第1話「血塗れの現場」

 依頼人が砂場で遊んでいる間に、ベンチに置いておいた指輪は忽然と姿を消した。

 残された手がかりは黒い羽のみ。


「犯人はどのカラスか……」


 公園にやってきた霜降しもふりは、人だかりに気がつく。警察官が立っている所を見ると、事件だろう。

 ざわめきに耳を澄ます。


「まさかこんな場所で人殺しなんて」


「物騒よねぇ、またカマイタチの仕業かしら。先日も若い男性が亡くなったばかりなのに」


 探偵として聞き捨てならない事態だ。

 霜降は灰色の丸い耳付きパーカーを着た男に声を掛ける。中のTシャツには「ねずみ」の文字が書かれていた。

 ネックレスや指輪をいくつも身につけ

 腕時計も二個ある。チャラチャラした男は現場を指差しながら答えた。


 鋭利な刃物で全身をメッタ刺しにされた女性の遺体が見つかったらしい。


 人垣をかき分け、現場の警察官に一礼して探偵手帳を提示する。

 厳しい試験を突破した者にのみ与えられる。

 警察と同等の捜査権を持つ身分証明書。


「探偵の霜降です」


「子供が見るものじゃない。帰りなさい」


「ご安心を。成人です」


 警察官はいぶかしげに見つめながら道を開く。

 耳の一部が赤い。


 現場は見るも無残な血塗れ地帯。

 凶器と思われるサバイバルナイフは遺体そばの白い紙に突き刺されている。


「ケイサツはカイメツせよ」


 被害者の血で書かれたそれは、カクカクと機械的な文字だ。

 警察関係者ばかりを狙う連続殺人犯『鮮血のカマイタチ』。毎回現場に指紋を残し、何かを盗んでいく。


 昼間とはいえ現場は木陰。

 合掌してから、小型ライトで体を照らしていく。

 五臓六腑は原形をとどめず、顔面も無残に崩れきっている。通常の神経をしている者なら、目を背けたくなる光景だ。


「手首への攻撃が多過ぎる。それに、この鎖骨の形。薬指の跡」


 独り言を重ねた後、一歩引いて全体を見る。

 一面血の海に見えるが、不自然にかすれている箇所がある。

 こんな事になる状況とは?



「よし。見えない顔が、見えた!」

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