【敵対的買収】ロストフ連邦本土侵攻作戦

 ロストフ連邦はアルファ帝国の一部と開拓宙域と領域を接している。

 共和国侵攻は開拓宙域の中でも共和国寄りの領域を通って実現した。

 

 開拓宙域とは深く接しており、それゆえ銀河商事と組んでひそかに戦力を蓄えることができたのだった。そして共和国制圧に成功した。


 しかし涼井一味は、何を思ったか共和国領土奪還ではなく、ロストフ連邦の領土そのものに侵攻してきたのだった。そしてロストフ連邦はすっかり涼井の一味が共和国領土に逆襲してくると思っていたため、ヴォストーク元帥らは14個艦隊も張り付けていた。そして本国には2個艦隊しか残っていなかったのだった。


 警戒のためにロストフ連邦の辺境惑星バラクラヴァにはロストフ連邦のイー艦隊が駐留していた。指揮をとるのはイザベラ提督という年齢不詳の女性だった。後方勤務が多かったため堅実な指揮をとることで知られていた。


 ちょうどイー艦隊が警戒のためにバラクラヴァ宙域の恒星付近に展開している時だった。開拓宙域からやってくる海賊や無法者などに対する一般的な警戒だった。1個艦隊を広く展開し開拓宙域側を監視する任務だ。


「重力の増大を感知しました! イザベラ提督」艦橋のオペレーターがモニタを凝視したまま叫んだ。


「ほう、侵入者か?」 彼女はコーヒーを口元から離した。彼女はいつもアイスコーヒーを飲んでいた。

「か……かなりの数です」

「なるほど、武装短艇か? それとも海賊か? いずれにしてもまとまって入ってきたなら対応が必要だな。何隻なのだ?」

「いま計測していますが……さ、30000隻以上です!」

 

 イザベラは思わず立ち上がった。

「30000隻だと! どこの誰だ!」

「国籍不明……しかし所属はヘルメス・トレーディングとなっています」

「例のスズハル一味か!」


 イザベラは目まぐるしく計算した。

 イー艦隊はわずか11000隻。30000隻もの艦隊が入り込んできたら正面からは全く勝負にならない。慣れた地形や、暗礁宙域に引きずり込めば勝負になるかもしれなかった。


「いずれにしてもバラクラヴァは放棄だ! 急ぎ反転せよ」

「提督! もう2つ別の反応が……」

「何? 別働隊か?」

「……別働隊というレベルではなさそうです。新たに20000隻以上! また別方面から10000隻以上!」

「馬鹿な!」


 共和国に駐留する臨時総督のバルカル大将によるとスズハル一味は大きく見積もってもせいぜい5~6万隻とのことだった。共和国領土への逆襲はあり得たが、ロストフ連邦側はあまり警戒していなかったのだ。


「さーて色々と所属は変わったがある意味で私の初陣だな」

 白髪に近い金髪の若い男が提督席に座りメインモニタを眺めた。

 リシャール公だ。彼は今は共和国の軍服に身を包んでいる。


「全艦準備はいいな」

 メインモニタにロアルド提督とニールセン提督が出現した。


「公爵閣下とくつわを並べるのは妙な気分ですが……」ロアルドが苦笑する。

「あれだけ共和国で暴れたんですから、ある意味で期待していますよ」ニールセン提督はウィンクする。


「では行こうか」リシャール公が白い歯を見せて笑う。ただし以前の負傷のため歯が一本なかった。


 惑星バラクラヴァに出現したのはロアルド提督の率いる36000隻、リシャール公の率いる24000隻、ニールセン提督の12000隻と、合計82000隻もの大艦隊だった。総指揮をとるのはリシャール公。先鋒がロアルド提督、後詰がニールセン提督という配置だった。


 イザベラ提督はバラクラヴァ宙域を放棄して惑星系から離脱をはかる。ロアルド艦隊がバラクラヴァ宙域の惑星を制圧にかかる。そしてリシャール公の艦隊はロアルド艦隊と超越交代し、自身が先鋒となって迅速にイザベラ艦隊の後尾に食いついた。


「早い!」イザベラが叫ぶ。

「遅い!」リシャールは大笑する。


 リシャール艦隊は猛烈な砲撃を加え、イザベラ艦隊の後尾を粉砕した。

「このままでは全滅する! 右翼隊! 食い止めよ!」イザベラは非情な決断をした。


 イザベラ艦隊を構成する分艦隊の1つが、反転しリシャール艦隊に立ち向かった。

 わずか2000隻の艦隊だ。

 しかし提督を逃がそうと決死の戦を挑んてきた。


「むっ なかなか激しいな」

 しゃにむに突っ込んでくるロストフ艦隊2000隻をリシャール艦隊はやわらかく受け止めた。緒戦であまり損害を出したくはなかったのもある。


 ニールセン艦隊が追いついてくる。

「イザベラを追いますか?」とニールセン。

「そうだな、ではこの艦隊を任せる。私が追撃しよう」

「承知しました」ニールセンが敬礼する。


 リシャール艦隊はロストフ艦隊2000隻とほぼ交戦せずすり抜けるようにしてイザベラ艦隊を追跡した。後に残された艦隊はニールセン艦隊が包み込むようにして攻撃する。


 イザベラ艦隊の本隊は逃げた。故障した艦艇や小破した艦艇は全て見捨てた。

 にも関わらずリシャール公爵は大艦隊を善く統率し距離をたもって追跡した。イザベラ提督は逃げるのに必死でそのことに気づいていなかった。


 イザベラ艦隊は辺境部を抜け、ロストフ連邦の中央部にあたるヘルソン宙域でようやくまとまった数の沿岸警備隊と合流した。数だけはそれなりの数になったためようやく一息をつき、迎撃準備を整えようとした刹那、距離を保ったまま追従してきたリシャール艦隊が襲いかかってきたのだった。

 


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