侍VS魔術師
「おのれ!」
飛び上がった後、拙者は落ちていた。着地を考えずに跳躍したせいで堀に落ちていた。
ザブン!!
水面に叩き付けられ、水柱が立つ。足が痺れ、視界が遮られる。この大阿呆めが!!相手は自分の知らぬ妖術の使い手。警戒してし過ぎ等と有り得ぬのだ。それを知りながら。
かっ拐われた。抵抗出来ず、あっさりと。
自分への憤怒と相手への憤怒の二つに満ちていた。が、それと同時に、次にどうするかも考えていた。
敵は妖術使い。正体は不明、しかし、「我らが王」「城でお待ち」と言った。
なれば拙者がやるべきことは只一つ。
城堕としだ。
水柱が無くなる頃には彼は流浪人から修羅羅刹へと変貌していた。その顔は笑っていた。
刀を抜き、水を巻き上げながら刀を振り上げた。
無刃流七 登竜門
水は刀に巻き上げられ、城壁を見下し、天へと昇る龍と化す。
城壁の見張りが騒ぎ出した。が、
「遅い!」
昇る龍に刀を突き立て水柱の流れを利用して拙者も天へと昇る。
無刃流七の二 登竜門征龍
水柱に突き立てた刀を抜き、城壁に飛び移る。
「拙者、無刃流の雨月宗右衛門と申す者。由縁あってお主らの城、堕とさせてもらう。」
見張りが騒ぎ立てる中、羅刹は名を名乗り、刀を振るった。
「王様!!緊急事態です。城に賊が入り込みました。」
近衛兵が報せて来た。おそらく侵入者は女神と一緒にいた侍だろう。
ノマンは帰るよう言ったらしいが、無理だったらしい。まぁよいわ。
其奴が来る前に、目の前の厄介者をどうにかすれば良いだけだ。 王様と呼ばれていた男は目の前の女神を前に下衆な笑みを、邪悪に相応しい笑みを浮かべた。
「特別近衛を呼べ。始末させろ。」
「畏まりました。」
近衛兵は急いで駆けていった。 「雨月さん……」
女神の顔は不安で曇っていた。
「邪魔立てするな。」
無刃流二 鎌鼬
高速で刀を振るい、真空の刃を生み出し、見えざる刃が見張りを薙ぎ倒す。
しかし、どんどん敵は増えていき、城壁の見張り達が弓矢を向けて威嚇する。しかし無駄だ。その様な礫擬き、見ずとも当たらず。
一人が矢を放つ。しかし、拙者は一閃。矢は縦に割れる。
驚く見張り。今度は複数で弓をつがえる。が、今度の弓は火種も無しに、なんと燃え始めた。成る程、これが魔法か。
「焼き殺せ!!」
火矢の一斉掃射。死角はない。当たれば消し炭確定だ。しかし、
無刃流三 嵐
刀の側面で扇ぐように刀を振るう。次の瞬間、刀から風が吹き荒れて燃え盛る火矢は火と勢いを失い、消し炭の矢が地面に転がった。
「無駄だ。その程度、掠りもしない!」
威圧すると皆怯み始めた。
「へぇ、じゃ、この程度は?」
上から声がした。
太陽が近付いてくるのが、いや、太陽は拙者の後ろにある。これは…
「火の妖術か!」
迫る太陽に向けて刃を振るう。
無刃流三 嵐
しかし、なびく気配すらない。これをやった使い手は恐ろしく妖術に秀でている。良い。
「なれば!」
無刃流三の二 嵐槌
扇同様に刀で扇ぐ。しかし、今度は
太陽が揺らいだ、否、太陽の中心に穴が空き、その穴に吸い込まれるように太陽が消えた。
嵐槌
嵐同様刀で扇ぐものだが、嵐と違い、吹き飛ばすのではなく押し潰す。故に嵐と違い、一点突破。太陽の如きの火の玉を消し飛ばせる。
「よくやるねぇ、俺の火を剣だけで消したのはアンタが初めてだ。」
先ほどまで太陽のあった空から男が落ちて、否、枯れ葉の散るが如く、ゆっくり降りてきた。
「貴殿があの太陽の妖術の使い手か?」
「あぁ、如何にも。お楽しみ頂けたかな?」
「あぁ、あれほどの妖術、見たことがない。太陽が近付いて来たかと思った。実に面白良い。」
「太陽か。そりゃいい!」
降りてきた男は太陽という比喩にご満悦のようだ。
こちらも評価され悪い気はしない。思わず頬が緩む。
「拙者は無刃流の雨月宗右衛門、お主を、斬る!!」
「面白ぇー、やってみな。俺はジューダ王国特殊近衛部隊の魔術師、ボルティア。お前を灰にした奴になる!」
「参る」
「来いや!」
拙者が先ず距離を詰めに行く。先の火の玉は掻き消せたが、隠し玉が無いとも知れん。なれば刀の純然たる間合いにして、先のような大規模攻撃の出来ない間合いにて決着するのが吉。
しかし、向こうもさるもの甘くはない。拙者が距離を詰め終わる前に、消えた。
「妖術か!何処だ妖術使い!」
「ここだよ。」
城壁から城内をみるといつの間にか妖術使いが立っていた。あちらまで気配を悟られずにどうやって?
