▲▲つ3っ! やまとちゃん

 さらに、水面に映った俺の姿が、裸であることが、驚愕に拍車を掛け。

 顔を赤くさせてしまう。

 「わ、わぁぁぁ?!」

 またしても絶叫、俺は慌てて何か、隠せる物がないかを探し始めた。

 「!」

 俺の慌てぶり、絶叫に目を丸くして。

 今にも逃げそうだったアビーは、慌てふためく俺を見て一転。

 がばっと、覆うように抱き締めてきた。

 「大丈夫大丈夫っ!あたしがいるじゃない!」

 「!!」

 互いの呼吸が混ざり合いそうなほどの接近、心音さえ聞こえて。

 俺は、思わず息をのんだ。

 確かに、裸を覆うことに変わりはないが、これは、何か違うぞ。

 別の意味で、俺は緊張してしまう。

 それは、ちょっと大人な、あれこれそれこれ……。

 「……ええと、その、アビー……さん?ありがたいんだけど、その、何か、下着とか、俺の大事な部分を隠せるものとか、……ない?」

 別の意味で顔が赤くなりそうで、アビーに聞いてみた?

 「?」

 よく分かっていないようで、首を傾げてくる。

 「!そうだね、それじゃ、寒いもんね!分かった!」

 ちょっと思考したら、理解してくれた。

 理解してくれた上で、天井の、引手のような物を引っ張って。

 階段を下したなら、急いで上に上がっていく。

 ごそごそとした音が聞こえたなら、また急いで戻ってきた。

 その手には、絹製の何かが握られている。 

 ……パンツのようだが、女物。

 「……。」  

 何度目か、恥ずかしい。顔が赤くなる。

 「あたしのお古だけど、大丈夫かなぁ?一応、きれいに洗ったし。」

 悪気のない言葉と行動に、俺は、どう言えばいいのだ……。

 違うとも言えず、このままの状態も、何か嫌だ。

 やむを得ない、履くしか……。

 気恥ずかしさながら、男の大事な部分を覆い隠せたのはいいものの。

 別の意味で緊張が。

 女物を、それも、アビーの使い古しときたら、背徳感さえ覚えて仕方がない。

 「これで、大丈夫、だね。」

 「……。」

 アビーの笑顔とガッツポーズに、何も言えないでいる。

 「そうだ、まだお話の途中だったね!ごめんね。あたしたちのこと、詳しく、かな?」

 「!そ、そうだな。」

 気を取り直して、話題が戻った。

 俺は、頷く。

 ようやく自分がどういう状態かが分かっただけで。

 この世界のことは詳しく知らない。

 「ええと、あたしたちビストは、獣……人……?だったかな、何かね、動物の特性を持った、人間、とかだったかな。……う~、うまく説明できないよぉ。明日、〝マフィン〟ちゃんに聞いてみようかな。あ、〝マフィン〟ちゃんってのは、さっきここにいた、髪の長い子だよ!あたしと、仲良しなんだ。村長さんのお孫さんで、〝ラガマフィン〟。色んなこと知っているんだ!」

