終えて、アビーが満足そうに一言、食材への感謝を述べて。

 「ご、ご馳走様……。うっぷ……食べ過ぎた……。」

 俺に至っては、かなりの量だった。お礼を述べるものの。

 重くなった腹部の苦しさに、軽く気分が悪くなる。

 腹部の重さに耐えかねて、終いには、最初と同じよう床に仰向けになってしまう。

 と、アビーもまた、俺と同じように仰向けになり。

 互いの頭がすれ違いそうになった。

 互いの猫耳が触れ合い、それがこそばゆく、俺は笑みを浮かべる。

 視線が上の、アビーに向いたなら、アビーは俺を見て。

 また同じように笑みを浮かべている。

 「えへへっ!何だかあたしたち、気が合うね!」

 「……ははっ……。」

 楽しそうに言ってくる。俺は、言葉なくとも、笑顔で返した。

 「このまま、寝ちゃおっか!」

 「……だな。」

 続くそれに、俺は頷く。


 「……。」

 そのまま瞳を閉じて、はっと、気が付いて開いたなら。

 朝の陽光が俺に射し込んでいた。

 夢を見ていないために、寝ることができているか不安で仕方がない。

 ただ、肉体の感じから、休息は取れていると理解できた。

 「!!うぉ……。」

 傍ら、柔らかい何かを感じたなら、傍で眠るアビー、その胸に手が。

 なぜだか、薄着で、胸と股を覆うほどの布面積でしかない。

 その様子に、俺は朝から早々、息を呑んでしまった。

 また、一緒に寝ていたと意識したなら、余計顔が赤くなる。

 「……にゃ?」

 そっと目を開くアビー、寝起きは悪くないのか、俺を見て。

 そっと優しく微笑んでくる。 

 「おはよう、大和ちゃん。」

 その顔で、優し気に挨拶を。

 「あ、ああ。おはよう。」

 気恥ずかしさのまま、お返しを。

 聞いたなら、アビーは猫のように這い、大きく体を伸ばし。

 猫のように背中を逸らしたりした。

 「ふぁああ……。」

 「?!」 

 大きな欠伸一つ。その様子は猫そのものでありながら。

 体つきが人の女性故、もっと緊張を俺に与えてしまう。

 「?あれ、体伸ばさないの?よくほぐれるよ?」

 「えぇ……。」

 これが普通なのにと不思議がるアビー。

 俺は戸惑ってしまう。

 「!もしかして、よく分からない?じゃあ、一緒にやったげるよ!」

 「え、ええ?!」

 戸惑いが、躊躇いと捉えられたか。

 アビーは俺にストレッチをしてあげようと意気揚々だ。若干俺は引き気味に。

 静止の声を上げようにも、もうその気のアビーを止めることはできず。

 俺は成すがままになってしまう。

 「?!」 

 「それじゃ、いっくよぉ!」

 取っ組み合う形になったなら、アビーが号令を掛ける。

 俺は、ものすごい激痛に苛まれると思い。

 苦痛から目をそらすために、目を瞑った。

 「?!あ、あれ……?!」

 思いっきり、上体を逸らされたが、不思議なことに痛みはない。

 むしろ、思った以上に体が柔らかい。

 「上手上手!ね、簡単でしょ?」

 アビーはそんな俺を褒める言葉を掛けた。体が戻されたなら。

 ちらりと振り返り彼女を見るなら、その表情は、とても慈愛に満ちた感じで。


 体を猫のようにストレッチしたなら、服を整える。

 アビーは上から猫の毛皮のように、模様の入った服を着て。

 また、下に同じく赤毛風のショートスカートを着る。

 「よしっ!今日もいい日いい日!」

 調子がよさそうで、そんな言葉が漏れる。

 「……。」

 が、俺は下着のままであり、肝心の着るものがない。

 こればっかりは、黙するしかなく。 

 「!あ、待って。あたしのお古だけど、あげるよ!」

 感づいたアビー、また昨日と同じように階段を下げて、ぱたぱたと上階へ。

 漁ったなら同じように、今度は服を両手に携えて持ってきた。

 「……ありがとう。」

 お礼を言い、受け取ったなら早速着てみた。

 「……ん?」 

 待てよ、と俺は思う。

 〝お古〟って言っていたよね、アビー。まさかこれも、女物じゃないか?

 不安になってくるものの、着てみた。

 上は、ダボダボした感じがするが、多分彼女のバストの大きさだろう。

 下は、スカートじゃなく、ショートパンツ。

 ……スカートよりは違和感がないが。

 やはり、〝お古〟ということが、嫌に意識させてしまう。

 また、赤毛に合わせた色合いから、服として着たことがないことも一因だ。

 「うん!大丈夫っ!よく似合ってる!」

 傍らのアビーは、俺の着た様子に、賞賛を送る。俺は違和感で、素直に喜べない。

 出掛ける前、服装をきちんと見て、よしっ!と気合を入れたなら。

 昨日使った水晶玉を、腰のポケットに入れて、大事そうにさする。

 俺は、その行為が少し気になってしまう。

 大切なエネルギー源だとは聞いたが、ここまで大事にするとは。

 出掛ける前の準備と、俺は、自分自身のバックパックを背負う。

 ふとその時、自分もまた、彼女と同じように大事にさすっていた。

 一緒のその行為に、照れ臭く感じる。

 土間でアビーは、赤毛風の靴を取り出して履く。

 「あー……。靴はどうかなぁ……。あたし、よくダメにしちゃうから、あんまり予備とかないんだった……。」

 こればかりは、と残念そうに言ってきた。

 その代わりとして、草で編んだ、サンダル状の物を手渡してくる。

 〝草履〟だ。彼女にしては、大き目な気がする。

 「よく分からないけど、マフィンちゃんに教わって、お隣の〝鹿の人〟が作ったって。あたしだと、ちょっと壊しちゃいそうで嫌だな。でも、大和ちゃんなら、きちんと扱ってくれそうだから、あげる!」

 誰かが作ってくれた物らしいが、扱い方が分からないと。 

 申し訳なさそうに言い、手渡してくる。

 「いいのか?アビーのためを思って作ってくれたと思うと、……さすがに受け取りにくいな。」 

 俺は躊躇いを言う。

 「いいのいいの!使って!」

 「……分かった。」  

 躊躇を、押しで退けてくるアビー、俺は頷いた。

 戸が開かれ、アビーと共に外の世界に足を踏み出したなら。

 広がるそれは、懐かしい世界。

 心地よい風が通り抜け、木々の葉を揺らす。揺られ、また、鳥たちが歌う。

 木々や緑に遮られ漏れる光もまた、心地よい。

 遠くから、水の流れる音。

 目をやれば、清流が、また、途中途中にある田畑に、潤いをやっていた。

 また、この家が高い所だったからか、幅広く見渡せ。

 その田畑と、清流に、まばらにある家々も捉えることができた。

 その光景、〝原風景〟。

 日本の、原風景、田舎の風景。

 ふとふと、懐かしくも思え。

 退屈がありそうな光景でありながら、しかし俺は、感嘆の息を漏らす。

 「行こっ!」

 「……ああ。」

 優しく微笑んだ彼女が、手を差し伸べてくる。俺は、頷いてその手を取った。

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