act9 17:00

最大級のスピードで巨大な頭が三鬼に振り下ろされる。


「しまっ――


三鬼は死を覚悟したが、しかし。


巨大な頭と三鬼の間に鏡が投げ込まれたことによって回避された。

巨大な頭が鏡を造作もなく破壊すると鏡だったものは光を放ち、不思議なことに八岐大蛇ヤマタノオロチが苦しみだした。


gugyagygaaaaaooaaaaoeaaaaooooooaeeaa!!?


「それは神社モドキにあった鏡だ」


鏡を投げ込んだのはツラヌイだった。グレイプニルで鏡をハンマー投げの要領で飛ばしていたのだ。そのツラヌイは言う。


「俺は神道とかあんま詳しい訳じゃないが、その鏡は依代よりしろってヤツで破壊されるとマズイやつなんじゃあないか!?」


gygaaaaaooaaaaoeaaaao!


八岐大蛇ヤマタノオロチが苦しんでいる間に三鬼が態勢を立て直し、ミストルティンを化合弓コンパウンドボウつがえる。背後ではヤドリギの樹も成長していた。


「助かったわツラヌイ。依代とは神霊ヤマタノオロチが宿る物品のこと。それを破壊するってことは本体を攻撃するってことよ!」


ドドドドドッッッッ!! と一斉に矢と枝が発射され八岐大蛇ヤマタノオロチを滅多打ちにする。


「今だ『ドラウプニル』ッッ!!」


ドラウプニルが巨大な身体を拘束し、ついに八岐大蛇ヤマタノオロチは動けなくなる。

そこに渾身のミストルティンが八岐大蛇ヤマタノオロチの核に撃ちこまれる。


zyahasjidjppppakokaaoekwqqqssddlakgaod!!


そうして、八岐大蛇ヤマタノオロチは言語化不能の絶叫を上げながら倒れ、ついに黒い霧は霧散した。

後に残ったのは、紫の着物を着ている白髪赤眼の少女だけだった。


…。

……。

………。


「ごめんなさい」


ツラヌイの友人が、目覚めて初めて発した言葉だった。


「ごめんなさい、迷惑かけて。嫌だよね、こんなわたし。こんなおおきな力を制御できないなんて。危ないよね……」


涙が溢れ出していた。可愛らしい顔が台無しになるくらい泣いていた。

どうすればいいのか、とツラヌイは三鬼にヘルプを飛ばす。ツラヌイは泣いている少女を慰める経験なんて無かった。

しかし、その三鬼が一歩引いた。ここは私が出る幕じゃない、と。口で「と・も・だ・ち・で・しょ」と形を作って少し笑って、聖母みたいな眼差しだった。


――そうだった。眼の前の子はただの少女じゃねえ、ともだちだ。難しく考えるな貫威ツラヌイ疾見ハヤミ


ツラヌイは肩の力を抜いて、思ったことを口に出す。


「なあいぶきちゃん、人間ってのは迷惑をかけながら生きてる生き物なんだよ。俺も失敗したよ、いぶきちゃんよりもスケールは小さいけどさ。就職試験とか採用試験って名前でさ」

「……知ってる、しゅうしょくしけん。地球あっちで人間が時々話してた」

「それに落ちたんだよ、三回。それがすげー辛くてさ。なんか、お前はこの世に必要ねぇから!って言われてる気がしてさ。死にたくなった」

「でも、しけん、受かったんでしょ?」

「いいや、そもそも試験なんてしないで今の会社に入ったんだよ。学校の先輩だった三鬼先輩から突然連絡来て、人手不足だから来ないかって言われて。会社に行ったら、雑談して採用!って言われてさ」

「……よかったね。拾う神ありってやつ?」

「うん……、って俺が言いたいのはそうじゃなくて!三回、でもそれはと思うんだよ。社会の厳しさとか、失敗に対する自分の慰め方とか、嘘を付くことを学んで、ゲームで言う経験値を手に入れて、レベルアップしたと思うんだよ。……ごめん、ゲームで例えてもわからないかな」

「……だいたいわかる。ポコモンGOをわらべがやってるのを見てたから」

「おおう、そうか……。まぁ、その、結論言うとだな、いぶきちゃんも。次は力を制御できるように、経験値にしてしまえばいいんだよ」

「でも、わたしは人間じゃない……」

「神様も失敗してるだろ?ほら、天岩戸あまのいわと事件とか。アマテラスが引きこもる原因は弟のスサノオが皮を剥がした馬を屋敷に投げ込んだ事が原因だったはず」

「アイツそんなことやってたのかぁ……」


――そういや八岐大蛇ヤマタノオロチを討伐したのがスサノオだった。


知っている人物が出てきたことで想像しやすくなったらしい、伊吹は納得してくれたようだった。


「まあ、うん、わかったよ。そんな失敗をしているスサノオが、あんなふうになったっていうなら、少しがんばってみる。ともだちの言葉だし」

「ありがとう、いぶきちゃん」


こうして、一人と一柱はほんとうにともだちになった。


これからの世界は、少し色が変わって見えるはずだ。



それは一人と一柱に限った話ではないが。

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