第8話「一歩進む」

 後ろに回されたフードの中から、見慣れた栗色の髪が現れる。

 首を振る動きと連動して、風に流れる。


「もし分かってくれたなら、言おうと思っていた事があります」


「なに、かな?」


 霜降は浮かび上がる期待を、押さえつける。

 ダメだ、大人しく聞くんだ。



「わたしと結婚してくれませんか?」


「は?」


「もう成人しました。親の同意無しでも」


「いやいや、待って。

 まだ付き合ってもいないよね!?」


 皐月は距離を詰め、霜降をきつく腕の中にしまい込む。

 呼吸が困難になる程。



「わたしには、あなただけです」



 鼓膜を打つ囁きは、甘さだけでなく

 固い決意も秘めていた。

 時間は永遠ではない。いつ終わりを告げるか分からない。


(アンタはうまくやれよ)


 復讐者の言葉を思い返す。

 霜降に、返事を迷う必要は無かった。



 役場までの道を、手を繋いで歩く。

 人並みに見えるようになった訳じゃない。問題はきっと山のようにある。


 それでも、少しでも長く、一緒に居たい。

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