第152話【選挙】候補者アドリア・ヴァッレ・ダオスタ

 その人物は豪華……というより、きらびやか、派手な服装をしていた。

 ふわふわとした茶髪はウェーブがかかっている。金属の服飾品がきらきらと煌めく、体にぴったりとした服装をしていた。


 ぱっと見、歓楽街にいてもおかしくない風貌だ。


「……というのがあーしの基本政策ですわよぉん」

 マスコミが構えた端末が一斉に彼女の音声を拾う。

 彼女が大統領候補であるアドリア・ヴァッレ・ダオスタだった。


「……随分独特な話し方ですね」

 涼井は合成革張りのソファに深く腰掛けて言った。


「そうなんだよスズハル君」

 向かい側に座ったノートン元帥も深く頷いた。

 ここは惑星ゼウスのノートン元帥の選挙対策本部だ。

 とはいってもノートン元帥が私費を投じて借りた庁舎街の一画にある小さなオフィスだ。惑星ゼウスにありがちな低層の建物の一画だ。こぎれいなオフィスルームに重厚な机、応接用のソファ。ノートン元帥を警護するSPが何人か入口に立っているがそれだけだ。


 涼井も大統領繊維出馬するノートン元帥の支援のために惑星ゼウスに帰還し、そのオフィスを訪ねたのだった。

 わざわざサミュエル元帥が自ら足を運んできたのもあり、断りづらいのもあった。ノートン元帥は現役武官として大統領選に出ることはできないので退役し、正確には退役軍人なのだが、元帥まで上り詰めた軍人は敬意をこめて「元帥」と退役後も呼ばれるようだった。


 地球と違いほとんどのシステムが自動化されているために大統領選に出馬すること自体にはあまり費用もかからず、介在する人間も少なかった。とはいえ政党の公認は必要だ。


 この世界の大統領選は直接投票制ではない。

 二段階に分かれている。

 第一段階はまず政党の中での最終候補の確定。

 これは各政党の党員が投票することで決定される。この世界は二大政党制なので、この時点で候補者が二人に絞られる。これが中間選挙だ。


 その後、第二段階では各惑星ごとに保守党か労働党に投票する。その結果によって、その惑星に割り当てられた選挙人の数が確定する。共和国領土の惑星は48個。選挙人は、惑星の人口によって数が異なるが760人いる。


 後は選挙人の数の勝負になる。

 過半数の選挙人をとった政党公認の候補者が大統領となるのだ。

 何となく地球のアメリカ大統領選に似ていたが、もう少し手続きその他はシンプルだった。


 いまは実はまだ第一段階で、党の中の候補者を絞っていく段階だ。

 問題は、この帝国につらなるアドリア・ヴァッレ・ダオスタが保守党から出馬・・・・・・・しているということだ。


 しかも若干28歳。

 前大統領のオスカルも若かったがさらに若い。

 保守党支持者の間でも「新しい風だ!」と騒ぎになっていた。


「問題は……」

 ノートン元帥がため息をつく。

「資金源ですね?」


 ノートン元帥が疲れた顔に微笑を浮かべた。

「その通りだよ。アドリア候補はなぜかこのようにマスメディアにどんどん取り上げられる。さらにファッションデザイナーやら音楽レーベルとの契約もあるらしい」


 涼井は今年に入るまではこの世界の政治には目を向けてこなかった。

 比較的安定した大統領だったエドワルドが協力的だったのと、前大統領オスカルが出てきてすぐにクビになったこと、その後すぐにロストフ連邦との長い戦役が始まったことで知識はほとんど皆無だった。


 開拓宙域からの帰路にニュースなどを見たのだが、特にこのアドリア・ヴァッレ・ダオスタは半ば実業家、半ば芸能人のような存在らしかった。

 もちろん話題性などで飛びつくメディアもあるだろうが、それにしても多すぎる。どこからか金銭が出ているのでは、とノートン元帥が思ったのも当然ではあった。

  

「というわけでぇ、あーしこれから帰るんで、追ってこないでねぇん」 

 独特な語調で言い残すとアドリアが記者会見の場から帰る様子が映されていた。メディアはむしろ追おうと殺到する。SPとの間にすったもんだが起きていた。


「これがまた話題になるんだよ」

 サミュエルがこめかみを押さえていた。


「政策としてはどんな感じなんですか?」

「困ったことに政策はまともだ。まともだが……資金源がヴァッレ・ダオスタ公ではないかと思っているのだ」

 サミュエル元帥が言った。


 もしも帝国の中でも反リリザ派であろうと思われるヴァッレ・ダオスタ公が資金を出して娘が大統領になったらとんでもないことになりそうだった。


「ヴァッレ・ダオスタ公はいまどちらに?」

「アテナ州政府の一件で捕虜になっていたのだが、前大統領オスカルがいつの間にか解放してしまっていたのだ」

 本当にろくなことをしない大統領だ。


「つまり自由の身で動き回っていると……」

「その通りだ……そこでスズハル君、このアドリアの資金源を探ってはもらえないだろうか? 君ならできると思っている」

 涼井は快諾した。

「もちろんです」

 そして次の瞬間、ノートン元帥とサミュエル元帥が目を丸くするのだった。

そして些少ですが……選挙資金にとりあえず1億RD共和国ドル出しましょう」

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