act5 親交と神光

わたしとともだちになって」


少女は不健康そうな白い肌に紫の高価そうな着物を着ていた。見た目は12歳くらい。髪は白色で腰に届くくらいの長さ、目は赤色。

それは白蛇を思わせる容姿だった。


「誰…だ、ですか?」


緊張からかツラヌイの語尾がおかしくなる。少女はそれには反応せず質問に答えた。


「――伊吹いぶき。人間はわたしのことを伊吹ってよんでいた」

「いぶき、伊吹さん、いや神みたいなんだし様の方がいいのか…?」


『え、まさ――ザ――、伊吹大明神いぶきだいみょうじん……?日本神話の英雄ヤマトタケルを呪い殺――ザザ――っていう?ツラヌイ、だとしたら本当にまずザザザザザザザザザザザ――――――――!!

「ちょ、三鬼みき先輩!?良く聞こえないです!」


無線のノイズは急激にひどくなり、最後には聞こえなくなってしまった。タイミング的に伊吹という少女の仕業だろう。


「ねえ、わたしとともだちになって」

「うわぁっ!?」


真顔の伊吹はいつの間にかツラヌイの眼前まで来ていた。無線に気を取られている内に近づいてきたらしい。


「あ、ああ、ええと。ちょ、ちょっと待ってくれ、下さい!」

「……? うん」


伊吹は首をかしげながらも素直に待ってくれるようだった。

その間に深呼吸し、思考を巡らせる。


――馬鹿野郎落ち着け俺。まずは情報の整理だ。助けはこない、これまでもそうだっただろうが。焦っても失敗するだけ、また失敗する訳にはいかない。仏の顔も三度目までなんだから……!


ツラヌイは空を見上げる。


「?」


伊吹も真似して同じ方向を見るが青空があるだけだ。

そりゃあそうだ。ツラヌイは無意識のうちに、余計な物を見ないようにして集中力を上げようとしているだけなのだから。


――三鬼先輩の情報が正しいなら眼前の女の子は伊吹大明神いぶきだいみょうじん。ヤマトタケルを呪い殺した神、らしい。となると俺も呪い殺される可能性があるが。だから気張らずに行けよ俺。大丈夫、大丈夫だ。


再びの深呼吸。心拍数は限界まで加速していた。


――で、本題。俺の勝利条件は何だ?

伊吹大明神を殺すこと?違う。三鬼先輩は「『黒い波』の根源を特定しに行こう」と言っていた。殺せなんて指示は出ていない。そして十中八九じっちゅうはっくコイツがその根源だ。つまり、特定するという目標は既に達成している。

後は逃げ帰ればいいだけか?なんだ楽勝……じゃねぇな!一目散に逃げたら追いかけれられて勢い余って殺されそうだ!普通に肩掴むくらいで勘弁してくれよ!


「神様ってそこら辺の力加減が苦手なイメージしかねえ!」


真剣に考えるあまり口の制御を手放していたツラヌイだった。


「にがて?……わたしのこと苦手?」

「――――ウあぁぁぁぁァァッッ!!??考えを口にだしてたなにやってんだオレバッカじゃねえの氏ねよ俺ほんとばかってか違うんだよ伊吹ちゃん苦手ってそういうことじゃなくて神様全体のことを言ってるわけであってああいやそれだと伊吹ちゃんのことも言ってることになっちゃうもうどうすればいいんですか神様仏様ってコイツが神様じゃねえかクソッタレっもうどうし


「いぶきちゃん、っていった?」


思考垂れ流しの馬鹿野郎つらぬいなかば涙目になりながら決壊したダムみたいに言葉を放流していたが、伊吹の言葉でそれはせき止められた。


「いぶきちゃん。……いぶきちゃん!」


伊吹が言葉を反芻はんすうする。「いぶきちゃん」の何かが琴線きんせんに触れたようだった。


「ええと、気に入ったんですか、いぶきちゃん」

「うん!」


伊吹がTHE幼女といった感じに元気よく返事する。

ツラヌイには困惑しかなかったので質問することにした。


「あの、何が気に入ったんですか…?」

「人間のわらべはともだちに『ちゃん』ってつけるんでしょ。やしろにきたわらべはそうだったよ。で、ツラヌイはわたしに『ちゃん』をつけてよんでくれた。だったらわたしとツラヌイはともだちだよ!」


「どうして名前を知って……無線を聞いていたのか」

「あれ、ともだちだよね?」


ツラヌイが自己解決していると、返事をしてくれなかった事をおかしく思ったのか伊吹が確認をしてくる。

友達になったら何をされるのか。

なんせ神だから人間とは物差しが違う、遊びと称して締め殺されたりするかもしれない、と一瞬考えるが、失敗は許されないという強迫観念がツラヌイに精査させずにゴーサインをだした。


「――ぁ、……はい」


「やっった、はじめて、ともだちできた!つらぬいちゃん!」


――ああ、でも、こんな可愛い子の笑顔を見るのは初めてだ。これは悪くない。むしろ良い。


「ええと、でもともだちってなにをするんだろう?とりあえずあくしゅする?」


そんな流れで貫威と伊吹は握手を


することはなかった。

ツラヌイが拒絶した、という事ではなかった。


ドヴァンッッッッッッッ!!!!! と。


大砲音のような銃声が鳴り、ツラヌイが力なく倒れたのだ。

いやに水っぽい音が小さく響き、ツラヌイの胸にはサッカーボール大の穴が空いていた。

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