act6 神奥の夜明け

ツラヌイが力なく、膝から倒れる。


その神社モドキから少し離れた森の中で、泥と獣の血と皮を被り身を潜める影があった。

神奥の夜明け団プロメテウス、その最後の生き残り――別に殺してはいないが――の団員だった。


「は、ハハハ!ハハハハ!やった!やりましたよ!」


団員の手には2m程の銃身をもつ火縄銃の様な、現代銃から見たら原始的な銃が握られていた。それこそがツラヌイを狙撃した犯人だった。

団員は撃った反動で肩が外れ耳が聞こえなくなっていたが、それは些細なこと。

何よりも重要なのは、自作の銃が通用したという事実なのだから。


神奥の夜明け団プロメテウスはついに!地球の技術をものにしましふごブバぁぶふりゃ――!?


だがその歓喜は長く続かなかった。情けない声を上げて意識を失う。

伊吹の呪いが襲いかかってきたのだ。触らぬ神に祟り無し、という事だった。



「あ、あ……」


不届き者を排除した伊吹は『ともだち』に駆け寄る。

その体の中心には大きな穴が空いていた。


「やめろよ、やめてよ」


命がこぼれていく。伊吹はツラヌイを抱きしめるが止まらない。


「とめて、いやだ」


止めることが出来ない。

そんな権能ちからを彼女は持っていない。

何かを呪うことしか出来ない神は、もう無力なじぶんを呪うくらいの事しか出来ない。


「だれか……だれらっ、たすけてえええぇぇえええええええぇえ!!!」


助けは来ないとわかっている。でも、その叫びをかのじょはやめない。やめたくない。


「ねぇ、ねぇ、つらぬいちゃん。おきてよ、遊ぼうよぉ……」


しかし返事はなく、無情にもツラヌイの活動は停止する。


そうしてかのじょは壊れた。

これで、四度目だった。



「あ、あぁ、あああああぁあああぁあ…」



ついにかのじょは泣き出してしまった。

泣いて

泣いて

泣く

泣き続ける


……そうして、どれくらい時間が経っただろうか、泣いているだけの神に変化があった。



ただし、悪い方向で。



「呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウ呪ウウ呪呪う呪呪呪呪呪う呪呪呪呪呪呪呪呪呪殺す呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪ウウ呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪Kロス呪呪呪呪呪呪呪呪お呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪殺す呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪死ね」



伊吹の体から呪詛じゅそが漏れ出していた。黒い霧の様なそれは徐々に広がっていく。

それは、呪いだった。

こんな糞みたいな世界を殺さんとする、呪い。



――もう。なんで。なんで…?


八岐大蛇いちどめは人間を食べ物だと思っていた。

伊吹大明神にどめは加減が分からず触れたら人が死んだ。

異界に来てからさんどめは騙され、人を殺すために利用された。

今度よんどめは、今度こそ上手くいくと思ったのに。


人に触れたい

仲良くなりたい

わたしはなにか変なことを言っているのですか?

八岐大蛇あそこで死んでいればよかったのですか?

教えろよ、教えてよ。

もうわからない。だめだ。どうすればいいのか。

わからない。

もうどうでもいいよ。

もう、ぜんぶ呪うか――。



やっと出来たと思ったともだちはいなくなった。

神は堕ち、世界を呪う悪神と化しつつある。

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