4章:第三の男は狂戦士

 熊谷さん、僕、金太郎は海へと出ていた。遮蔽物は無く、太陽がギラギラと照り付け、波は静かに音楽を奏でていた。


 沖を見ると水平線を切るように岩の塊が見えた。いや、こう言うのが正しい。


 鬼ヶ島


 刺々しい岩が二つ、島から突き出すように見え、それはまるであそこを根城にしている鬼たちを象徴しているようだった。


 さぁ、船を探していよいよ島に乗り込もう。


 そう考えて海岸沿いに目を沿わせていると、奇妙なものを見つけた。


 煙だ。


 火の気も無さそうな場所から煙が上がった。いきなりだ。


 そこに何があったか知らないが、いきなり爆発や火災でも起きたような煙が上がった。


 何事かと思って僕たちは見ていた。が、直ぐに煙は晴れて中から竿を持った若者と一匹の亀が出てきた。


 次の瞬間、若者が亀の甲羅に乗り、何かをし始めた。


 最初は何をしていたかは分からなかったが、亀が手足をばたつかせ、断末魔を上げているのを見て気付いた。


 「金太郎!不味い!助けに行くぞ!」


 「おぅ、行くぞ熊谷さん!」


 亀が若者に殺されかかっていた。




 「どういう事だ!テメェ、何知ってやがる!」


 近付くと若者の声が聞こえてきた。こしみの、竿、亀。どう考えたって桃太郎、金太郎の後に来る彼の正体の見当は付く。が、彼の現状はどう考えても浦島太郎のソレでは無かった。


 「オイ!何してんだ浦島!」


 「それ以上亀虐めんならオラが相手になっぞ!」


 二太郎掛かりで止めに入る。僕が亀、金太郎が浦島を引っ張るが、中々離れてくれない。


 しかもよく見ると、亀の首には竿から伸びた糸が食い込んでいた。この浦島、確実に亀の事を殺りにきてる!!


 「テメェら何しやがる。お前らも竜宮城の奴等か?アァ!」


 俺らの妨害を受けて亀を締める糸が緩んだ。と思ったら違った。


 「良いぜ、丁度案内役が亀以外に欲しかったんだ。コイツじゃ鈍くて竜宮に行くまでに殺意を抑えられそうに無かったからよぉ。」


 一度亀を糸から解放したと思った次の瞬間、浦島は素早く金太郎の拘束からすり抜けると、今度は僕たちに殺意を向けてきた。


 その眼は眼光鋭く、人を殺すどころか魑魅魍魎さえ一睨みで消し飛ばしそうなほどだ。どう考えても釣りをしているだけの浦島ならこの眼光は必要ない。


 どう考えたってこの眼は歴戦の猛者が必須とする眼光の鋭さだ。


 彼は手に持った竿の重りを手首のスナップで回し、まるで鎖分銅のように構えている。


 おいおいおい、確か浦島太郎にバトル要素なんて皆無だった筈だよね。


 「落ち着け。僕達は竜宮関係じゃない。見ての通り桃太郎と金太郎、そして熊だ。」


 殺意のこもった眼光で僕たちを射続ける。僕の知る童話の浦島太郎がどうしてあんな、言うなれば裏『島太郎』になったんだ?


 「解った。取り敢えずお前らからは潮の匂いがしない。信じてやろう。」


 鎖分銅(竿)を収めてはくれた。


 「が、そこの亀は返せ。さっきの煙が何なのか問い詰める必要がある。」


 殺意は亀に向けたまま。それを現在庇っている僕らも同様だ。


 「落ち着いて欲しい。浦島太郎。一体何があったんだ?」


 さっきの煙、見たところ玉手箱の物だろう。彼も僕らの事を知っていたから玉手箱の事も知っていると思ったのだが……。


 「どうもこうもあるか。玉手箱の中身が俺を殺せるだけの煙だったんだ!ふざやがって!そこの亀!お前なんか知ってんだろ!」


 どうも中身が何だかは知っているようだ。でも、アレ?


 「じゃぁ何で君は生きているんだ?別に老化してる様子も無いし。」


 「帰り道に矢鱈亀が挙動不審だったから用心してたんだ。で、コイツの目の前で開けようとしたら息を止めてやがった。煙の中で息を止めてる間にコイツが何言ったか分かるか?『乙姫様、この方を殺す気なのですか?』だとよ。で、今尋問してたんだよお!」


 成程、そいつはどうもきな臭いな。


 「オイ亀公。そいつはどういうことだ?オラの知る限り、確か浦島は帰ってきたらそこは未来で、玉手箱空けたら爺さんだったって話だぞ?」


 そう言って大人一人以上はある大きな亀を浦島は石ころでも拾うかのように掴み上げる。逃走を試みていたようだ。


 「いえ、アノ、私も知らないのです。乙姫様から『絶対煙を吸うな。』とだけ言われていたのです。」


 つまり、主犯は乙姫。浦島を確実に殺りに来てた訳だ。


 「ほー……、あの女、ぶっ殺す!!」


 浦島から何か気のようなものが出てきた。何だこの浦島。怖すぎるだろー……。


 「おい亀。竜宮城に連れてけ。拒否したら殺す。」


 瞳孔が完全に開き、どう考えても竜宮城近海を血の海に染める気だ。


 鬼ヶ島討伐よりヤバイ案件がここに来て到来した。


 「いぇ、あの……、分かりました。あのー、その代わり、竜宮城の島の方から行って宜しいでしょうか?」


 「アァ?島ぁ?なんだそりゃ?ありゃ城だろ?」


 僕もそう思っていた。あれって島なの?光の速さで潜航する潜水艦では無くて?相対性理論的に?


 「いぇ、あの、竜宮城と言うのはとある島の地下にある所謂地下、海底の城なのです。私は今回、帰る時に島から帰るように仰せつかっていまして……。」


 「……、仕方ねぇ。じゃぁそれで良い。で、その島ってのは何処にあるんだ?」


 「あれです。」


 相変わらず金太郎に掴まれたままヒレ?前足?をとある島に向けた。


 ここで勘の良い方は分かりだろう。そのとある島の正体が。


 「マジかぁ……」


 「ぅおー、偶然だな。オラたちもあの島に行くとこだったんだ。そうだ。オメエ、オラたちと一緒に来ねぇか?船さえあればオラ、力強ぇからあっちゅう間に島まで着くぞ。」


 金太郎の言葉に浦島が反応する。


 「桃太郎に金太郎、そうか、ありゃ鬼ヶ島か。チッ、あの女、鬼とグルかよ……、流石に一人で全滅はキツいか…………。いいだろう俺もお前らに協力してやろう。船ならこちらで用意する。オイ亀、しっかり…、案内しろよ?」


 物騒な言葉を呟いていたかと思うと即決。そして亀をしっかり脅してどこかに走って行った。










 現在の戦力差


 鬼ヶ島の戦力…鬼300人以上


 桃太郎一味…桃太郎・金太郎・熊谷さん・浦島太郎バーサーカー




 金太郎が居るならそちらがバーサーカーで良かっただろうに………。


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