5章:いざ、鬼ヶ島兼竜宮城へ
「船員は10名だが、熊と金太郎分併せてギリギリってとこだろう。乗りな。」
浦島は海岸から戻って来た。中々立派な船に乗って、である。
「よくこんな物用意できたなぁ。知り合い……居なかったんじゃないの?」
一抹の不安が頭をよぎる。この男、一体どこから船を調達したのだろう?まさか……
「違ぇ。借りたんだよ。大物仕留めに行くって言ったら喜んで貸してくれたぜ。」
笑顔であるが、先程から笑顔の内側から漏れ出す怒りが笑顔を笑顔として見せてくれない。
「ぅん。まぁ、大物ではあるよね。仕留めはしないけど……。」
鬼ヶ島が地獄絵図にならないようにしないと。
「オウ、全員乗ったぞ。亀さん、案内宜しくな。」
「ボク、シロクマじゃないから泳げないんだけど……はぁ、無事に航海が済むといいなぁ。」
「皆さん宜しいですか?それでは参ります。ちゃんと付いて来て下さい。」
亀がそう言って鬼ヶ島へ泳ぎ始めた。
なんやかんやあった所為で丁度夕方。陽が落ち始めた。
どうも鬼ヶ島の周囲の海流は独特な動きらしく、直線で進んでは辿り着けないらしい。
右へ左へ、どう考えたって意味の分からない航路を辿っているが、確実に鬼ヶ島は近付いて来た。
「フン、嘘は吐いてない…か。」
竿に手をやり浦島が口走った。多分嘘を吐いていたら絞殺されていただろう。
「もう直ぐです。上陸の準備をお願いします。」
亀がそう言ってきた。
鬼ヶ島にはすんなり上陸できた。
岩だらけの海岸、月の光は鬼ヶ島の角に遮られて見えず、目の前に大きな洞窟が有るだけ。
船も無ければ建物も無い。人工物が無い。
「で、どうしようか?」
「オラは鬼と相撲が取れればいいぞ。」
「乙姫絶対殺す!」
三太郎。全然噛み合わず。
大丈夫かな?犬猿雉の二匹と一羽の時は字面的には不安だったが、鬼退治は出来た。
しかし、この三人、桃太郎、金太郎、浦島太郎は字面的には凄く色々出来そうだが、具体的には携帯のCMとか出来そうだが、不安しかない。
現在夜。海岸の岩場に身を潜めていた。夜だったために発見されることなく上陸することが出来た。鬼にも気づかれなかった。中々良い滑り出しだったが、これからどうするかで少し悶着が有った。まぁ、結局色々あって最後は次のようになった。
「僕は先ず、鬼退治が出来れば良いんだ。で、協力はお願いできない?」
「相撲取ってりゃ退治になるだろ?」
「いいぜ、鬼共締め上げて乙姫の居場所を吐かせる。」
取り敢えずそう言う事になった。
「あのー……、私は如何すればよいでしょうか?」
亀がおずおずと尋ねてくる。
「あぁ、ありがとう。じゃぁ君は帰ってくれて」「ふざけんな、お前はここで始末する。俺達が鬼を襲う事がバレたら洒落になんねぇ。」
「浦島、そう言うな。彼だって被害者だ。リスク背負って玉手箱を開ける現場に居させられたんだよ?」
「カンケーねぇ。コイツがもしここで騒いだらお前、この先に居る奴等、やれんのか?」
浦島はそう言って双鉾をこちらに向ける。相変わらず怖いが、殺意でなく、本当に可能かどうかを訊いている。
「……、心配ないさ。君達が居る。それに、亀さんはいい奴さ。」
自信を持って浦島へと笑みを向ける。実際、結構不安はあるが、日本でも最大級の知名度と伝説を持った英雄三人だ。亀の一匹で死ぬことは無い。というか、亀さんが裏切っても何とかする。
何より、亀さんを口封じで殺して勝つなんてそれは童話の英雄じゃない。
「君は好きにすると良い。ここまで有り難う。」
そう言って僕たちは先を急いだ。
「やぁやぁ鬼たち聞こえるか!僕は音にも聞いた桃太郎!」
「オッス、オラ金太郎。オメエら強いんだって?オラと相撲しようぜ。」
「乙姫を出せ。浦島が地獄から戻ったと言えば分かるな?」
巨大な岩の洞窟の中、所々に鍾乳石のような岩が生え、他は何もない大きな一つの空間。
鬼が犇めき蠢くそんな中へ、飛び込んだのは桃太郎、金太郎、浦島太郎、そして金太郎の友達の熊谷さん。
日本古来のやり方で、洞窟に響く口上三つ。それに気付かぬ鬼は無し。
金棒持って三人一匹の方へぞろぞろぞろぞろ向かって歩いてくる。
ここに、三太郎(+熊)と300匹の鬼の軍団の通常の童話では起こり得ないミラクルマッチが開幕した。
「おぃお前ら、ここが何処か知ってて来てんのか?」
洞窟の入り口に一番近かった青鬼がこちらに向かってきた。身長2m越えの、少し細身の一角の鬼だ。
テンプレの虎皮パンツに真っ黒な金棒。しかし、油断はならない。
金棒の長さは如何見積もっても1.5mはある。それをやすやすと担いでここまで歩いて来た。しかもその足取りは重い荷物を持った者のソレではない。どちらかといえば適度な運動と毎日3食食べて8時間睡眠をバッチリとった人間のような軽い足取りだ。
「知ってるさ。鬼ヶ島だろう?だからこの桃太郎が鬼退治に来たのさ。」
怯む事無く目の前の鬼を見上げる。しかし大きい。手足が凄まじく太い。手足というより大木に近い。筋肉が主張し過ぎて人間のソレとは全く違う。アレの一撃を喰らったらまず無事では無いだろう。
「そうか、済まないな……死ね。」
予備動作と呼べるもの無しに金棒が振り下ろされる。岩の地面に金棒が食い込む。
しかし、僕たちは無傷だ。
「全員散開しよう。各個撃破で!」
「オゥ、分かった。」
「殺す」
「うーん、分かったぁ。」
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