第177話 Re:第176話 【暫定対応】新国家"リオハ同盟"
「こうなったら毒を食らわば皿までだ」
グリッテル中将は深くため息をついて巨大艦艇の指揮官シートに座りなおした。
眼前のメインモニタには地表が吹き飛ばされ、人工の構造物が一部むき出しになった要塞惑星「クリアンサ」が映し出されている。
新国家リオハ同盟への合流を打診されたのはつい数週間前のことだ。
ニブルヘイム銀河からこちらの銀河を侵略にやってきたグリッテルは、しかし巨艦がゆえの機動力のなさと数の少なさを利用されたというか、数の暴力で叩き潰され、旧ロストフ連邦に逃げ込んでいた。
正直にっちもさっちもいかない状況の中、突然、共和国・帝国両方の使節からの会談の打診があったのだった。
「そちらにとっても良い話だと思う」
共和国士官の制服に元帥をあらわす肩章をつけた男は、眼鏡をくぃっとあげながら言った。スズハル元帥だ。
「対面で話したい」
彼は通信でそう告げてきたのだった。
グリッテル中将は悩んだ。
実際のところ詰んでいるに等しい状況だ。
ニブルヘイム銀河の第二共和国の連中はおそらく今回の失態を許さないだろう。
攻略に成功するどころか、
しかし対面で会談、というところにグリッテル中将は特にひっかかっていた。
もしかしたら罠かもしれない。彼はもちろんそう考えた。
返事をせずに数日。
グリッテルは占領しているロストフ連邦から強奪してきたワインを
共和国のスズハルはそんなグリッテルの心中を見透かしたように再度通信を送ってきたのだった。
「対面でお互い目を見ながら話しましょう。意図はそれだけです、もしも……」彼は無表情にそう言った。「暗殺する気なら普通に正攻法で攻めたとしても形勢は決まっていますね」
グリッテルはがっくりと首をたれた。
それでスズハルとの会談を決めたのだった。
実際のところ会談はわずかな時間で済んだ。
グリッテルは涼井たちの下で動くことを了承した。
共和国"海軍"戦艦の豪奢な貴賓室に招かれたグリッテルはスズハルと個別に話した。要件は全面的な降伏だったがその対象は共和国や帝国ではなかったのだった。
涼井はここしばらくの間、とらえていたヴァッレ・ダオスタ公爵とその数名の部下から地道に聞き出した情報をもとにスパイ狩りを憲兵隊中心に行っていたのだった。
スパイをとらえ尋問し、そして可能であれば転向させる。
この世界ではスパイといっても強固な意志を持っていることは少なく報酬の提示であっさり転ぶことも多かった。
その結果涼井はヴァッレ・ダオスタ公爵、共和国前大統領のオスカル、そしてこの世界の銀河商事の元CEOであるロンバルディアがシャリュトリューズ伯爵と組んで帝国と共和国双方で巨大な陰謀をたくらんでいることを知ったのだった。
かなり広範に張り巡らされた陰謀は数年前から準備されていたのだろう。
帝国貴族に同時多発的な叛乱を起こさせ、同時に共和国でもあの懐かしの反政府集団である革命的反戦軍が行動を起こすというものだった。
あまりの陰謀全体の規模の大きさに当初困惑していた涼井だったが、サラリーマンであったときの癖で状況を分解することにした。
帝国の状況:貴族たちが同時多発的に叛乱を起こす。ただし連携できるような距離ではなくそれぞれが離れた箇所かつ小規模から中規模。
共和国の状況:帝国の公爵ヴァッレ・ダオスタが放っていたスパイのおよそ30%-40%は転向済 ただし工作員が相当数浸透し、隠れシンパが蜂起する可能性がある
共和国軍が帝国領内で救援ができるか:あくまで内政問題なので共和国軍が派遣されるのは難しい。
リリザに叛意を持つ貴族たちが蜂起したところで連携はとれず集合する前に叩くことはできそうだった。
しかし帝国内における意義という意味では、旧貴族たちが反皇帝で動くという歴史的な意味合いは大きく、貴族間の血のつながりも無視できないことからリリザが手持ちの兵力で叩きに行くのは得策ではないように思えた。
そこで涼井が考えたのは、あえてアドリア・ヴァッレ・ダオスタの誘いに乗り、その新国家を帝国共和国双方から承認させる。そして条約を締結し帝国内での軍事行動を行えるようにする。ただし大規模ではなくちょうどシャリュトリューズたちの陰謀を破砕できる程度の戦力を持つ「独立国家」。これが涼井の考えたプランだったのだった。
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