第7話【分かる事、分からぬ事】

 霜降探偵事務所に小さな客人が訪れる。

 ベレー帽に、シャツにネクタイ。サスペンダーが付いた半ズボンに、長いブーツ。

 短い髪で、両手を腰に当てている。


「いらっしゃいませ、素敵なお坊っちゃま」


「ボーイッシュ!」


 響き渡る声には聞き覚えがあったが

 まさかそんなはずは、と戸惑いを隠せない。


「あら、美月みるなさん。

 今日のファッションも似合ってますよ。わたし好きです」


「でしょー?クラスでも評判いいの」


 皐月と美月みるなが笑いながら話しているのを、疎外感たっぷりに見ていた霜降は、女の子の変貌の凄さを感じていた。


「みるちゃーん!」


「あら、お友達ですか?」


「うん。たち今から遊びに行くの。じゃあまたね」


 少女を見送った皐月は、しばらく笑い続けていたが「年下も悪くないかもしれません」と、わざとらしく霜降に囁く。


「そうだね」


「ふふ、今日は依頼が無いのでチラシを配りに行ってきますね」


 長い栗色の髪を風に揺らしながら、透明なドアの向こうに消えて行く。

 ささやかな傷心と共にボンヤリとしていたら

 戸口に誰か立っている事に気がついた。


「すみません。気がつかなくて。ご依頼ですか?」


 相手は答えない。

 フードを深く被り、耳あてをしている。

 首元にはスカーフがあり、肩パットの入った上着に、ロングブーツ。


 意図的に、判断材料を無くしている。

 それでいて顔にはサングラスなどの細工は何もしていない。


 霜降の事を知り尽くしていて、こんなイタズラをする相手は、一人しかいない。



「何してるの、皐月くん」

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