第174話 Re:Re:【ジョイントベンチャー】新国家設立を編集

「ふふふそれにしても壮観だねぇ」

 その人物は、温和だがどこか底が知れない笑顔で艦橋の巨大なメインモニタを見回した。

 彼はどっかりと上質な天然素材でできた司令官席に座っている。


 拡大モードで可視化された周囲の艦艇群が堂々と宇宙空間を征くのがメインモニタ上にうつっていた。数万の光点が銀河を背景に堂々と進軍していた。

 

「全くですな……オスカル前大統領」

 威厳はあるがどこか冷たい沼のような悪意が混じる男が答えた。帝国貴族風の軍服に身を包み、金銀に輝く略章を大量に縫い付けている。

 シャリュトリューズ伯爵だ。


「この戦艦も大量増産した時代のものだというがなかなか良いじゃないか……ロンバルディア君」

「は……ありがとうございます」


 軍服ではなくスーツに身を固めた男が一礼する。腰を折って頭を下げる様式で、オスカルやシャリュトリューズにとって見慣れぬ礼儀だった。


 その男は堂々とした体格で、中肉中背のオスカルや、痩躯のシャリュトリューズよりも縦横ともに大きかった。憔悴してもいるように見えたが目だけはギラギラとしている。かつてこの世界の・・・・・銀河商事の代表をつとめていたロンバルディアだ。


「共和国の策略で出現した巨大艦隊……その廃棄艦艇をさらにこちらで買い取って使う……皮肉なものですな」

 シャリュトリューズが意地の悪い笑みを浮かべる。


「粗製乱造といえ改めて手を入れさせております。リマリ辺境伯の工廠は優秀です」

 ロンバルディアが礼をしたまま言う。


「ヴァッレ・ダオスタ公の工作が効いたね」オスカルが言った。

「ロンバルディアの仮釈放、廃棄艦艇の入手、動員……まぁあの男の手腕だけではありませんがな」

 シャリュトリューズは口元をゆがめた。


「そして貴族たちの離反……」

 オスカルが楽しそうに言った。「今回はかなりの規模の貴族が離反しているよね。同時多発的に」

「リリザ……あの小娘の直轄領と直轄艦隊は案外少ない。今回のように多数の貴族があらゆる場所で叛乱を起こせば対応に困るはずであろうな」

 シャリュトリューズは陰気な笑い声をあげた。


「……というように彼らは考えていると予想します」

 涼井……涼井晴康 統合幕僚長が会議の参加者の顔を見回しながらけろっとした表情で言った。

 共和国統合幕僚本部に集合した提督、幕僚たちはきょとんとした表情で涼井を見ていた。涼井はくぃっとメガネの位置を直した。

「いい感じです幕僚長」

 赤毛の女性副官であるリリヤ・スプルアンス大尉が涼井の背後でぐっと親指をあげた。


 涼井はいつものように地球から持ってきたノートパソコンのオフィスソフトで作ったデータを「天然素材の紙」の状態で会議の出席者たちに配った。


 この世界には涼井のノートパソコンとつながるプリンタは存在しないはずなのだが、ある下水関係の補修端末機構の部品のひとつの運用システムが地球のプログラム言語に近い構造を持っていることが分かった。というより一部構文が一致しているとしか思えなかったが、とにもかくもその補修端末機構を改良し、PDF構造を解析してこちらの世界でも再現。本来は補修用に使われる3Dプリンタ的な仕組みを使って2次元的なテキストとイラストを焼き付けることに成功しているのだった。


 その補修機構はこの世界の銀河商事が作ったものであった。


「さて皆さんお手元の資料をご確認ください」

 提督や幕僚たちが見慣れない天然素材の紙で出来た資料に目を奪われている。

 

「そこに書かれている通り、現在アルファ帝国では多数の反皇帝派が離反しています。しかし……」


 その資料にはでかでかと矢印が描かれている。

 その矢印の先には結論が大きな文字で書かれていた。


「心配いりません」

 おぉ……というどよめきが統合幕僚本部の会議室に反響した。


「結局のところはいくら同時多発的といっても小さな勢力がそれぞれ勝手に動いているだけで連携できているわけではありません。指揮系統が定まっていないことが問題です」


「しかし……」

 提督の一人が手をあげた。ロジャー・ヤング中将だ。

「かといって皇帝軍がひとつづつ潰していったら時間がかかるのでは?」


 涼井はにっこりと笑った。

「潰して回る必要はありません。小規模な反乱軍なら無視しても問題ありません。そもそも貴族の叛乱といっても、小規模な貴族であれば自領で反皇帝の旗をかかげているだけですから」

「なるほど……」

「大規模な相手は実は限られているのが今回の叛乱の弱点です。我々はアルファ帝国の友好国として協力を惜しむべきではないでしょう」


「賛成!」

 退任後海軍に転任したはずだが現役復帰してきたらしいルアック提督が大声をあげた。その後三々五々と賛成の声があがる。


「では軍部の意見・・・・・として大統領候補であるノートン元帥にこの意見を提出します。何か問題があれば後ほど提起してください」

 

 涼井は強引に結論を出した。

 共和国はあくまで民主主義国家の体裁をとっているため、国として動く場合はどうしても政治の協力が不可欠なのであった。




 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る