第147話【勧奨】第二銀河共和国の巨艦

「うぉぉ……これはでかい」

 ルーション子爵は思わずうめき声のようなつぶやきを漏らした。

 こげ茶色の髪の毛とあごひげをやや短めに刈り込んだ小柄な青年だ。共和国の軍服によく似た制服を着ている。

 彼はかつてリシャール公と共に戦ったが後に共和国の捕虜となっていた帝国貴族だ。


 ここは彼の艦隊の旗艦でもある戦艦アンダストラの艦橋である。

 ギャラクシー級として銀河商事が密造していた戦艦の1隻だ。

 

 開拓宙域は現在、ヘルメス・トレーディング社が実質的に財政的には支配しているが、軍事的にはリシャール公とロアルド大将がツートップとなっていた。

 

 共和国に思う存分政治力を発揮した涼井はリシャールの旧部下を数名解放し開拓宙域の戦力とした。同時に牽制の為に信頼できるロアルド大将以下、アリソン、ロビンソンも残していたのだった。


 ルーション子爵は涼井の指示で惑星ドゥンケルから再編された傭兵艦隊ヤドヴィガの船艇500隻を指揮して発進し、その別の銀河から来たという巨艦を迎えにいったのだった。


 そしてメインモニタに解析された画像として表示された艦艇の姿をみて驚嘆の声をあげたのだった。


「10000メートルもあるのか……」

 実際、そのグリッテル大佐という人物が乗った艦艇は圧倒的に巨大だった。

 戦艦アンダストラの30倍以上の大きさである。


 かなり巨大なノズルからは青白い光がほとばしっておりリアクト機関の一種と思われるが、これほど巨大なものはなかなかない。最高速はこちらの艦艇よりもかなり大きいので高速巡航中は別の機関を使っている可能性もあった。設計思想もかなり違うようで機動性よりも長距離を高速移動できるほうを重視しているような船型に見えた。


 その巨艦はゆっくりと相対速度をあわせルーションの艦隊と合流した。

 重力子通信で短いテキストとして「先導よろしく」とだけ送られてきていた。


「ちっ……よし案内してやろうじゃないか」

 ルーションは惑星ドゥンケルにむけて先導を開始した。


――その巨艦は名前を巡洋戦艦グンスラーといった。

 全長10000mの巨大艦艇は銀河間航行を可能とする各種の技術を詰め込んでいた。


「ふっ原始的で……貧弱なフネだ」

 グリッテル大佐は顔を歪めて侮蔑的な表情を浮かべた。

 彼から見ればルーション子爵の傭兵艦隊ヤドヴィガは数も少なく、センサー類によると装甲も薄く武装も貧弱だった。


 さすがに銀河の向こうから相手の能力を細かく推計することまでは無理なので、今回は使者でありつつ偵察任務も兼ねているのだ。


「それに比べて我が方は圧倒的だな」

 グリッテル大佐は指揮官席にどっかりと座って足を組んだ。

 共和国や帝国のメインモニタと違い360度全周をカバーする全周モニターには光学的に増幅された星海が立体的に表示されている。ともすれば生身で宇宙空間を旅しているかのような体験だった。


 巡洋戦艦グンスラーは通常航行時は集束リアクト機関を使って航行するが、銀河間航行の際はヴォルテンハイム式時空間拡縮機関を用いて異常な高速を実現していた。

 超高速時はほぼ全エネルギーをそちらに向けて拡縮機関を実現する必要があるため、通常時は障壁とある程度の高速を両立できるリアクト式に頼っている。


 しかしこうした技術はいまだこちらの銀河には存在しないはずだった。


 彼から見ると船の大きさも小さくリアクト機関も貧弱なものに見えた。


「交渉はうまくいくだろう……この圧倒的な技術差を見れば彼らも理解するはずだ」

 グリッテル大佐はそう確信していた。


 ほどなくして惑星ドゥンケルに到着する。

 赤茶けた空に同じような色合いの大地。

 その中にいくつか半地下になった構造物が存在する。

 かつて銀河商事を率いていたロンバルディアの戦艦密造拠点だった惑星だ。


 さすがに巨艦をおろす宇宙港はなかったが、巡洋戦艦グンスラーからは全長200mほどの短艇が降ろされた。短艇といっても共和国基準では駆逐艦サイズだ。


「何から何まででかいな本当に……」 

 ルーションは舌打ちした。

 彼の旗艦アンダストラがその短艇を宇宙港に誘導した。

 短艇ごと半地下にエレベーターで降りる。

 そして短艇からはグリッテル大佐とその警備兵が一個分隊ほど降りてきたのだった。


「ようこそグリッテル大佐」

 グリッテルは宇宙服の中からその人物を見据えた。

 グリッテルより相当に小柄だがただならぬ雰囲気を持っている。

 そしてその人物の背後に並ぶ一部のスキもない気密式戦闘服姿の儀仗兵。

 彼らは小銃を捧げつつの状態で保持し、微動だにしていなかった。


「……そちらのお名前をうかがおう」

「これは失礼……わたしはアルファ帝国皇帝リリザ。今回の会談の見届け人ですわ」

 リリザは銀色の瞳を細め凄みのある笑顔を浮かべた。



 




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