第3話【皐月の推理】
公園の木に作られたカラスの巣から、キラキラ光る指輪が見つかった。
慣れない木登りをして、霜降の代わりに依頼を果たした皐月は、栗色の髪から葉っぱをはたき落とす。
「ありがとう、綺麗なお姉さん!」
「どういたしまして」
「ねえ、どうしたら綺麗になれる? あの変な探偵さんは
「へえ、悪口を言った子の住所を教えて」
「えっ、なんで?」
「わたしが個人的に全員にお説教してきます。親御さんも交えて、何日もかけて」
「お姉さん顔が怖いよ。そこまでしなくていいの。ブスはブス……ふぎゅ!」
皐月は両手で顔を掴んで少女の顔をタコのような状態にしてから、長い睫毛に彩られた大きな目をギラつかせる。
「わたしも似たような事を言われてきました。ハラワタが煮えくりかえります」
「お姉さんが!?」
皐月は深呼吸をして、少女の頰に優しく触れる。
地獄の番犬をも手懐けられそうな、清らかで美しい笑顔だった。
「まだ自分の美しさを諦めるには早すぎます。女の子はどんどん綺麗になっていくものです」
「本当?」
「はい。それに、あなたを悪く言う人は、クラスで一番の美人ですか?」
「ううん。レイナちゃんはいつも優しいよ」
「それです。本当に綺麗な人は、他人の事をとやかく言いません。気持ちが姿に現れるのです」
「気持ちが……」
「うちの所長の、中身を見る目だけは確かです。あなたはかわいい。どうか信じてあげてください」
霜降を思う皐月の幸せそうな様子に、少女は温かい気持ちになり、そして喉を覆う太めのチョーカーを見て、ある事に気がついた。
「探偵さんのこと、好き?」
「探偵の素質ありですね。所長はかっこいいんですよ。困っている人を放っておけないんです」
「困っている人……」
少女は手のひらの指輪を眺めて、しばらく考え込んでから皐月の前に突き出す。
「ごめんなさい! これ私のじゃないの。公園の近くで拾ったの! あんまり綺麗だからとっちゃったの。おまわりさんに捕まっちゃう?」
皐月は笑いながら、少女を抱き上げて、飛行機のようにグルグル回した。
「よく言えました! 悪い事をした時に、ちゃんと謝れる人は本当に凄いんですよ。大人だってなかなか出来ません」
地面に降ろされた少女は心臓がバクバクしていたが、のしかかっていた気持ちがすっと軽くなった心地がした。
「お姉さんに、追加で依頼をします。この指輪を落とした人に返してあげてください。お金ならあります」
「はい。お受けします」
指輪を手に取り、じっくり眺めてみると、何やら見覚えがある事に気がつく。つい最近どこかで──
そうだ、事務所にあった週刊誌!
プロポーズ成功の喜びをSNSに載せた、若い男性の、ラブラブなツーショット写真。
彼女の指に輝いていた、幸せの象徴。
事務所に来た依頼状と合わせると、関係性が浮かび上がる。
落ちていた指輪。
公園の中でメッタ刺しにされた女性。
別の場所で命を落とし、誰かに運ばれてきた事になる。
遺体を損壊した犯人は
彼女の死因をカマイタチにしたかった。
「皐月さん、どうしたの?」
「持ち主が分かりそうです。ですが今日は家まで送ります。風が冷たくなってきました」
少女にマフラーを巻いて暖を取らせると、皐月は公園の人だかりに目を向ける。
あの奥は、子供が見ていい光景ではない。
(所長、無茶をしないでくださいね)
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