第180話 Re:【緊急】帝都の嵐

 激しい耳鳴り。

 リリザは誰かに助けおこされるのをどこか遠くから見ているような感覚を覚えていた。


 スワンソンが何かを必死に叫ぶ。

 さきほどの爆発は明らかにアンダルシアの宮城の作戦室で起こったものだった。


 乾いた音が響く。

 発砲音より先に破壊と衝撃がやってくる。

 侍従が何人かばたばたと倒れた。


「賊が侵入しているぞ!」

 警備兵の誰かが叫んだ。


 そのすべてをどこか透明な沼の底から見ているかのような感覚だった。


「へいか……陛下!」

 急にスワンソンの声が明瞭に聞こえた。

 耳鳴りがひどい。甲高い金属音のようなものが聞こえる。


「何が……」

「どうやら帝都を攻撃している族が入り込んでいるようです。反乱貴族の手引きかもしれません」

「陛下、スワンソン中将、まずはこちらへ! 兵士は敵を食い止めるんだ!」

 近衛兵の小隊長が叫ぶ。

 作戦室にいたであろう近衛連隊長と幕僚が吹き飛んだので、彼がこの場の責任者となってしまった。


 スワンソン中将と小隊長はリリザの脱出ルートの確保に必死だった。


 —— 宮城と首都を攻撃していたのはヴァッレ・ダオスタ公その人だった。

 長く共和国の捕虜となっていたが脱出に成功し、シャリュトリューズと組んでこの反乱計画を立てたのだ。

 彼は中央への執着が強く、それがゆえに首都惑星や宮城の警備体制をよく知っていた。


「ブハハハハハ! 大艦隊で包囲するのもいいが、このように隙間から浸透するというのもなかなか良い」

 ヴァッレ・ダオスタは哄笑した。彼はすでに首都惑星に降り立っていた。

 厳戒態勢にもかかわらず手引きをする人間を使い、民間船に分散して私兵を潜ませていたのだった。もちろん本人も民間船でやってきたのだ。


「公爵閣下、さすがです。しかしこうもうまくいくとは?」

「むしろこれが狙いだったのだよ」


 彼は嬉しそうに語った。

 帝国は全体としては大きな国だが、貴族の私領も非常に多く、そして貴族はあらゆるところに血のつながりを持つ。リリザは有能な皇帝なのだろうが、一方で背景となる本人の権力はあくまでヴァイン公爵としてのリリザの資料と中央直轄領のみだ。


 帝都自体にあらゆる敵がいる。

 そして貴族たちが各個撃破の憂き目にあったとしても、それこそが陽動となる。

 遠くで反乱鎮圧軍が活躍しているからこその隙。


 そこをついたのだと。


 もちろんヴァッレ・ダオスタはこの状況が半ばは偶然であることも理解している。

 しかしそういうことにしておけばこの新たな体制で相当な権力をにぎることができるだろう。彼はそう考えていた。


 帝都に集結させたヴァッレ・ダオスタの私兵は実際のところ3000人。

 事前に潜んでいた工作員とあわせて中隊ごとにわかれ各所で騒擾を起こしていた。


 帝都を守備する近衛師団は艦隊に対する迎撃の準備で広く分散し、実際に城に残っていたのは一個大隊と警察の警備隊くらいだった。


 ヴァッレ・ダオスタは宇宙でも陽動で相手を分散させ、帝都でも陽動で相手を分散させた。将軍や提督というより練り上げられた狡知がなせる技だった。


 複数のヴァッレ・ダオスタの私兵中隊が神出鬼没に宮城を攻撃し、一部の遊撃隊が宮城に潜入した。シャリュトリューズは何としてもリリザを生かして捉えたいというような気持ちはなく、生死は問わないつもりだった。


 だからこそ・・・・・ヴァッレ・ダオスタはリリザの生捕にこだわっていた。彼はシャリュトリューズをも飲み込むつもりだっのだった。

 


 


 

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