第7話

ほんのしばらく後……






 三人は、リビングのソファに座っていた。

男女二人は、大変に居心地が悪そうだ。

被害者の男は、すでにあちこちの傷の手当てを、

この場において、病院なみに受けていた。

骨折部分には、天狗特製の膏薬を張ったあとに、

簡易ギブスで固めたあと、包帯を巻かれていた。



 痛みは、まったくない。

心なしか頭がフワフワとし、少し恍惚感がある。



 リサは恐怖のあまり、粗相をしてしまったため

に服を着替えていた。

今は、清楚で落ち着いた、膝下ワンピースを着て

おり、恥ずかしそうに頬を染めつつ、うつ向いて

いる。



 なぜに、有るのか現時点で謎である。

女物のワンピースが。

それも、安物ではない。



 上質な生地とパーツにて誂えた、リサも知って

いる一流ブランドのものだ。


 小天丸は、皆のコーヒーを淹れに夜分遅くに、

キッチンへ行っていた。




 小天丸が、広めのお盆へと人数分のコーヒーを

載せ、戻ってきた。一人一人へ配り、最後に、



「師匠だけ、特別にコピ・ルアクな。



 あ♪♪二人は、安心していい。

 おれと同じキリマンとモカのブレンドだから。

 昨日、挽いたやつ。


 旨いぜ?」



 二人が、複雑な顏をした。



「か……顏と声が、まったく合ってねー(汗)

 なんで、声はそんなに!?イケメンなんだ!!!?

 いや、声質だけじゃねー(汗)

 しゃべりも声の出し方も、姑息なほど上手い。

 声優で、食っていけるぜ?

 多分…………いや!?その顔なら、役者も?

 顏は、天女だからなあ(汗)」



 被害者の男が、はっきりと断言した(汗)

 小天丸が、悩み深き顏をし、



「…………。

 イケメンかどうかは……置いといてもよォ

 男なんだから、男の声は仕方ねーだろ!?

 ったく…………




 どいつもこいつも……」



と、答えた。



 被害者の男が、歯噛みした。



「いや…………


 仕方なくねーよ!?

 さっきの沈黙の時、垣間魅せた、憂いと戸惑い

 の表情…………。


 完璧だった。


 今すぐにでも!!!?部下に電話を掛けて、スタッフ

 を呼び集めたいくらいだ」




 小天丸が、



      あ゙ぁ!!!!!?





って、表情を浮かべた。





「何の!!!?スタッフだ!!!!

 なんの!?」



 被害者の男が、ぎこちなーく懐から、名刺入れ

 を出し、じたばたしながら、渋く小洒落た名刺

 を一枚、そっと、差し出した。





        フォトグラファー


          安齋兵吾




と、印刷してある。



 写真家らしい。




「小天丸よ!?

 ふぉとぐらふぁーとは、何ぞ!?」




 天狗面の師匠が、カップを面包のくちばしの下

へと、持っていくと、どういう仕組みか、珈琲を

巧く、啜っている。




「旨いのう♪小天丸よ。

 この、こぴ・るあく、とやらは」



 小天丸が、めんどくさそうな表情を浮かべた。

えらく、そそる表情だった。



「待ったあああ!!!?


 その表情!?すごく、いい!!!!

 じつに!?イイよ!!!!」



 小天丸の額に青筋が浮きそうな勢いで、その顏

に、怒気が孕む。



「師匠。

 フォトグラファーってのは、写真家のことだ。

 綺麗な女や風景だの美術品とかを、鮮明かつ、

 美しく写真に写すことを生業にしてる者だ。


 コピ・ルアクは、この前、例のおっさんたちの

 一人が、持ってきたのさ。

 かーなーり、稀少なコーヒー豆らしいぜ?


 野性種とか言ってたからな。


 麝香猫の、糞まみれな豆を綺麗に洗って、乾燥

 させたものらしい。

 落ちてる糞から、ていねいに一粒一粒ひろって

 からな(汗)



 おれは、飲まねーw

 クソいまいましい。

 おれが、イヤ〜な顏すると、そいつ、途端によ

 ニコニコし始めやがって。

 唾吐きかけてやろうかと思ったぜ」




 天狗面の師匠は……

 それを聞いて、なお、コーヒーを呑む。



 安斎は、思った。



 そいつにしてみたら、それは…………

 御褒美かも??しれない。



と。




「旨い。


 小天丸よ!?

