3章:鬼退治が詰みそう

 現在の戦力差


 鬼ヶ島の戦力…鬼300人以上


 桃太郎一味…武装した人間 のみ






『 現在の戦力差


 鬼ヶ島の戦力…鬼300人以上


 桃太郎一味…武装した人間 のみ 』








ぁぁ、ぁあ、あぁ、ああ、ああ!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!


 詰んだ!!


 「一人で300の鬼相手に戦って勝てって、俺はスティー●ン・●ガールじゃないぞ!」


 固有結界の「敵皆死絶える聖域(DIE所)」も無しにどうやって鬼300倒せって言うんだ!!


 「まぁ、新たにお供を探せばいい話なんだが……」


 そうもいかないんだよなぁ。


 理由は二つ。


1.鬼退治の際に有効な戦力になる生物がそうは居ない。


2.そもそも、犬猿雉の2匹と1羽をお供にした理由が戦力として強かった&そもそも立候補したのがその3者だけだった。




つまり、皆鬼の相手にならないし、そもそもビビッて来ようともしない。


 「クマやトラやゾウでも出て来てくれないかな?」


 クマやトラやゾウなら確実にやってくれそうなんだが……、まぁ、そんな簡単に出る訳無いか。熊はまだしも、トラ・ゾウは国産じゃないし。


 そんな風に考えて雑木林を歩いていたら……


 「グゥアー!!!!!!!!」


 野生の熊に遭遇した。体長3m級。あまりにも大きく、その顔は呑気な動物園のソレでなく、明らかに自然で血肉を喰らう、弱肉強食の『食』であった。良い。実に良い。理想の戦力だ。


 バタッ!


 そう思いつつ、僕は卒倒して息を止め、身じろぎ一つしなくなった。


 解ってるよ。これ以上無く強い。日本原産で熊以上の怪物は居ない。でもやっぱ無理!


 死んだふりしてやり過ごそ。


 そんな風に地面に倒れた桃色の木のフリをしていたら、頭上から言葉が降って来た。


 「おぅ、兄ちゃん。熊相手に死んだふりが有効ってのは迷信だぞ?熊谷さんでなきゃ今頃喰われてっぞ?」


 何かが歩いてくる。死んだふりをしているから容姿は解らない。が、その歩みの力強さからして相当な大熊だろう。


 さっきの熊ではない。そして、さっきの熊よりもっと、圧倒的に強い!


 「兄ちゃん。死んだふりすんなって。熊谷さんが怖がられてるのにちょっとショックを受け始めたぞ。」


 死んだふりをする僕の首根っこを何かが摘み、持ち上げた。


 別に重量級のつもりはない。が、大の男を片手で摘まんで持ち上げる膂力。相当の熊……、アレ?


 摘まんだ相手を見た。


デカい!熊を見た後であるにも関わらず、比較対象が巨大な熊であるにもかかわらず、僕の印象はデカい。だ。


手足がとてつもなく太く、逞しい。下手な丸太より太い。絵巻物の鬼の、異様な筋肉の付き方をした腕よりも力で勝りそうだ。相撲取りと言われて、横綱だと言われても信じそうだ。しかし、彼の正体は相撲取りで無いのは一目瞭然だ。


 「別に取って喰いやしねぇよ?」


 彼の着ているものは真っ赤な前掛け。その中心には、『金』の文字。


 背中に担いでいるのは鉄塊と呼ぶべきマサカリ。最早木を伐る道具の大きさではない。あれは茨木童子や酒呑童子、土蜘蛛やその他魑魅魍魎を相手取る得物だ。


 この服、得物。相手が誰かは察しが付く。


 「俺、いつの間に金太郎に出演してたんだ?」


 最早メタや世界観の概念が崩壊した。桃太郎たる僕と金太郎が遭遇した。


 「ん?何言ってんだオメエ?」


 不思議そうな顔をして僕の顔を見る。栗色の眼。純朴で純粋そうな眼だ。


 「ん?そういやオメエ、どっかで見たカッコだと思ったら、桃太郎じゃねぇか。そうか、オメエ、鬼退治に行くところだったのか?」


 そう言いながら慎重に僕を地面に降ろし、改めて僕を見る。敵意は無い。しかし、何かを考えてるように見える。


 「オラも連れてけ。」


 「へ?」


 間抜けな声が出てしまった。今なんて言ったんだ?


 「オラも鬼ヶ島に連れてってくれ。鬼退治の手伝いをする。」


 あ、幻聴じゃない。


 「え、あの、金太郎さん?」


 「金太郎で良いぞ。オラもオメエの事桃太郎って呼ばせてもらっから。」


 「えー、金太郎?僕が何しに行くか解ってるの?」


 「オゥ。鬼を退治に鬼ヶ島だろ?オラもその位知ってっぞ。」


 「いやぁ、でも……、あの、危険なんだよ?鬼ヶ島って。」


 「あのなぁ桃太郎。オラも未来、色んな鬼や怪物相手にやりあう伝説持ってんだぞ?」


 またメタだ。まぁでも確かに。


 相手は怪力自慢の鬼。しかし、彼も怪力という点では伝説を持っている。何より、今目の前に居る金太郎の得物は怪力自慢でも無ければ引き摺ることもままならなさそうなマサカリである。


 単身鬼ヶ島に乗り込むのは自殺行為。ならば金太郎に助力を求むのは理に適っているか……。


 「金太郎。僕は君を連れて行く。とは言えない。」


 僕の宣言にもの凄く解りやすくがっかりする。非常に素直な性格なのだろう。まどろっこしい言い方をして悪い気がした。


 「その代わり、金太郎。桃太郎として君に頼みがある。鬼退治の手伝いをしてくれないか?」


 連れて行く。それは出来ない。


 観光ではない。落命の可能性すらある。


 それに、連れて行って欲しいという彼の『頼み』を受けるのは違う。そしたら結果的に僕は彼を鬼退治に騙して連れて行くような形になってしまう。


 だから僕は彼に鬼退治の手伝いを『頼む』。


 「ヘヘ、そう言う事か。いいぞ。この金太郎。桃太郎の助太刀、いや、マサカリか。まぁ、兎に角桃太郎の鬼退治の仲間になっぞ。」


 金太郎が桃太郎の仲間になった。


 「あ、ついでに熊谷さんも連れてっていいか?」


 忘れていた。金太郎の後ろでうたた寝をしていた熊が起きる。


 「ホワァ、金ちゃん、終わったぁ?」


 喋った!しかも可愛い。


 「熊谷さん、ここの桃太郎と一緒に鬼退治しに行くぞ。」


 「ウゥン?ウン。わかったぁー。」


 寝惚けたまま同意する。まぁいいか。3m級の熊さんなら大丈夫だろう。


 熊の熊谷さんが桃太郎の仲間になった。


 「ウシ、これで念願の鬼との相撲取りが出来っぞ!」


 意外としょうもない理由で二人の仲間が出来た。






 現在の戦力差


 鬼ヶ島の戦力…鬼300人以上


 桃太郎一味…桃太郎・金太郎・熊谷さん


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