第6話【終焉と完遂】

 消毒液の匂いに満たされた走る密室。

 その中で、重傷のカマイタチが暴れていた。


「あの野郎ォ、絶対にコロシテヤル。親兄弟も道連れだ。探偵もコロス。看守も受刑者もまとめて切り刻んでやる。

 うぅ、オイ!医者!」


「どうしましたか」


「いてぇんだよ!なんとかしろヤブ野郎!」


「分かりました」


 一筋の赤い噴水が上がり、室内は静まり返った。


「先生?どうされましたか」


「驚いたよ、隠し持っていたメスで自分の喉を切ったんだ。こんなゴミ屑にも良心の呵責なんて物があったのかもね」


「まあ、先生にお怪我はありませんか」


「大丈夫だよ。ありがとう」


 鮮血のカマイタチ事件は、被疑者死亡で終わりを告げる。最後の密室殺人を解こうとする探偵は誰一人いなかった。



+ + +



「皐月くん、現場は酷い状況だよ。本当に入るの?」


「特命を受けていますから」


 装備を整えて、遺体に近づいていく。

 傷だらけの手の平の上に、新婦の指輪をそっと乗せた。

 続いて霜降も、新郎の指輪を重ねた。


「酷い目に遭いましたね。

 どうか安らかに、天国で結婚式を挙げてください」


 二人並んで、合掌をする。

 週刊誌に載っていた、幸せそうに寄り添う二人。


 愛を誓いあった一瞬ときは、永遠に残り続ける。もし来世があるなら、次こそは幸せに長生き出来ますように。



「帰ろうか」


「事情聴取がありますよ」


「気が滅入る。皐月くんのココアを飲まないと頑張れない」


「鎖骨、触ってもいいですよ」


 霜降は少し戸惑ってから

 周りを確認して、形をなぞるようにそっと指先で触れていく。

 胸の奥から熱い悦びが込み上げてきた。


「ありがとう、癒された。でもあの、私以外には」


「触らせませんよ。

 所長も他の人にしたら駄目ですからね」


 夜空に月が輝き始める。

 カマイタチ亡き後、荒ぶるオオカミが出なければ良い。

 町中の人に、どうか穏やかな眠りを。


 霜降は先を行く皐月に向けて伸ばした手を、そっとポケットにしまった。

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