第176話 【暫定対応】新国家"リオハ同盟"


 帝国領のナパ宙域はナパ星団ともよばれ、密度高めの複数の恒星系から成っており、雑多な貴族領となっていた。


 そのうちエブロ、ナタール、クワズルら3人の伯爵は叛乱に参加していた。

 彼らはナパ星団のうち30%ほどの領地を所有していた。


 彼らは叛乱を起こしたものの独自の武力は大したことがないため、レバンテ侯やレオン侯の援軍を待っていた。唯一エブロ伯は領地の恒星周辺に小惑星くらいの大きさの要塞を所有しており、3伯爵はその要塞周辺に布陣していた。


 エブロ伯爵の要塞「クリアンサ」は直径200kmほどの金属質の小惑星を代々改造してきたもので、数百ほどの戦艦ならドックに停泊することもできた。戦艦の主砲を集束した要塞砲はかなりの威力で、質量弾も大量に保管していた。


 周辺の惑星からの補給も期待できるので、

 ここに3伯爵はあわせて2000隻ほどの艦艇を集めていた。


 しかしそのうちの半数はせいぜい機関砲を乗せた警備艇クラスで、残りは旧式の巡洋艦や駆逐艦で占められていた。


 3人の伯爵はそれぞれの旗艦と艦隊を要塞の近くに置いていた。

 小要塞「クリアンサ」と共にゆったりと恒星の惑星軌道にのる。


 ちょうどレオン侯が4500隻の艦艇を率いて合流すべく向かっているとの重力子通信が入り、3人の伯爵は明るい見通しに雀躍してそれぞれの秘蔵のワインを持ち出してクリアンサの迎賓館で宴会を開いていた。この時点ですでに叛乱に参加したレバンテ侯がこの世から消滅していることなど知らなかったのだった。


「いやはやあの帝国の小娘に鉄槌をくれてやりましょうぞハハハハ……」

「皇帝を僭称しているも同然。レオン侯爵の艦隊とこの要塞をもってすれば十分に牽制になりましょう」

「次なる皇帝はもちろんヴァッレ・ダオスタ公となるのでしょうな」

「もちろん、そうなれば我々もおこぼれに預かれるというもの」

「すばらしい未来ですなぁ」

「しかしそれにしてもあの小娘、まさかシャリュトリューズ殿を追い出して自らが公爵となり、あまつさえ共和国と同盟まで……」

「万が一貴族の私領が廃止となると我々の生活はいったいどうなってしまうのか」


 彼らは私領の住民の移動や就労の自由を制限していた。

 一方、皇帝となったリリザは貴族の私領の維持を約束はしていたものの直轄領では移動の自由と職業選択の自由を保障する政策をとっていた。共和国のアドバイザーのプレゼンを受けてそのようにしたとのうわさもある。


 帝国は広いが貴族の私領の総和にすぎず、軍事的な協力についてもその場その場での談合が必要であるため、数的にはこの銀河第一の国なのだが、全力を発揮することができないでいる……とそのアドバイザーは考えていたのだった。もちろん涼井である。


 しかしそうしたリリザの自由化政策は農奴制に近い政策をとった貴族たちにとっては不満の対象でもあった。ただし完全な移動や就労の自由を制限するあり方は現代の帝国では少数派であって、大半の貴族領は独立した国のようでありながら、領地間の移動も形骸化した許可さえ得られれば問題なかった。


 そういう意味では不満をもった旧来の貴族が叛乱に呼応し叛乱が広がる……とまではいかなかったのが実情で、そのあたりも涼井の読み通りであった。


 ナパ星団どころか要塞クリアンサの眼前に"謎の艦隊"が迫ったとき、叛乱に参加していた3貴族はまだ宴会中であった。


「斉射用意……」

 涼井は戦艦ヘルメスのメインモニタの前の提督席に座って右手をあげた。

 メインモニタには可視化された要塞クリアンサの姿が映し出されている。ごつごつとしたじゃがいものような形状だ。


 涼井の指揮する艦隊の前面には全長10000メートルに達する巨大な艦艇が並んでいた。その艦艇は大質量弾を一斉に放った。


 通常の共和国や帝国の艦艇ではあり得ぬ巨大な砲弾が要塞クリアンサの要塞砲付近につきささる。猛烈な粉塵をふきあげて要塞クリアンサが鳴動した。


 アクティブ重力制御では押さえられない衝撃がつたわり、3貴族たちは座席から投げ出された。


「な、何事!?」

「敵の襲撃だと、駐留艦隊は何をしているのか!」


 要塞周辺を守っていた艦艇は25000隻もの謎の艦隊の襲来に驚きとっくに逃げ散っていた。

「要塞砲使用不能! 岩盤層が20%吹き飛ばされました!」

 オペレーターが悲痛な声をあげる。


「いったいどの艦隊だ!」

「……先方から通信……! り、リオハ同盟? リオハ同盟第1艦隊を名乗っています。降伏勧告です!」

「何だそれは……」


 再度の衝撃。

 さらに強烈な砲撃を受けたようだった。3貴族はさらに床に転がった。


「こ、降伏! 降伏だ!」

 叫んだのはエブロ伯爵だったが、オペレーターが降伏の通信を送る前に三度目の衝撃が走り、彼は気を失ってしまったのだった。




 

 


 

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