 「はぁ……。」

 話は戻ったが、まだ理解できないで釈然としない。

 ここで理解できたことは、アビーと言い合っていた娘のことだけか。

 〝マフィン〟らしい。覚えておこう。

 「後は……。え~と……。」

 「いや、無理しなくていい。話が分かりそうな人間に尋ねるのが一番いいだろうな。それよりも、俺の名前、言っていなかったな、すまない、色々と話が脱線しすぎて。」

 まだ、歴史なり何なり、頭を巡らせていたところ、無理はしないよう言ってみる。

 脱線のし過ぎもさることながら、俺の名前、言っていない。

 「ごめん、そうだったね!」

 「俺の名前は……。」

 「え、〝トラネコ〟の、ええと、〝バッグ〟ちゃんじゃないの?」

 「がくっ!!」

 相手も思い出してくれたようだ、ちゃんと話を聞いてくれる。

 ……のだが、俺が名前を告げるよりも早く、適当な名前を言った。

 俺は思わず、体を伏せてしまう。

 誰だ?適当な名前を付けたのは。……目の前の、アビーな気がして仕方がない。

 「何で?だってそうでしょ?あたしが背負った時、大切にバッグを抱えていたよぉ!じゃあ、〝バッグ〟ちゃんでいいよね?」

 「……ちゃんと名前がある、ちゃんとな。失礼だな……。」 

 そこで首を傾げて言われても。俺は、はっきりと言っておいた。

 「……大和、『大空 大和』。『大空』は、名字、あー……と、何ていうか、ファミリーネーム?かな、『大和』が名前。大和でいい。よろしく。」

 「『大和』……?大和。大和っ!不思議な名前ね!」

 俺が名乗ったなら、名前を反芻して、繰り返し。

 響きが気に入ったか、途中楽しそうに俺の名前を言っていた。

 聞いていた俺は、少し恥ずかしいやら、嬉しいやら、複雑だ。 

 「ま、名前負けだけどな。古い国の名前で、和み多く、偉大な人間であれ、だとさ。……現実は、残念ながらその通りにはならなかったけど。」

 その複雑さ掻き消す、ネガティブな付け加え。

 俺は、そこから少し、表情が暗くなってしまう。

 現実、そこまで大それた人間じゃない。

 何もできない、成せないまま、逝った。

 ただひたすら、現実の荒波に揉まれただけの、悲しい結末であったから。

 「?そんなことないよ!お父さんやお母さんが付けてくれた、大切な名前だよ!きっと、すごいことができるって。」

 「?!」

 しかしこの娘、聞いてなお優しいかな、元気づける言葉を俺に向けてきた。

 その言葉に、思わずはっとなる。

 優しい、この娘。どれほどだろう?

 「皆、何かができるよ!やってみたら、上手くいくこともあるよ。あたしだって、よくマフィンちゃんに注意されたりするけど、木登りとか、大得意だもん!」

 信念がある。自信に胸張って、アビーは締め括った。

 その信念に、俺はつい心動かされ、不安も緩和、そっと頬が緩んだ。

 「うんうん!笑ってなきゃ!どうにかなるよ!大和……ちゃんにも、きっとできること見つかるから!おまじないとして、撫でてあげる!よしよし!」

 「……。」 

 俺の行動に、元気が戻ったとアビーは、そっとより元気づけるため。

 言って俺の頭を撫でるのだ。こそばゆさ、次に今度は、嬉しさを感じる。

 そうして、元気が付いたと気づいたら、アビーは飲み水をと出掛けようとする。

 「!」

 俺はその時、思考を反芻した際に、ピンとくる言葉を見つけ、待ったを掛ける。

 〝バッグ〟……俺の、バックパック。今しがた、引っ掛かってきた。

 「ええと、アビー……さん?アビー……ちゃん?」

 「?どうしたの?あと、アビーでいいよ!もう、仲良しじゃない!」

 切り出しに、呼んでみる。

 俺に向き直り、また、どんな呼び方でもいいという表情をしている。

 「分かった、アビー。そう言えば、さっき俺のこと〝バッグ〟だの言って、由来が、背負われている時に、俺が持っていたものから……って言っていたからさ、その、俺の背負っていたそれ、どこだ?」

 頷き、気になったこと聞いてみた。

 確かに、身を投げ出す時に、大切な物として抱いていた。

 今も変わらない。それが、……唯一の心の拠り所で。

 「!ん~と、ちょっと待って……。」

 出入り口から反転、彼女はこちらに戻ってくる。

 俺に下着を与えたように、また階段を出し、上り、ゴソゴソと物音立てる。

 「あった!」

 歓喜の叫び一つ、足早に戻っては、俺に自慢げに見せる。

 バックパックは綺麗であり、ぞんざいに扱われてはいないようで。

 その様子に、ほっと胸を撫で下ろした。

 「ありがとう、アビー。」

 お礼を一つ、手を伸ばし、受け取った。

 伝わる重み、大切なものの重み。安心感が、俺に補充されていく。

 「ねぇねぇ!それって、中身は何?」

 「!……見てはいなかったんだ。」

 「うん!だって、大切そうに持っていたんだもん、勝手に見るのって、何だか嫌だなって!」

 兼ねてより興味はあったが。

 大切にしていたということもあり、彼女は勝手に覗いてはいなかった。

 その心遣い、有難く思い、そっと微笑んだ。

 ならば、期待している表情の彼女に、中身を見せるとしよう。

 その心遣いに、免じても。

 「……そうだな……。笑わない?」

 少しだけ、不安そうな前置きを一つ。

 「笑わないよ。誰だって、趣味があるんだもの。」

 「そう……か。」

 対する言葉は、尊重の念。いい娘だね、他人を尊重しているよ。

 その感覚が新鮮で仕方がない。

 ならばと開く、そのバックパックの口を。

 「?!」

 中に手を突っ込んで、まさぐってすぐに、……違和感を覚えた。

 中に、入れたことのない物品がすぐ手に当たり。

 入れたはずの物品が一切手に当たらない。

 ……何事かと俺は、その物品を手にして、引きずりだしたなら。

 ……それは、分厚い本の厚さで。

 丁度俺が入れたNN100と同じほどの大きさの、本のような物。

 その表と呼べる部分。

 本で言うところの表紙に当たる部分には、見事な水晶玉が埋め込まれている。

 その水晶玉、見覚えがあり。

 もしかしたら、俺が大切に持っていた水晶玉だろうか?

