【重要】課長が目覚めたら異世界SF艦隊の提督になってた件です

第163話 Re:Re:ニヴルヘイム銀河先遣隊現る

　開拓宙域に続々と艦艇が集まっていた。

　もともと中立の宙域ではあったが、涼井の入念な根回しと説得工作でこのあたりに権益を持つ商業ギルド同盟は特権的な貿易権を持つ代わりに事実上、共和国と関連のある領土として黙認。

　帝国も同じく黙認。

　ロストフ連邦はすでに事実上、帝国と共和国の共同管理となっているため抗弁できない。

　もちろんあまり表立って動くとか領有宣言をするのはまだマズいと考えられたが、このような状況なので共和国の艦艇を動かすこと自体は難しくなかった。

「うん、ロストフ連邦からの位置はあまり変わってないよ」

　帝国風の制服を着崩したさらっとした金色の長髪をゆらしながらアイラは言った。

「そうか……」

　涼井はアイラの立体映像にむかって頷き、提督席に腰掛けた。

　今や共和国軍全体の指揮官である統合幕僚長である彼は前線に出る必要もないのだが、今回は間近で様子をみたいのもあり、海軍（・・）の宇宙艦隊600隻ほどを護衛として周囲に置き、久々に戦艦ヘルメスに乗り込んでいた。

　もし戦死してしまった時のサラリーマン的なリスクヘッジとして後事はバークに託して、彼は惑星ゼウスで待機している。

「特に何か特殊な動きをしているとかはないか？」

　アイラは首を横に振った。

「ないね。いまもメスデンやオガサが張り付いてるけどね」

「わかった、ありがとう。無理はしないでくれ」

「大丈夫、アタシたちは海賊だからね、命が一番大事さ」

　アイラはニッと笑って立体映像を切った。

　民間船に紛れた海賊たちによる偵察結果によるとニヴルヘイム艦隊はただただ、悠々と滞留していた。余裕なのか圧力をかけているつもりなのか、判断しかねた。

（舐めているのだろうな）

　涼井はそう思った。

　確かに迎撃に向かったロストフ連邦の艦隊はまさしく鎧袖一触という有様だった。

　しかし想像できないほどの超技術というわけではないようだ。

　銀河間の航行を可能にする超々高速（・・）技術や、ロストフの艦艇を一方的に撃破した兵装の技術は確かに凄まじいが、いまあるこの世界……というよりこの銀河の技術の延長線上のもののように見えた。

「これは壮観ですなぁ」

　ファーガス中将が嘆息した。

　彼は60代半ばくらいの退役宇宙軍人で、現在は海軍中将だ。

　以前、国務長官のアレックスなどとともにリリザの戴冠式へと同行してもらったことがある。

　今回、涼井の親衛艦隊をつとめるのは海軍艦艇であるということもあって、彼は戦艦ポセイドンを降りて戦艦ヘルメスにおいて指揮をとっていた。

「だね」

　涼井の目の前のメインモニターには多数の艦艇が集合している様子が見られた。

　場所は惑星ドゥンケル付近。

　かつてこの世界の銀河商事があった惑星だ。

　そこではすでにリシャール公が集合させた開拓宙域の艦隊に加えて、共和国の正規の艦艇が次々に合流してくる様子が映し出されていた。

　無数のリアクト機関の青い煌めきが映し出され、何千何万もの星屑のように見えた。

　実際に集合したのはリシャール公の直轄艦隊20000隻とアリソン中将、リアン中将のそれぞれ17000隻、ササキ中将の第2艦隊、オーズワース中将の第4艦隊だ。第4艦隊は護衛も兼ねている。

　オーズワースは以前、共和国の艦隊を大増員した際に局地ではあるがかなり前線した軍人で、共和国艦隊の再編成や退役、開拓宙域への異動などに伴って何となく候補となって何となく提督の列に加わっていた。

　何だかんだと71000隻の前衛に後詰の第4艦隊とスズハル直轄艦隊。相当な艦艇を集めたことになる。

「相手の戦力が未知数すぎるからな」

　涼井はこういう時、相手戦力の見積もりは、サラリーマン的な意味での見積もりに似ていると思っていた。営業職のサラリーマンは相手の懐具合をある程度予想して適切な提案を行う。

　それがこういう宇宙での戦争であれば相手の戦力に対して適切な戦力を用意する。

　ただ、いわゆるビジネスでの見積もりと違う点は、その適切な戦力が多ければ多いほど戦闘では有利になるという点だ。

　こういう時、涼井はいつも容赦なかった。

　できる限り最大限の戦力を兵站の許す限りの数ぶつける。

　その代わりに可能な限り平時は制度を整え資源を備蓄しちゃんとした兵站線を構築する。

　俗にいう弾と飯がなければ戦えないというわけだ。

「おい、スズハル」

　急にリシャールが立体映像で割り込んできた。

「見張りについている海賊から平文で連絡があったぞ。奴ら、動き出したらしい」

「場所や方角は？」

　涼井が問うた。

「徐々に……という感じのようだがロストフ連邦領土の内部に向かおうとしているようだな。全力のようだ」

「わかった、追跡しよう」

「プランD-2のパターンだな。わかった」

　涼井はあらかじめいくつかありそうなパターンを列挙して各提督に伝えていた。

　ニヴルヘイム艦隊が全軍ロストフ連邦深部に向かうというのはプランD-2と銘打ってあった。

　涼井の号令で各艦隊は一斉に出撃の準備を開始するのだった。