【増員】臨時総督府領土の防衛プラン

 旧共和国領土の惑星ゼウスに置かれたロストフ連邦臨時総督府では、銀河商事がヘルメス・トレーディングに乗っ取られたこと、傭兵艦隊ヤドヴィガが屈したことで騒然となっていた。

 

 突然のことに社の方針についていけないヤドヴィガの社員が多少、開拓宙域を脱出してきてロストフ連邦に合流していた。しかし少なくとも数万隻の艦隊を持つヘルメス・トレーディングに傭兵艦隊ヤドヴィガの戦力を足すと、5〜6万隻は戦力があることが予想された。


「これは大変なことになったな……」

 臨時総督のバルカルはちょび髭をなでながらうなった。ヴォストーク元帥も腕組みをして考え込んでいる。


「我々の戦力は11個艦隊約12万隻。スズハル一味の戦力が多めに見積もって6万隻だとすると侮れないな。分散して防御した場合は守りきれない。各個撃破になるおそれがある……」

「そういえば、あの男、銀河商事のロンバルディアはどうするんじゃ?」

 ヴォストーク元帥が問いかける。

「開拓宙域から逃げてきたようですな。あの男の処遇はまた考えるとして、とりあえず高級士官向けに接収したホテルを与えておりますよ」

「まぁ今はあの男がおってもな……」

「ときに、元帥」

 バルカルは臨時総督府の艦隊司令官ヴォストーク元帥をすがるような目で見つめた。


「元帥、何か妙案はありませんか?」

「そうさなぁ、ワシはどちらかというと攻撃の方が好みでなぁ」元帥もヒゲをなでた。

「こちらから攻め込みますか?」

「まだ共和国の領土を全部とったわけではないし、快進撃だった分ワシらが守る領域が広がっとる。それにほれ、リマリ辺境伯の艦隊と対峙していた共和国艦隊……なんつったかのぅ」

「ファヒーダ中将」

「そうそう、どうも首都陥落後、行方をくらまして今は抵抗中の宙域に出没しとる。それに対応するのに少なくとも3〜4個艦隊はほしいじゃろ? どこに現れるかわからんからのぅ」

「そうすると辺境から攻め上がってくるであろうスズハルに対応する艦隊が多くて7個。我が軍の艦隊は1つにつき11000隻……77000対60000となると、かなり互角の戦いになってしまいますな」

「しかも指揮するのがあの共和国の英雄スズハルじゃい」

「……どうしましょう元帥」

「うーむ……ないこともないが」

「おぉ!」

「少し時間をくれ、何とかしてみよう」

「わかりました、その間に艦艇の補修とか、こちらに寝返る共和国軍人がいないかなど、色々と手は打っておきます」

「うむ」


 ヴォストーク元帥は腹をゆらしながら立ち去っていった。

 数日後、彼は30隻ほどのステルス艦を率いてひっそりと惑星ゼウスを発った。


 その間にバルカル大将はできる限りの手を打った。

 まずは艦艇の補修。負傷者などの病院への収容。

 大胆な手としては、防御に向かない惑星をいくつか手放し、防衛範囲をせばめるように努力した。


 さらに共和国の抵抗勢力への降伏の呼びかけ。

 場合によっては鞍替えをするよう宣伝して回った。


 その成果があって、かつて憲兵中佐だったという男が寝返ってきたのだった。

ボブ・・中佐です」

 小太りで大柄な体格はどことなくヴォストーク元帥を思わせ、バルカルはその柔和な態度に好感を覚えた。


 ボブ中佐は鞍替えの動機としては、新大統領オスカルによる急速な軍縮による部下たちの失職を挙げた。

 彼は首をふりふり切々と訴えかけてきた。

「私は幸い軍に残ることができましたが……共和国に尽くした部下たちは軍縮の影響で職を失い、恩給もごくわずか。これではやっていけないとやむを得ず降ったのです」

「なるほど」


 バルカルは志望動機も気に入った。

 さっそくボブ中佐と、同行してきた女性スタッフ2人組を臨時総督府付きの情報課員とした。

 ボブ中佐によるとこのように軍縮に不満を抱いている軍人は多数おり、憲兵のネットワークを使って鞍替えを呼びかけることが可能とのことだった。また情報収集にも長けておりスズハル一味の動向も探ることができそうだった。


 ちょうどその折、ヴォストーク元帥が思わぬ方向から3個艦隊もの増援をロストフ連邦本国から連れてきたのだった。

 バルカル大将は驚愕した。


「元帥! いったいどうやって」

「うむ、前々から調べていたルートでな。開拓宙域の密輸業者が使うルートをたどり、かなり大変だったが我が本国の艦隊を密かに連れてくることができたのだ」

「おぉ……」

「グレッグとかいう密輸業者が積極的に協力してくれてな。大金は使ったが。スズハルの妨害もヤドヴィガの妨害も受けずにこれこの通りじゃい」

「これはありがたいですな」

「補給物資も多めに持ってくることができたぞ」

「共和国の規格は合わないものもありましたので助かります。さすが元帥閣下」

 その日、ロストフ連邦の司令部は酒宴で盛り上がった。

 ボブ中佐が調達してきた共和国高官秘蔵の蒸留酒などが盛大に振る舞われ、一部は首都を警戒する将兵にも振る舞われた。


 これでロストフ連邦の臨時総督府の戦力は14個艦隊に到達した。

 3個艦隊をファヒーダ中将の艦隊の追跡に割き、7個艦隊を辺境に近いポセイドン宙域に置き、残りを首都惑星ゼウスに配置した。


 多少の出血はあってもスズハルを十分に倒せる配置と踏んでいた。


 その配置が終わった後のことだった。

 1つの驚くべき情報が臨時総督府にもたされた。

 何とスズハルの率いる大艦隊がロストフ連邦本国・・に侵攻してきたというものだった。

 

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