第3話

 「全く!前任者には最低限の礼節はなかったのかな!!全く、今日は不幸だよ!」


 怒りが治まらない。朝はサークルのことで頭がいっぱいで怒りなんて言葉は忘れていた 


が、今は違う。我が辞書には怒りの文字しか無しだ‼


「落ち着け鴨矢。」


「これが落ち着いていられるか!あの後も学食が臨時休業するし課題は忘れるし、散々な目に遭ったんだ!」


 あの後、京極に言われるままに空き教室に向かった。


 窓から見えるサークル棟の僕たちの部屋が矢鱈呪わしく思える。何故彼はわざわざこんな場所を選んだんだ?


 「それは災難だったな。ただ、学食はさておき……さておきだ。課題は君の責任だとは思うがね。」


 私とは対照的に凄まじく冷静なのがまた腹が立つ。


 「京極!!君はあんな状況を見てよくそんな冷静になれるな!私は今、犯人を捕まえて綺麗に掃除させるという考えで一杯だっていうのに!」


 「解っているのかい?誰がアレをやったか。」


「あぁ、前にあの場所を使ってた奴だろう。問い合わせれば一発だ!!」


怒りに呑まれた私を前に、やれやれといった顔で私を見る。


「鴨矢、違う。その人は犯人じゃない。」


「何言ってるんだ!だって…」


「足跡は二種類あった。」


「それがどうしたって言うんだ?」


まどろっこしい彼の話し方に腹が立って来た。


「あそこは元々古典サークルがあった。そしてそこの所属者は最終的に一人だったんだよ。なら、足跡は一種類でないとおかしい。つまり、前任者は無実だ。」


 彼の冷静な話し方に引き摺られ、冷静さが戻って来た。


 「じゃあ、一体誰が?」


 「君はさっき言ったね?僕の能力を追求したらどうか?…と。」


またしてもニヤニヤ奇妙な笑いを浮かべてこう言った。


 「能力を追求次いでに犯人を挙げようじゃないか。」










 衝撃だ。「犯人を挙げようじゃないか。」と彼は断言した。


 基本、彼は自信の無い発言はしない。今朝の推理も確信が在って言ったのは分かっていた。


 しかし、今朝の僕とは違い、痕跡なんてものは足跡位だ。それなのにこんなことを言うってことは…






「解っているのかい?誰がアレをやったのか。」


 固唾を飲んで京極を見る。それにたいして彼は。


「あぁ、大体な。」






「一体誰が!!」


 興奮のあまり身を乗り出す。予想はしていたが衝撃は押さえられない。


「落ち着け鴨矢、今回は君のと違って証拠がいる。当てずっぽうで外れたら洒落じゃ済まん。」


 と、言う訳で。君に頼みがある。


「君には幾つか調べて貰いたいのだが…構わないか?」


「いいさ、君の能力、十分に追求させてもらおう。」


二つ返事だった。ここまで来たらもう何にでもなれだ。




「よろしい、では先ず、学食に行ってくれ?」


「…………は?」


 予想外の発言に頭がフリーズする。


 「だから学食さ。学食に行って何で臨時休業したかを訊いてきてくれ。必要なんだ。」


 一見無駄に聞こえるが、どうやら本気で言っているようだ。


「そうか、ならば行くか。」


「うん。頼む。」














 学食へ行くといつも調理をしている女性が掃除をしていた。彼女から聞けばいいだろう。


 「すいません、宜しいですか?」


「はい?ごめんなさい、今日はお休みなんです。」


こちらの声に気付くと彼女はそう言って謝罪した。


「あ、イヤ、知っています。あのー、ちょっと訊きたいのですが、なんで今日いきなり休みになってしまったんですか?」


「あー、誰かが悪戯して荒らされちゃってね、調理場使えなくなっちゃったのよ。ゴメンねー。」


「いえ、すいませんでした。お邪魔しました。」


とは言ったが、掃除は中々大変そうだったのでつい、手伝ってしまった。
















「で、ついつい紳士の精神を発揮して、学食のご婦人の掃除の手伝いをして来たであろう鴨矢君?どうだった?何故学食が臨時休業だったのか?」


溜息交じりに呆れられる。まぁ、矢鱈時間がかかったのは分かる。が、なんでそこ迄解るのだろう?


「君のズボンがさっき迄と違って濡れている。しかも休業理由を訊くだけにしては矢鱈時間がかかった。君の性質を考えれば想像に難くない。これに関しては見るまでも無く解ったさ。」


諦め混じりで目をつぶる。


「そう言うな。分ったよ、きょう臨時休業だった理由。どうやら調理場が荒らされていたせいで開けられなかったらしい。」


「ふぅむ、そうか…矢張り…。」


そう言ってゆっくりと目を開ける。その眼にはさっき迄には無かった光がある。


「で、次はどうする?何処で何を訊いてくればいい?」


「あぁ、そうだな…次は…、じゃぁ。」


次の発言はさっきより予想外のものだった。


「帰るぞ、君も来るといい。男の飯で良ければ歓迎してやろう。」


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