【3期目】おっさんが新国家を設立する件
第175話 バックログ
シャリュトリューズはアルファ帝国皇帝リリザの叔父である。
リリザの父であったヴァイン公が病に臥せっているのを良いことに公国で権力をふるっていた。
リリザのは直系
それがリリザの中央に対する挙兵の動機だった。
中央を手中におさめなければシャリュトリューズの首に手が届かなかったのだ。
これを私怨・私憤と断ずるのは簡単だが、帝国の内情はそうした感情・欲望の渦巻く坩堝で、それを何百年と繰り返しているのだった。
「それにしてもスズハルとあの小娘め……!」
シャリュトリューズは夜な夜な寝所で眠れぬ夜を過ごしては二人に対して陰気な怒りを燃やしていた。
ワインをぐぃっと飲み干すが味がしない。すでに瓶は空になっていた。
彼は恨みから陰謀家ヴァッレ・ダオスタと組み、彼が共和国内に張り巡らした工作員を総動員しオスカルとの連携、かつてこの世界の銀河商事の代表をつとめていたロンバルディアと手を組むことに成功したのだった。
結果、ヴァッレ・ダオスタの旧領のうち大部分、ヴァイン公領の一部、ザクセン公領、そしてエブロ伯、レオン侯、レバンテ侯、ナタール伯、クワズル伯など名だたる貴族が皇帝に対して叛旗を翻したのだった。
その事実に心地よくなったシャリュトリューズはロンバルディアの用意した戦艦の高級士官用個室……を2つぶちぬいた豪奢な私室でもう一本のワインの栓を抜いた。
自ら瓶をわしづかみにして赤い液体をワイングラスにそそぐ。
その流れるような美しさを堪能した後、シャリュトリューズは香りを楽しもうとグラスを顔に近づけた。
「伯爵! 大変です!」
そしてその至福のひとときは緊急通信の警告音で寸断され、予想外のことにシャリュトリューズはワイングラスを取り落として寝台にぶちまけてしまった。
「何事だ!」
強烈な怒気をはらんだ大声で返す。
相手……おそらく当直士官なのだろうが、彼はよほどあわてているのかシャリュトリューズの怒声にも関わらず報告を続けた。
「レバンテ侯が討ち取られました!」
「な、何だと!?」
シャリュトリューズは驚きの声をあげた。
――数日ほど前にさかのぼる。
シャリュトリューズの叛旗に乗った形でレバンテ侯もリリザに対して挙兵した。
彼の私領は比較的皇帝直轄領に近く、以前共和国軍などが激突したカヴァ宙域に隣接していた。
侯爵の領土としては1宙域というのは小さく見えるが、3つの居住可能惑星を持ち、帝国でも規模のわりには肥沃な領土として知られていた。
レバンテ侯は28歳と若く、領地を亡父から引き継いだばかりだった。
そして旧来の貴族の集合体である帝国を愛し、3つの惑星の領民の外への移動を禁止し、閉鎖的な荘園体制をしいていた。
中世的な領土だったが帝国の大貴族にとってはよくある話だった。
レバンテ侯は3000隻ほどの艦艇と、2個旅団程度の私兵をかきあつめ、挙兵を宣言した上で帝国の辺縁部に所在するシャリュトリューズと合流すべく領地を出た。
レバンテ侯は旗艦にさだめた侯爵家の紋章入りの重巡洋艦の提督席に座りご満悦だった。
「しかし侯爵閣下……このまま無防備に出征して大丈夫なものでしょうか?」
実質的に私兵を指揮する准将の階級章をつけた男爵が不安を口にした。
「いま同時多発的に叛乱が起きている……あの"小娘"はパニックに陥っているはずだ」
弱冠28歳のレバンテ侯は風格を演出するためにアゴヒゲを伸ばしていた。
「このままシャリュトリューズ伯に合流しいまのリリザ朝帝国を倒すのだ……あの小娘は出てこないだろう。索敵もゆるめでいいぞ」
男爵は何とも言えない表情になった。
貴族の私兵はだいたい数百から数千程度が多い。一方中央直轄の艦隊は数万を超える。
いくら叛乱軍が多発的に挙兵しているとはいっても連携できているわけではない。そこに何となく不安を感じているのだった。
その不安が的中するかのように警告音が鳴った。
「何だ、そのへんのリリザ派の貴族か?」
レバンテ侯が叫んだ。
「い、いえ!」
オペレーターが声をあげる。
「帝国軍の艦艇ですが識別コードが違います……しかしその数25000隻!」
「何だと!」
「敵・急速接近!」
「なぜ気付かなかった……」
「索敵をゆるめにせよとのお言葉でしたので……」
レバンテ侯は口をあんぐりとあけた。
そして不安を口にした副官もろとも10倍近い敵の砲撃で彼は消滅したのだった。
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