第182話 Re:Re:Re:【緊急】帝都の嵐

「リリザを逃しただと!」

 ヴァッレ・ダオスタはひさびさに激怒した。


 普段から飄々ひょうひょうとした態度が身上のヴァッレ・ダオスタ公爵は間抜けな部下の報告に椅子から飛び上がった。


 彼はいま帝国の首都惑星であるアンダルシアに降下した防弾車両の中で秘蔵のスパークリングワインを飲もうとしていた矢先だった。


 民間車両としては分厚い装甲でおおわれ、ゆったりとしたシートによく冷えたワイン、スパークリングワインが並び、世話をする従者も同乗している。


 その周囲を大隊規模の私兵が囲んでいる。


「それはまずい、非常にまずい」

 公爵はひざをわなわなと震わせ考えた。


 実際、宮殿を制圧してリリザを捕らえることができればいろいろな利用価値があったはずだ。譲位でも交渉材料として使うでも様々な使い道があった。

 もちろん首都を防衛する近衛師団に対する人質にもなる。


 ただそれはリリザを確保できた場合の話だ。

 仮に死んでいたとしても、意識不明であるというような体裁で進められた。


 リリザを確保できなかったとすると今度はヴァッレ・ダオスタの奇襲攻撃は逆に敵の巣窟の中で孤立していることになる。近衛師団だけでなく帝国軍艦艇もうようよ集まってくるだろうし海兵隊も降下してくるだろう。


 そうなってくると民間船を使ってただ単に自ら捕まりにきたようなものだ。


「まずい!」

 ヴァッレ・ダオスタは手にしたスパークリングワイングラスを床に叩きつけた。

 底部の装甲にあたって本物のガラスでできたグラスはきれいに砕け散った。


「リリザは今どこにいるのだ!」

 ヴァッレ・ダオスタは車両の中で萎縮する私兵士官を怒鳴りつけた。


「はっ……どうも中庭のポートよりタグボートを奪取、宇宙にあがった模様です」

「タグボートだと?」

「リアクト機関は搭載されていません」


 リアクト機関が搭載されていないタグボートならパワーはあってもこの宙域からは離脱することはできない。もっとも叛乱対処のため主要艦隊が出払っているとはいえ、警備艦隊程度はいるだろう。それらと合流されると結局逃すことになる。


「何か使えるものはないのか?」

「使えるものといいますと……?」

「この間抜けめ! 何でもいい、人質とか何でもだ」

「宮城を制圧しつつあるのですが特に侍従や警備兵以外には……」

「ええい! ワシ自ら行く、前進だ」

「はっ!」

 

 さすがにこの状況に惑星全域に展開していた近衛師団が集まってきつつあるという情報もあった。可能な限り贈収賄で事前に工作活動を展開していたのだが、こうも派手にやっているとさすがにこうなるわけだ。


 ヴァッレ・ダオスタは私兵を集中させとにかく宮殿の制圧を急がせた。

 そんな中、絶望的なニュースが飛び込んできた。


「帝国と共和国双方の承認を受け、現在帝国の要請に基づき治安維持に協力をしているリオハ同盟軍が漂流中の帝国皇帝リリザを救助しました」


 よりによって首都惑星の通信社が報道している。

 そういえば通信社やインフラなどへの破壊工作をおこなわず宮殿のみを目指して攻撃していたことを思い出した。目の前に置かれた果実はあまりにも魅力的だったのだ。


「つ、詰んだ……」

 ヴァッレ・ダオスタはしぼりだすような声で言った。

 

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