 その水晶玉が埋め込まれている反対側の面には、腕を通せるほどの取っ手があり。

 ……何だか、〝盾〟のように扱えるように思える。

 もっとも、盾とするには小さい。小手と併用するものなのかもしれない。

 ……しかしそれよりも、俺の大切な物はどこ行った?

 思い出のポストカード、あのノートパソコン、……水晶玉……。

 俺は、バックパックをひっくり返してまで探すものの、出ては来ない。

 この時、嫌に不安になった。

 「!!なにこれなにこれー!」

 一方で、俺の思っていることの代弁は、アビーがしてくれた。

 興味津々に、俺のバックパックから出てきたそれに言ってくる。

 俺は、気が気じゃない、不安感に苛まれ、彼女を尻目に探し続けてしまう。

 方や、興味の対象が俺ではなく。

 その〝盾〟に移ったアビーは、猫のように、手を丸くし。

 猫パンチを与えるかのように、突っついていた。

 「?!みぎゃぁ!!」

 「!!うわぁ!!」

 途端、水晶玉が激しく発光、電撃を辺りに撒き、アビーを吹っ飛ばす。

 俺は、電撃が脳に達する衝撃に、何か沢山の情報が駆け巡る感覚を得ていた。

 思わず、叫んでしまう。アビーもまた叫んでしまう、悲鳴を。

 あまりにも沢山の情報ながら、俺が得られたのは安心感。

 走馬燈のように巡る情報、映像。思い出の品々、大切な。

 微かながらも良かったと思えた思い出、それら沢山。

 そう、……原理は分からないが。

 その盾は、俺の大切な物が融合、合体した、……〝何か〟なのだった。

 ……便宜上『盾』と、呼んでおこう。

 《AWSドライブ。絶対防御展開。対象、ビスト・猫タイプ。対空光機関砲システム起動。》

 傍ら、機械的な音声で、盾が喋る。

 また、本で言うところの背表紙とその反対から、透明な板が伸びるのを目にする。

 その板に光が集まって来て、発光する。

 何だかよく分からないが、嫌な予感がした。

 「!!やめろ!!」

 俺は、咄嗟に叫んで、その盾に手を伸ばした。

 電撃が走る痛みを感じるかもしれないと、目を瞑りながらも。

 だが……。

 《管理者権限により、AWS停止。システム変更、監視モード。》

 電撃は走らず、むしろ、停止してしまう。

 盾から伸びた、光を集めていた板が格納され、水晶玉の発光も、止まる。

 「……。」

 止まったことに、安堵の息を一つ、漏らす。

 一方で、アビーの方を見ると、何だか、放心状態であった。

 「あの……アビー?おーい……。」

 俺は、彼女に近寄り、顔の前で手をひらひらとさせてみた。

 彼女は我を取り戻した。ぱっと目を明るくさせたなら。

 「すっごーい!なにそれなにそれ!!」

 興味津々が、濃度を増して、飛び跳ねて、俺のその盾を満遍なく見ていく。

 「……。」 

 変化に今度は、俺が放心状態になりそうだった。

 「ここにあるの、〝スフィア〟かなぁ?でも……。」

 「?」

 興味津々で、水晶玉の部分を指さすものの、少しだけ、暗い表情だ。

 また、ある単語、俺の中で引っ掛かってしょうがない。〝スフィア〟?

 「わっかんないや!明日、マフィンちゃんに聞いてみるね!」 

 「……ええと。」

 締め括りには、分からないやと思考停止に。あどけない表情で、首を傾げて。

 俺は、締め括られそうな雰囲気の中、少しだけ伸ばそうと、言葉を紡ぐ。

 「〝スフィア〟って、何だ?」

 と。

 「!」

 アビーは反応する。

 「んとね、〝スフィア〟ってね、自分で光る水晶玉なんだよ!」

 続けてくれた。少し得意げ。

 「ほう……。」

 俺は、より詳しく知りたくなる。

 「それで……?何で光るんだ?」

 光源もなしに光り輝くとは聞いたことはない。深堀のため続けてみた。

 「それだけ。」

 「……。」

 「……。」

 アビーの回答は、……納得のいくものではなく。そこからの、嫌な沈黙。

 「……わっかんないや!」

 「……そう、か。」

 ようやく締め括られるよ、その変に明るく、笑いながら言うその言葉によって。

 俺は、……マフィンさんに聞いてみようと思った。

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