第146話【緊急】別の銀河からの使者がやってきたようです
その巨大……としか表現のしようのない物体が接近しているのが判明したのは涼井が統合幕僚長に就任してすぐのことだった。
ありえない高速で接近し、共和国領に近づくにつれ急減速していた。
方向としては隣の銀河であるニブルヘイム銀河からやってきているようだった。
全長でいうと10000メートル以上もある。ちょっとした小惑星くらいの大きさだ。
しかし、それは明らかに人工物だった。
「閣下、これは……」
「どうみてもフネだね」
涼井は統合幕僚本部の会議室に座ってメインモニタを見ていた。
戦艦の艦橋に置いてあるよりも巨大なモニタだ。
そこには重力子を解析して映像化した物体が浮かび上がっている。
つるっとした外郭にロービジ塗装がなされている。どことなくロストフ連邦の戦艦にシルエットが似ているがこちらのほうが遥かに大きい。砲門らしきものもいくつか見えた。
たしかに輸送船などではかなり大きいものもなくはないが、これだけの大きさのフネはこの銀河にはない。戦艦でもせいぜい500メートルから600メートルのおおきさだ。
以前の大増員計画で作った戦艦なら470メートルほどと、もっと小さい。
あまり大きくした場合は資材の問題もあるし機動性が悪化する。
そもそもの質量が大きくなれば超光速時の重力の増大を抑制することも難しくなる。結局はリアクト機関と重力制御の観点から数百メートル前後の大きさの船が最適解というのがこの世界の常識だった。
「通信です! かなり……出力が大きいですが形態は重力子通信です」
統合幕僚本部のオペレーターが大声をあげた。幕僚たちがどよめく。
「つないでよろしいですね?」
涼井は冷静に確認した。
隣に座っているアレックス前々国務大臣が頷いた。
結局、ロストフ連邦の侵攻作戦によってオスカル大統領による政権は空中分解してしまい、メンバーも行方不明だったり訴追を受けていたりという状況のため、臨時でアレックスが再任されていたのだった。
涼井とは共に
しばらくしてメインモニタに人影が表示された。
異様な風体を想像していたが、スキンヘッドにしているだけでごく普通のアングロサクソン系の男性が映っていた。軍服のようなものを着込んでいる。
「……通信は良好のようですな……」
言葉も流暢だ。よく響くバリトンといったところだろうか。
彼は続けた。
「私はグリッテル大佐。第二銀河共和国の軍人であります」
「……私はアレックス。臨時だが国務大臣をつとめている」アレックスが答える。「貴国の用件を知りたい」
グリッテル大佐がニヤリと笑う。
どちらかというと我が意を得たり、という表情に若干の悪意を足したような雰囲気に見えた。
「降伏勧告であります」
「ほう」
アレックスは目を細め瞬時に表情を消した。
「どういった条件でかな? また我が国が従うべき理由は?」
「それは簡単なことです。我が偉大なる第二銀河共和国は技術的にも圧倒的です。そちらは我が方のようなこうした銀河間の航行を可能とする技術は持っていないはず。こちらの銀河全体の統一を果たした我々に従うのは当然のことでしょう」
アレックスは目をぱちぱちとさせた。
一瞬、かなりの怒りが滲み出てくるのを涼井は見逃さなかった。
「……受け入れがたい話ですな。しかも無条件で、ということですかな」
「その通り、無条件に受け入れていただく」
「戦争になりますぞ」
「それはお互いにとって不幸でしょう……我々の観測では、共和国とやらがもっとも勢力としてまとまっているようだ。まずは我々の話を聞きませんか? そうすれば降伏しなければならない理由もお分かりになるはず」
「……話だけは伺おう」
アレックスはかなりの努力をして平静を保っているようだった。
「……グリッテル大佐」涼井が割って入った。
「どなたかな?」
「私はスズハル。共和国軍の責任者です」
「現地軍か」
アレックスに対しては一応敬意を持つことを装っていたがグリッテルは露骨に表情を変えて傲慢な態度になった。
「会談場所はこちらで指定したい。誘導に従っていただけますな?」
「……いいだろう。わが軍のフネは非常に高速だ。誘導にも苦労されることでしょうな」
涼井はくぃっと眼鏡の位置を直した。
「どんなに高速でも砲弾ほどではないでしょうな」
グリッテル大佐は露骨に嫌そうな顔をした。
「……場所を指定してほしい」
「こちらから迎えの艦艇を送ります。そうですな。惑星ドゥンケルに来ていただきましょう。わが方の重要拠点です」
「承知した」
「正規艦隊を送ります」
通信はそこで切れた。
アレックスはやれやれというように肩をすくめた。
「スズハル君、君の事だから何か考えがあるんだろう? わざわざ開拓宙域の旧銀河商事拠点を指定するのだから」
「まぁ観測されている範囲かもしれませんがね……」
惑星ドゥンケルからは接収した銀河商事の密造戦艦ギャラクシー級と再編成された傭兵艦隊ヤドヴィガの船団が、第二銀河共和国の艦を誘導のために合流地点まで迎えにいったのは数日後のことだった。
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