第4話【動機】
「週刊誌の女と被害者が同一人物だとなぜ分かる。モザイクがかかっていたはずだ」
「鎖骨を見れば分かります」
「はあ?」
「失礼。本音が出ました。これでは理由にならないと皐月くんに叱られたばかりでした」
「サツキって誰だよ」
「大切な助手です。薬指に指輪の跡がありました。
そして手のひらにダイヤモンドでついた跡がありました」
「あんな傷だらけの中で、見つけたのか」
「ナイフと宝石では全く違います。
刑事さんの指輪はカマイタチに盗まれたようですね。
命だけでなく、愛の証まで奪われた。
彼女はそれに抗議するように、自らの指輪も外したんです。
彼以外とは結婚しない。
そんな意味だったのではないでしょうか」
「その指輪はどこに」
「一つ心当たりがあります。
別件で依頼を受けたのです。公園で失くしたこれを探して欲しいと」
鞄からスケッチを取り出して提示すれば、息をのむ音がした。
「こんなの、よくあるデザインだろ」
「イニシャルが彫ってあるそうですよ。まだ続けますか?」
「ちっ、拾得物は警察に届けろよ」
「あなたが今着ている制服は本物です。
おそらく亡くなった刑事さんの物でしょう。部屋から持ち出したのですね」
「ああ・・・」
「事件後に出来るはずが無いので、もしかしたらあなた・・・」
「違う!俺じゃない!!
アイツは、部屋に入ったらもう死んでいたんだ。カマイタチに、メッタ刺しに、されて」
彼は地面に顔をつけ、くぐもった叫びをあげる。
一生忘れられない記憶が
鮮明に浮かび上がっては、脳髄を焦がす。
ゆっくりと立ち上がった彼は、淡々と語り始める。
「俺たち幼馴染でさ、アイツ昔から刑事になりたくって
一緒に上京して来たんだよ。
結婚式のスピーチ頼まれてたんだぜ。うんと泣かせてやるつもりだった。
あの日は、結婚式の打ち合わせをするはずだった。
嫁さんにサプライズしたいとかって。
アイツ俺だと思って無防備にドアを開けたんだ」
握りしめた土が、指の間から溢れていく。
掴めなかった幸せを悔いるように。
「幸せそうなアイツを、そばで見ていられたら、それで良かったんだ」
「愛していたのですね」
「ああ。もう、してやれる事は何も無い。
制服でウロウロして、ヤツを捕まえようとしたんだが。
引っかからなかった。
その内、アイツの携帯に「あいたい」と、件名だけのメールが届いた。
合鍵で開けたら、女が死んでいた」
「オトリ作戦に失敗したので、ニセモノ作戦に出た訳ですね」
「毎回、犯行声明を残すヤツだ。プライドを刺激してやればアッサリ出てくると思ったんだが」
「・・・居ましたよ。
あなたの復讐に力を貸します」
「なんだと?」
霜降は手錠を外し、今度は自分にかける。
戸惑う眼前の男の、目の当たりに狙いを定めて、笑ってみせた。
そして作戦の内容を告げる。
「なんで、アンタがそんな危ない目に」
「気持ちを伝えられなかった気持ち、分かります。
拒絶されて、側にいる事さえ許されなくなるのは、怖いですよね」
瞼に浮かんだ皐月の姿を、噛みしめる。
失敗したらもう会えない。
「最高の名演技を、見せてください」
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