act7 表と裏

――緊急システムスキャン完了。モーター部の全壊を確認。

――当該機体ツラヌイのこれ以上の稼働は困難と判断し、データのアップロードを開始します。

――アップロード中……完了。

――インストール完了。


システムを強制シャットダウンします。

お疲れ様でした、貫威ツラヌイ疾見ハヤミ様。

休憩をしっかりとって、次に備えましょう!


…。

……。

………。


「あ、れ……?」


異世界にいた赤髪の少年ツラヌイではない、茶色がかった黒髪の少年が目を開けると光がなだれ込んできた。しばらくして目が慣れると状況を把握しようとする。

そこは彼が今年就職した品森しなもり鉱業という会社の一室だった。

彼はその部屋の、何基も並んでいる人一人を丁度入れられる細長い筒の一つに入っていた。

細長い筒は、するための装置だった。


――ええと、そうだ。自分は異世界あっちに行くために初めてこの装置を使って……。魂のデータを、異世界あっちに送ったアンドロイドにインストールしたんだった。


少年の記憶が徐々に蘇ってくる。


――それから、グングニルでふっとばして、拠点制圧して、いぶきちゃんと会って、友達になって、それから……それから?何がどうなったんだ?


筒から出て立ち上がったところで頭が本格的にまわり始める。


――最後の方の記憶が無い。何か強い衝撃を受けた気はする。機体が死んだ?……というか伊吹はどうなったんだ?


悩んでいるととノックして部屋に人が入ってきた。

黒髪を肩にかからないくらいまで伸ばした女性、さっきまでオペレーターとしてお世話になっていた三鬼みきだった。

ちなみに目の色はあお。毎日違うのでカラコンだろう。毎日どころか数時間で変わってた事もあったが、それが女性という者なのだろうとツラヌイは勝手に納得していた。


「モニター室までついて来て」


三鬼はいつになく真剣だった。少年は何か怒られるのかと怯えながらついて行く。

モニター室にはほとんど入ったことがなかったな、と彼はふと思う。

ガチャリ、とモニター室の扉を開けた瞬間、形容しがたい鳴き声が聞こえてきた。


『gugyagygaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!』


その鳴き声はモニター室のパソコンのディスプレイから流れてきていた。

見ると『黒い波』が八岐大蛇やまたのおろちの形になったような化物が暴れていた。三鬼はソレを指差して言う。


「あれが伊吹大明神いぶきだいみょうじん、のて」

「……本当にいぶきなんですか」

「間違いない」

「――っ」


少年は核心に踏み込むことにした。優柔不断で遠慮がちな少年が珍しく積極的なのは、急がないと手遅れになる予感がしたからだ。


「これは俺が死んだから、いなくなったから、暴走してるんですか?」

「そうよ、幸いなことにグングニルが伊吹大明神を抑え込んでいるけど、所詮しょせんまがい物、それも限界がある。早く何とかしないと」


――自分が死んだから、いなくなったから、暴走した。だったら、だったら助けたい。だって、今までこんなに自分のことを思ってくれた人なんていなかったから。


――付き合いが苦手で友達を作れなかったせいもある。体育の授業はい、ふたりぐみつくってーは難儀した。


――親は愛情を注いでくれたのかもしれないけど、感覚が慣れたのか全く感じなくなってしまった。それどころか就職する時にプレッシャーをかけてきて、逆恨みで殺意を覚えたこともあった。あいつらのせいで試験に3回も落ちたんじゃないか、と。


――もう、ここで出来た友達を見捨てたら駄目な気がする。戻れない気がする。『友達を助ける』そんな当たり前のことが出来なかったら、一生誰ともわかりあえず、独りで生きていく道を進むことになるんじゃないかって。


「ツラヌイはココで待ってて。今出張でばれる社員は私だけだから、行ってくる」


三鬼の言葉は意地悪なように感じた。


――ともだちを、見捨てれる訳ねぇだろうが。


「……ぃいえ、いいえ。自分も行きます。行かせて下さい!」

「失敗したら怒られるよ?」

「そんなことはどうでもいい。いぶきちゃんを助ける、そんだけですから」

「ふふ、友達ね。いいよ、付いて来て」


三鬼先輩は学生時代から大体こうだった。賢者みたいに見透かして、聖母みたいに見守る。そういう人だった。


じゃあ、ともだちを迎えに行こうか

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