「否、考えるは後、動くは先よ!!」
最短距離を、城壁から城内地面へ飛び降りる。この程度なら着地と同時に踏み込める!
しかし、これが悪手だった。
空中では方向転換は出来ない。彼はそれを狙ってわざわざ相手より下に位置したのだろう。それに気付いた時には拙者は岩に閉じ込められた。
「いやー、ヒヤヒヤした。」
あっけらかんとした口調でボルティアは岩の塊を見る。
しかし、その顔には余裕は無く、額から汗が流れる。
実際ギリギリだったしヒヤヒヤした。
距離を詰めるのは解っていた。が、予想以上に速く、刀身がはらんだ風は感じた。後少しでバラバラにされていた。
しかし、間一髪でのワープ成功。その後はこちらに来るよう仕向け、魔法で作った岩で生き埋め。勝った。
空中では武術は無力。こちらが有利。彼はそれを見落とした。
じゃあな、ウゲツソウエモン。俺はお前を忘れないぜ。
目の前の岩の塊、侵入者の墓標に目をやる。と!!
無刃流五 翡翠かわせみ
ドカーン!!
岩の塊が爆ぜる。岩の中に輝く光を見た。
吹き飛ぶ岩の威力を殺すためバリアを張る。が、光に呆気なく穿たれた。
「おぉっと、危ない危ない。」
光の先にはさっきの侵入者。がいた。
「ふう、危うく刺し貫くところであった。」
目の前の男は俺の目の前に迫っていた光、剣の切っ先を引っ込めると体の土埃を払い始めた。
敵陣のど真ん中で
敵の目の前で
今まさに殺しにいった相手の目の前でだ。いや、それより!
「どうして…出られた⁉いや、急拵えとはいえ、人を岩で圧殺出来る位は出来る威力のものを喰らって、何故生きている?」
目の前の男は土埃を払い終えると何食わぬ顔で言った。
「突きだ。突きで岩に穴を開けて、出てきた。それに、あれくらいでは拙者は死なんよ。」
「あれくらい…。」
目の前の妙な服の男。俺の一撃を掻き消し、あろうことか突きが俺に当たることを「危ない」と止めたこの男。コイツは危険だ!俺の本能が言っている。確実に消せ!と。
「そこまで言うなら…俺も本気を見せねぇと、近衛の名折れだ!ウゲツ!この俺の最高の一撃!受ける覚悟はあるか⁉」
「ほほぅ、一手目のアレは本気でないと申すか!良い。受けて立つ!全力で返り討ちにしてくれよう!」
決まった。俺の持てる全てを使い、全力で、力の限りを尽くし、排除する!
「俺の周囲に居る者全てに告ぐ!全てに告ぐ!この場から全力で撤退せよ!」
あらん限りの声で叫ぶ、見張りも、巡回も、庭師も、全てが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
「さぁ、邪魔は消えた。いくぜ。『猛キ焔ヨ燃エサカレ、我ガ望ムハ山ヲ海ヲ川ヲ地ヲ灰ニスル怒リノ焔ナリ。』」
ウゲツの目の前で詠唱を始める。周囲の空気が焼けるように熱く、砂漠のようになっていき、俺の右手に小型の太陽が形成される。
ウゲツは手も出さず、目の前の光景をじぃっと見るばかり。ここまで誠意を示されては俺も最大級の本気で行かねばな。
「『生命ノ根源タル水ヨ潤セ、我ガ望ムハ全テヲ無ニ帰ス原初ノ水ナリ』」
今度は左手に水の塊が現れる。火と違い、これは縮小出来ない。ドンドン大きくなり、左手を掲げる。最終的に自身の体の3倍もあろうかという大きさの水の塊が出来た。
「未だだぜ、『悠久ノ大地ヨ唸レ、我ガ望ムハ万物切リ裂ク鋼ノ刃』」
両手に火と水の塊を出したまま、何もない胸の前に黒い塵が集まり、それが形を変え、金属の塊、否、塊というより円錐状の、槍の穂先が現れた。
「さあて、先ずコレとコレを『相反スルモノ達ヨ調和セヨ、我ガ望ムハ調和ナリ。』」
両手を頭上にし、両手を祈るように合わせ、二つの塊を頭上で一つに合わせる。
火と水、相反する二つが触れる瞬間ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥという音と共に水が沸き立ち、水の塊が内側から押し出され、今にも破裂しそうになる。
「さぁぁぁぁぁっぁぁて!くっつけぇぃ!」
青筋を立てて強く祈る。激しい抵抗を抑え込み、手の中を一つにする。激しい抵抗が無くなり、手の中には赤子の握りこぶし程の赤と青が混じり蠢く球体が出来た。
