第179話 【緊急】帝都の嵐
帝都アンダルシア。
アルファ帝国の首都星である。
そこに帝国皇帝の宮城がそびえている。
見た目はこの世界としては古風で、地球の近代的な城館に似たたたずまいだったが、素材は近代的でちょっとした砲撃になら耐えられるレベルだ。
この日リリザは宮殿のバルコニーから帝都をみおろしていた。
宮城はやや高い丘の上に建てられ、その周囲10数キロメートルは高い建物を建てることができない。貴族の館以外に一般の臣民の家々も自然な起伏にそって建てられ、街路も起伏にそうように走っている。
この日、アンダルシアは寒期にあたり雪が降っていた。
天然石を模したスレートにも雪が積もり、遠くに見える森はすっかり雪をかぶっている。
リリザはその様子を気に入っていた。
朝から重臣たちを集めた会議を開き、涼井の提案通りに承認したリオハ同盟との外交交渉案を詰めていた。国家は国家であるし帝国にとって重要な交通の要衝を租借地として貸し出しているという点も課題のひとつだった。
いま帝国内で起きている貴族の反乱は幸い涼井たちの艦隊と、補助につけた直轄領の艦隊を各個に撃破しつつある。反乱を起こした貴族たちは集まる前から有力な貴族が撃退されつつあるのだった。
しかしふと、リリザの目が帝都の一角からあがる煙のようなものをとらえた。
そして爆発。一瞬光った後、数秒で爆風が押し寄せてきた。
「陛下!」
転がるようにしてスワンソン中将が飛び込んできた。
リリザの従兄弟で、彼女が旗揚げをした最初期から付き従っている家臣だ。
「これは何事?」
「まだ状況不明ですが、帝都のあちらこちらでゲリラ兵が……」
スワンソンに続いて近衛兵の小隊がバルコニーに飛び込んできた。
銀色のかぶとをかぶり、黒衣に身を固めサーベルを提げている。ただ小銃をしっかりと持っていた。
バルコニーからは帝都のあちらこちらから爆炎があがっているのが見えた。
「急ぎ安全なところへ!」
スワンソンも自ら拳銃を抜いて先頭に立った。
リリザは公務用のドレスを着たままで動きづらかったがやむをえない。
近衛兵の小隊は小銃を構えてリリザを囲んだ。
また爆発音。今度は近い。
「ゲリラ兵の規模は? スワンソン」
「まだわかりません」
さすがにスワンソン中将も青ざめている。
帝都は同時多発的に攻撃を受けているようだった。
「対策は?」
近衛兵の小隊長が答える。
「現在近衛師団長が不在のため、先任の近衛連隊長が指揮をとっていますが……」
「私を作戦室に」
「いえ、我々は陛下をまず宮城から最悪脱出できるように空中機ポートにお連れしようと」
リリザは毅然と言った。
「この混乱を後に脱出することはできません。私を作戦室へ」
近衛兵の小隊長はちらりとスワンソンを見たが、スワンソンは静かにうなずいた。
「承知しました。まず作戦室へ……」
スワンソンに代わり近衛兵が数名前衛のために走った。
城の回廊では何人もの侍従や侍女が走り回り、近衛兵の一団が行き来していた。
リリザは彼らに安心するような微笑みを向けつつ作戦室に急いだ。
作戦室は宮城の中央部にあり、分厚い複合装甲の壁に囲まれているが、城の主塔のどこからでも徒歩で数分も歩けば到着できるようになっている。
作戦室からは連隊長や連隊幕僚たちの大声が聞こえてくる。
リリザが入る前に作戦室の安全を確認するため近衛兵が斥候に走った。
その瞬間。
爆発音が響いた。
視界が一瞬真っ白になる。
リリザは自分の体が何かの衝撃を受けて床に叩きつけられるのをどこか遠くから見ているかのような感覚で感じていた。
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