第181話 Re:Re:【緊急】帝都の嵐
ヴァッレ・ダオスタの私兵で構成された中隊規模の遊撃隊は帝国の宮城に侵入した。
近衛師団は艦隊迎撃のために広く分散していたのもあり、また皇帝リリザがあまり予備役の動員やもともとの私領であるヴァイン公国からの増援も望んでいなかったのもあって虚を衝かれた形になってしまった。
しかも広大な敷地を一個大隊と若干の警察部隊だけではヴァッレ・ダオスタの遊撃兵を排除しきれなかった。
遊撃隊はさらに小隊ごとに分散して暴れ回った。
さらに宮城が手薄であることに気付いたヴァッレ・ダオスタは帝都での陽動作戦から徐々に戦力を宮城に向け始めていた。
一方、スワンソンと近衛の小隊はかろうじて退役兵やばらばらにはぐれていた近衛兵をかき集めてどうにか戦力として成立させていた。彼らはかろうじて中庭の小さな大気圏内航空機用のポート付近の通用口を確保、リリザを囲むようにして抵抗を続けていた。以前、大広間での暗殺未遂を防いだときに哨戒艇を隠していたポートだ。
「投擲弾はもうないか?」
スワンソンは陸戦の専門家ではないが近衛の兵士たちと一緒に拳銃を握って撃ちまくっていた。相手から投擲弾を投げられたら終わりなので通路の出入り口付近を銃撃で制圧し、L字型の通用路の奥にリリザをかくまっていた。
「……状況は?」
リリザが問う。
儀礼用のドレスは動きづらいため、途中で調達した近衛の女性用制服に着替えていた。
「よくないです、ただ必ず脱出していただきます」
スワンソンが答える。
彼はL字型の通用路の角にひそみ拳銃を構えている。
近衛の兵士は味方の兵士の遺体を盾にして伏せるような凄絶な状況だった。
リリザは下手すると先頭に立ってしまうだろう。スワンソンはそう思っていた。
「ポートへの通用口は?」
スワンソンが後方にむけて聞く。
「通用口は確保できました! ただ敵兵がすでに侵入しているかもしれません」
「斥候を出してくれ。場合によっては排除、確保を頼む」
「はっ!」
兵士が数人奥は駆け出していった。
またどこかで爆発が響く。
帝都は完全に機能不全に陥っていた。
つい先刻までバルコニーから見えていた平和な帝都が一気にこの状況になる。
リリザは油断していたこと自体は認めざるを得なかった。
まさか宮殿そのものを攻撃してくるというのは予想外だった。
せめて近衛師団を集中させていれば、あるいは首都惑星の防備は予備役を動員していれば、なと後悔のタネは尽きなかった。
「ダメです! すでにポートに敵兵と思われる勢力が少なくとも小隊規模!」
兵士が負傷した同僚をかかえて戻ってきた。
そうなってくると移動しながら徐々にポートに近づくというのも難しく、むしろポート側の通用路も防御する必要が出てきてしまった。
「ただ小型の宇宙機を2隻確認。作業用のタグボートです」
「!」
スワンソンの表情に血の気が戻った。
タグボートは戦艦などの向きを変えてドックに入港させるときなどに使うが、幸い宇宙に離脱するだけの推力はある。リアクト機関はないが敵はどうも艦隊で押し寄せているわけではないのでそのほうが脱出の算段が立ちやすかった。
「私が行きます」
近衛兵の小隊長がいやに冷静な目でスワンソンを見る。
「ありったけの投擲弾を渡してください」
兵士たちは察して残った投擲弾を小隊長に渡した。
小隊長はそれらを衛生兵用のバッグに詰めこんだ。
「では」
「いや、私が行こう」
スワンソンがそのバッグを小隊長から奪い取った。
「中将!?」
「スワンソン……」
リリザは異論を唱えるつもりはなかった。
「陛下、お元気で」
スワンソン中将はにやっと笑ってバッグを片手に通用路を駆けた。
近衛兵たちはポート側の通用路に集まり小銃を乱射して敵の火線を制圧しようと試みた。
スワンソンは通路から飛び出し、ヴァッレ・ダオスタの兵士が密集するあたりに投擲弾を投げた。爆発。敵の怒号と悲鳴が聞こえてきた。
「スワンソン、すまない」
リリザはそっと目を閉じた。
「陛下、今のうちに」
小隊長に導かれてリリザはタグボートに走るのだった。
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