オレはウゲツの頭上に鋼の穂先を魔法で固定する。頭上から槍を突きつけられてもウゲツは眉一つ動かさない。それどころか、次に何が起こるかとワクワクしているようにも見えた。
その上に、水と火を合わせて出来た球を浮かべる。
「隔絶セヨ、守リテ拒メ、不壊ノ障壁ハ砕ケヌ理」
槍の根元と球を結界で準備完了。
「さー、ウゲツさん。いくぜ。」
「良い。参れ。」
さあて、仕上げだ。
「調和ヨ消エヨ、相反セヨ、天ガ意ヲ示セ!」
結界内の球が膨張する、ボコボコ音がして、今にも弾けそうである。しかし、ボコボコボコボコ、音は止まない。内側で何かが暴れ、結界まで膨張する。しかし、音は次第に止んでいく。ボコボコボコボコ、ボコボコポコ、ボコポコポコ、ポコポコポコ、ポコポコ、ポコ…。
音が止んだ次の瞬間、結界内から耳ごと爆ぜるような凄まじい爆発音が鳴り響き、槍は吹き飛び、それと共に、辺り一帯が濃霧に飲まれた。
天の一撃
そう、俺が名付けた俺の魔法。相性最悪の火と水の魔法を組み合わせ、それが発生させる爆発によって鋼鉄の槍を飛ばすものだ。
単純明快な仕組みで飛ばすが、威力は御覧の通り、洒落にならないモノだ。
水蒸気による霧が少しずつ晴れ、地面に空いたクレーターが見えてきた。さっきまで平らだった地面が衝撃波で抉られ人一人分の深さの穴が開いていた。
穴の中に一人修羅が居た。口元から少し出血があるが、まともな傷は無い。
「ぜぇ、いやぁ、ウソ、だろ?ぜぇぜぇ、自分で言うの。も何だがハァ…アレは流石に回避方法が無いだろ?アンタどうやって…。」
こちらが息も絶え絶えで目の前の状況を理解できない中、目の前の剣士は言った。
「決まっているだろう。斬った!」
流石の拙者も驚いた。蒸気が上がった瞬間、音に怯みかけ、正気に戻すために思い切り頬の内側を噛んだ。痛みが来る。鋼の槍が迫る。
無刃流二 鎌鼬
迫る一撃に鎌鼬を放つ。しかし、その程度では槍の威力は消えない。ならば…
無刃流二の三 鎌鼬 籠目
鎌鼬の斬撃を籠の目のように打ち込むことで面攻撃を行う技。今回は一点に斬撃を集中させ、槍ごと衝撃を消し去る!
迫る槍を一撃、二撃、三撃…刹那の中、刀を振り続ける。槍と剣、凄まじい衝撃を撒き散らしぶつかり合う。
最初の頃こそ槍の速度が落ちはしなかったが、徐々に勢いが殺されてきた。一撃一撃が歩みを鈍くしていく。そうして遂に、刹那の中でありながら何百というぶつかり合いの末…
勝利したのは剣だった。という訳だ。
「はぁ、負けだ。完全に。さぁ、もう俺に何かやる力は無い。さっさと首をとれ。」
ボルティア殿は呆れたようで晴れやかな、何とも言えない表情で諸手を挙げて首を差し出した。
「ボルティア殿。何を言っているのか?拙者は城を堕としに来たが、何も首を落としに来たわけではない。殺しなどせんよ?」
此処へはエリ殿の救出に参っただけ。そんなことはしない。
「それより、ボルティア殿?ここに拙者の連れが連行されている筈なのだが…心当たり御座らんか?」
目の前のきょとんとした顔のボルティア殿に訊くと、
「あぁ、もし捕まったってんなら先ず牢に行くと良い。それなら地下だ。そこの階段から行くと良い。」
そう言って彼は自分が作ったクレーターの先にある城の入り口を指差した。
「かたじけない。ボルティア殿。もし貴殿が宜しければ、また、手合わせ願いたい。」
本心である。
彼は非常に強かった。最初の一撃も、空中に誘っての石での圧殺も、最後の一撃も。
私の出会ったことの無いものだった。良い。
「俺で良ければ。良いぜ。今度は負けない。」
その顔には決心と確信が在った。
「いや、今度も拙者が勝つ!」
「いや俺だ!」
「拙者だ!」
「俺!」
「拙者!」
堂々巡りだ。それが可笑しかった。
「フフフ」
「ハハハ」
「「フハハハハハハハハハ」」
お互いに顔を見合わせ思わず笑ってしまった。
ここに、世界を越えた友情が生まれた。
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