 もう一杯、馳走せいい」




「…………」





 小天丸が、またキッチンへと、すたすた向かい、

 すぐにおかわりを持ってきた。



「うぬらは、飲まぬのか?

 小天丸よ?

 なぜに、この者らは杯を空けぬのか?」




 小天丸が、鴉天狗面の師匠の横に着席した。




「それで?師匠。

 どういう理由があって、こんな真夜中に、おれ

 の部屋へ、この人たちを連れ込んだ!?




 非常識だろ!!!!」




 そう言うと、小天丸が卓の上のコーヒーを一口

飲んだ。




「何をいう、小天丸よ?まだ宵の口であろ?

 鴉天狗たれば、これから、宵を楽しむもの」




小天丸が、無言のままで、忌々しいものを見る目

をし、




「人には、真夜中だ!!!!

 もう、寝るんだよ!!」




と、鴉天狗面の師匠へと、はっきり、物申した。




 途端に、安齋が、はっきりと落胆した。


 小天丸の、こめかみが神経質げに、動いた。




「あんた!?がっかりしたか??

 今!?



 したよな!!!?




 あんたも、あのおっさんたちみたいに?



 天女だ!!!!


 とか?


 あと!!

 あと三十年早く!!(号泣)逢いたかった……


 とか?




 なぜ!!!!今なのだ!!!?




 とか?




 とち狂ったことを抜かすんじゃねー!!だろう

 なあ!!!?」




 安齋が、天狗面の師匠を見、鴉天狗面の師匠も

また、安齋を見返した。

リサは、コーヒーを、うつむきつつ、すすっては

関与せずの姿勢をつらぬいた。



「「全部だ。

   じゃ。      」」




 な♪と、二人が示し合わすよに、同意した。

なぜか?息が合い、安齋と烏天狗面の師匠とが、

コーヒーを、漠逆の交わりのように意気投合し、

互いに杯を交わす。




 小天丸が、心底……呆れた表情を浮かべると、

安齋が、うずうずした顔をしつつ、両手を手持ち

ぶさたそうにさせている。




「嗚呼!!!!

 今晩に限って!!!!

 どうしてカメラ、持って来てねーんだろ。


 最低だぜ」




小天丸が、ボソリと、




「違う意味でも、最低だろ。

 二流め」




と、言ったが早いか、



「「しゃ!!べ!!!!るな!!!!」」




と、釘をさされた。




「どうやら、其方そちも……

 かおリストの資質があるようだのう。


 入るか?」




 小天丸が、頭をブンブンと横へと振り、全否定

の姿勢を見せた。




「師匠、

 おい!?勝手に勧誘してんじゃねーよ!!

 無駄に、増えてんだよ!?会員が!?


 おれの、預かり知らんところで。



 仕事頼んでも、なんか?示しを合わせたように


 みんな、金は受け取らねーくせに、まったく?

 意味わかんねーことを言ったり////させたり…

 するしよ?」



 安齋と天狗面の師匠は、////←の部分で、同時に

に鼻と嘴を伸ばして、身悶えした(汗)

その、無駄にハキハキと澄み、腹黒でイケてそう

な声は最悪レベルで合っていないが、その可憐で

楚楚とした表情と仕草は、しっかりと反比例する

ように麗しい。




「な……(ハアハア)

 何をさせられたんだ!?

 そそそ、そ、それに……よるぞ?」




安齋が、息を荒げながら、小天丸に、そう問うと


「あ゙!?

 おしえねーよ!!

 思い出したくもねーし」



小天丸が、そっぽ向いた。




「女装で、高級和食のお昼をご馳走になったり、

 和服で宮島に観光に行ったり、超高級フレンチ

 の店でディナーしたり、海辺で キャッキャッ♪ウフフ♪

 したりと、其方も大変よのう。



 で」




 小天丸が目を剥き、天狗面の師匠を睨んだ。



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