桃太郎の剣術をお見せしよう

 「ソイヤ!」


 狼改め犬目掛けて刀を上段から振り下ろす。


「●●●!」


それを躱す犬。しかし、その隙を突き、猿が後ろから強襲する。


「▲▲▲!」


 これを蹴飛ばし、あしらう。が、その隙をついて雉は上から下へ急降下攻撃。


「◆◆◆!」


 これには反応しきれず背中を錐のような嘴で斬りつけられる。


 「グ!」


 相手をしているうちに体中傷だらけになる。致命傷は少ないが、じわじわと消耗させられていく。


今度は雉を最初に払い除け、犬をいなしたところで猿に引っ掻かれる。


『大丈夫かーい?』


「五月蝿いな。もう直ぐ逆転劇の開幕だ。そこ迄待っとけ。」


とはいうものの、正直手詰まりではある。一体にかかり切りになると他の二体から襲撃される。かといって、今の様に三体同時はこちらの体力が削り取られる。


 「連携攻撃はキツイな。………?」


自分で言って、その言葉の違和感に気付く。どうにも連携という言葉はしっくり来ない。


先程ほしから三匹が同時に襲い掛かってくることがないからだ。


 もし、三方向から同時に襲われたらひとたまりもない。連携を取っているのならそれを承知の筈なのにそれをやらない。何故か?それは


 『こいつらは連携プレーをしている訳じゃない。恐らく自分が襲いやすいタイミングを狙って襲っているだけなんだろう。』


 「解っていることを言うな。」


 『ごめんごめん。で、どうするの?連携を取っている訳じゃないけどある意味連携出来ちゃってる訳だし、それって結局解っても意味無いんじゃないの?』


 「イヤ、相手がそれぞれ単独で動いてるんなら話は簡単だ。連携出来ている今の状態を崩せれば連携は出来なくなる。」


 三匹に向き直り、刀を再び構える。よし、打破するイメージは出来た。後はそれを紡ぐだけだ。


 『紬君だけに?』


 五月蝿い。




 「▲▲▲!」


 今度は猿が周囲の足場を使って右斜め後ろから迫って来た。


 「そぉれ!」


 振り向きざまにそれを刀で返り討ちにする。


「◆◆◆!」


上空から影が迫る。羽を折り畳み、急降下する錐。それを突きで迎え撃つ。


「●●●!」


 その隙を突いて犬が突撃してくる。今までなら突きを放ち切り、雉を吹き飛ばして犬に対応しようとしていた。が。


「そい!」


錐と拮抗していた突きをずらして錐を刃に滑らせるようにして受け流し、流しきる前に犬に叩き付けた。


「●●●!」「◆◆◆!」


 両者共に刀に叩き付けられる形になって吹き飛ぶ。


 「▲▲▲………」


 猿は未だ怯んで襲い掛かる気配が無い。


 「ごめんな。」


 猿を上段から一文字に斬る。


 「▲▲▲▲▲▲▲‼‼‼」


 靄が晴れて中から赤毛の猿が出て来た。


 毛並みはバサバサ、やつれ切った顔。今の一撃が原因とは思えない。


 『その刀じゃ切れない筈だよ。そもそも、モヤモヤの状態の時、散々斬ったのに血が出てなかっただろ?』


「そういえば。」


『その刀も桃太郎印なんだから岩や邪は斬れても、生き物は余程のことが無い限り斬れないよ。試しに向こうに吹っ飛んだ二匹も斬ってみると良い。大丈夫。桃太郎は生き物を殺せやしない。』


  その言葉に従い、目を回している二体を斬ってみた。二体とも靄が晴れて犬と雉の姿が露わになった。しかし、両方共猿同様ボロボロで弱っていた。


 「どういうことだ?こいつら…さっき迄僕をボコボコにするほど元気だった筈だろ?どうして?」


 『うーん…。僕もこの世界に詳しい訳じゃないからよく知らないけど、この子たちを見る限り、そしてさっきの晴れた靄を見る限りだと、よくある『操られて無理矢理働かされていたパターン』じゃないかな?』


 頭の中の桃太郎もどうやらそう考えたらしい。明らかにこれは純粋な戦いの傷ではない。


 「そう、だな…」


 心を占めていたのは怒り、そして悔しさ。だった。


 桃太郎の言うことが正しいのなら、こいつらを操った奴が何処かに居て、この三匹はそいつに操られて、痛めつけられ、自由を奪われた。という事になる。


 痛めつけられ、自由を奪われる。


 「そんな事、大ッッッキ・ラ・イ・ダッッッ!!!」


 不自由な痛みしかない。そんなの大っ嫌いだ。


 「桃太郎。この三匹を操った奴をシバき倒しに行くぞ!」


 『うん?僕は君のイメージだから君が行きたきゃ…』


 イメージとして独立しているから乙木紬を客観的に見ることが出来る。その時の彼の顔は鬼退治する顔でなく、鬼の顔だった。






 そんな顔をしている人間に近付いてくる人間が居た。


 「冒険者様!」


 近付いてきたのはそこら中土埃に塗れた粗末な服の男だった。


 「あなたは、誰?」


 「はい。私はこの村の者です。先程の怪物は…」


 「倒したよ。そこに怪物だった奴が倒れてる。」


 「あぁ、アレが。って!まだ生きてますよ!」


 弱ってはいるが、虫の息ではあるが、未だ生きている。


 「大変だ。早く殺さないと!」


 「殺さなくて良い。あいつらは操られていただけだ。」


「何訳の分からないことを言っているんです?村を襲ったのはあいつらなんですよ⁉さっさと止めを刺さないとまた…」


「だから!悪い奴は他に居たんだ!彼らも被害者なんだ。」


そう言う私を無視して転がっていた角材で彼らを殺そうとしていた。




ビシ!




男の身体が何かに拒否されるように弾かれた。と思っていたら、男が吹き飛んでいった。


 タタタタタタタ


 逆方向から先程の子どもが駆け寄ってきた。手には先程渡した旗があった。どうやらここまでわざわざ返しに来てくれたようだ。


 「え?え?」


 子どもが村人Aを吹き飛ばした?へ?何?何何何?


 『乙木!気を付けて!』


 「え?この子どもに?」


 『違うバカ!その子が村人を吹き飛ばしたんじゃない。君の旗があの男を吹っ飛ばしたんだ!あの旗が拒絶したってことはつまりさっきの彼は…』


 最後までその言葉を聞き取ることが出来なかった。


 先程までの犬の体当たりが比べ物にならない程の衝撃が僕を吹き飛ばした。


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