第2話【霜降の推理】
「もう終わりか? 遅れてきたんだから人一倍調査したらどうだ。まあ気分が悪くなったんだろうが」
「被害女性の心境を思うと、辛いですね」
「そうだな、あの若さでこんな残酷な殺され方をするなんて」
「おや、どうして〝 若い〝と分かるのですか?」
「え?」
警官は不思議そうな顔を探偵に向けてから
顎を手に当て考えこむ。
「どうしました、被害者の身元が判明したと言えばいいじゃないですか」
「いや、それはまだ」
「おかしいですね。遺体は損傷が激しくて、私でなくても顔が分からぬ状態でしょう。加えて服も臓物まみれときてる。若さを感じた根拠とは?」
「あー、それはアレだ。爪だよ爪。綺麗な色にラメとかいうのが乗っかって……」
「貴方が見た時、ネイルが見える状態だったのですね」
遺体の手首は特に損傷が激しかった。
横たわる被害者に馬乗りになって、上から何度も刺したのだろう。
手の平が上を向いていれば、爪は逆側だ。
「あ、アンタ俺を疑っているのか!?」
「そうです。ニセモノさん」
彼は口籠もり、胸元に手を当てる。
警察手帳を出して反論する事は出来ないようだ。
「あなたは私を〝 子供〝 だと言いました。探偵手帳は公的に認められた身分証明書です。警察学校で習わないはずがない」
「写真より幼いから、からかったんだよ」
「それに先程〝 遅れてきた〝と言いました」
「え?」
「本物の警察官なら、探偵に依頼する事はまずありません。仲間を呼ぶはずです」
「たまたま、誰もいなくて」
「それならもっと人気の探偵を呼ぶはずです。わざわざ六十位付近を狙う必要はない。あるとすれば、事件を完全に解き明かす探偵はいらなかった。自分に都合が悪いから」
深呼吸をして、手のひらを上に向けて突きつける。
「あなたが犯人です」
「馬鹿馬鹿しい。そんな薄い証拠だけで!」
「遺体にナイフを刺している時に、かがみましたね? 例えば通行人から姿を隠そうとして」
霜降は自分の耳の上部、カールして隙間のある部分を指差す。
「犯行後、シャワーを浴びたようですが、まだ残っていますよ……被害者の血痕が。草の先に付いた血が、入り込んだんでしょうね。一緒に署まで行きましょう。やましい事が無いならば、鑑識にかけても良いですよね?」
ニセモノは膝から崩れ落ちる。
霜降は鞄から手錠を取り出し、両手首を拘束する。
「死体損壊の容疑で確保します」
「……は?」
「彼女の直接の死因は自殺。自分で手首を切ったのですね?」
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