第5話 烏天狗丸、来来
時、少し満ち。同日、深夜。
市内某繁華街の路地裏。
うらぶれた路地裏の袋小路で、二人の男女が、
お互いの関係と親睦を、深めようとしていた。
真冬であっても、どことなく空気はジメつき、
かすかに
小便臭さが漂う、薄暗い袋小路。
女を、古いビルの壁に押し当て、抱擁し、女の
股の間に足を入れて、激しく口を吸い合う。
男の方が酔っているのか、貪るように若い女の
口を吸い、なかなか止めない。
強引に、舌までねじ入れて、女の熱く濡れそぼる
口腔を激しく掻き回し、蹂躙す。
胸も、服の上から荒々しく左手が揉みしだき始め
服が、いかにもな風に、乱れ始めた。
「んっ!?
そんなに……あ!!
激しく !? 」
右手は、女の熟れた太ももから、撫で上げ……
やがてストッキング越しに秘所を、焦らすよう
に甘く優しく撫で上げ、執拗だが少しづつ大胆に
責め始めた。
男は、酔いに身も心も任せ、いささかの気後れ
もない。
女もノル気に見える。
イヤがる素振りは微塵もないし、胸ポケットへと
常日頃から忍ばせている高性能ICレコーダーも、
ONにしてある。
「だ!?ダメ!!
歩けなくなっちゃう……」
言葉とは裏腹に、扇情的な熱さが声にこもって
いる。
身体は、正直だ。
音声データも、正直である。
合意の上としか、思えない。
黒のストッキング越しに判るほど、湿り始めて、
すぐに指がぬめるほどに変わる。
[もう、濡れてやがる。
たまんねーな、トロトロだ]
男は、内心、ほくそ笑む。
これほど、容易いとは正に夢にも思わなかった。
男は、くちびるをゆっくりと離した後に、女の
熱く潤んだ大きな瞳を見つめながら、まずわざと
ぬめる指を見せた後、指を味わうようになめた。
当然、その後に女の口へ優しく入れ、丹念に指を
ねぶらせた。
男が、再びキスをしようと顏を動かしたとき、
ふと…………
気配を感じた。
男は、顏の動きを止めたままで、ゆっくりと、
視線を少し横へずらす。
壁から、男の視線と同じ高さほどに、頭らしき
ものが、横向きに壁から生えるように出ていて、
男女を見ている。
眈々と……。
「 !!!? 」
うすらぼんやりの光では、逆光だと余計に姿形
まで、判別が付けづらい。
だが、異形そうなことは、それでも判る。
男の両目が、こぼれそうなほど見開かれ、声も
出せずに、固まった。
途端に、女が白けたように、その面を豹変させ
男を突き飛ばした。
男は、その姿勢のままに、地べたへ倒れた。
硬く重い彫像が、倒れたに等しい音と地響き。
だが、彫像と違った所は、右手の薬指と小指が、
普通ならば、決してありえない角度で、曲がって
いたことくらいだろう。
みるみる腫れ上がる。
折れているかもしれない。
壁から生えた、頭らしきものが言う。
「見つけたぞ、誘い
男の処置は、後だ」
頭が、ゆっくりと……姿を現せた。
烏天狗面のモノだ。
烏天狗面のモノは、ビルの壁に映る薄い影より、
姿を現せた。
壁からではない。
影から出てきた。
先ほどの烏天狗面のモノだ。
小天丸は、いない。
烏天狗面のモノ一人である。
男が、かすかに身動ぎをし始め、どうも激しく
痛がっているが、どうにもならないようだ。
「チッ……」
烏天狗面のモノが、小さく舌打ちした。
懐から、おもむろにオモチャの小型拳銃らしき物
を出し、片手撃ちで男へと、三発撃った。
何かに当たった衝撃か、男の身体が三度わずか
に動いた。
高圧ガスで、撃ち出したかのような発射音だ。
実銃のように、空の薬莢は排出されない。
ブローバックもなし。
[つい……三発も撃ったが、死にはすまい……]
と、烏天狗面のモノは思う。
「お前か!?
近頃、あたしたちの仲間を狩っている奴は」
女が、打って変わって強い口調で言う。
先ほどまでの、熱く潤み《うる》色香を含むなまめかしさ
は消え、白々と敵意がある。
「
死に腐れた華の臭い。
男を、
かかかかかかかかか
呵呵呵呵呵呵呵呵呵!!!!
笑いすぎて片腹痛いわ!?
狩るとは異なことを。
生き物ならともかく……
うぬらは…………
もはや、死んでおろう」
烏天狗面のモノが、面頬の奥で、含み笑む。
「
近くにいるのであろ?」
女が、嘲笑う。
烏天狗面のモノへと、頭上から何か大きな物が
覆い被さってきた。
目の小さな網だ。
網は、盛り上がっているが影に混ざりあい、よく
分かりにくい。
途端に、至るところから、数人の若い男たちが、
姿を見せた。
入って、左手の雑居ビルの屋上から、二人。
右手の二階建て店舗の二階のはね上げ窓から、
一人が下を覗き、表通りからの、入り口には逆光
で三人が立っていた。
烏天狗面のモノは、網が被さったためか身動き
一つしない。
表通りからの三人が懐から、腰元からと何かを
颯爽と出した。
拳銃らしい。
よどみなく構えつつ、歩く。
そしで、三人は網へと一斉に撃ち込む。
おそろしく音が小さい。
サイレンサーを付けていたとしても。
現実のサイレンサーは、映画やドラマのような
劇的な消音効果を生むことはない。
付けても、撃てば目立つし、うるさい。
離れてても、判る。
しかし、これは、異様なほど発射音が小さい。
映画やドラマのより、少し大きいくらい。
だが、近距離では、それなりに威圧感を感じる。
女が、怯えたように壁へ、身を寄せる。
音も怖いが、行われている威力が怖いのだ。
空の薬莢を路上に落としながら、だんだんと網
へと、近づいていく。
二階からは、矢が間を空け、二本飛んできた。
網に、容赦なく矢が突き立つ。
表通りから来た三人の、真ん中が右片手で銃口
を向けたまま、左腕をL字に曲げ、拳を握る。
両側、二人の撃ち方が止んだ。
屋上から、二人が舞うように飛び降りてきた。
何故か骨折した風はない。
上手く着地したから?
いやいや、常人と思えない。
誰彼となく、小さくだが…せせら笑い始めた。
いやらしく、せせこましい笑い声だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます