【好調】ヘルメス・トレーディング社の反撃

 傭兵艦隊ヤドヴィガのリット艦隊8000隻の前に姿を現したのは35000隻のヘルメス・トレーディング社の艦隊だった。そしてヤドヴィガのオペレーターの解析によると全艦がミリタリー・グレードで明らかに傭兵艦隊マトラーリャの船団ではなかった。


「ちょうど飛び込んできたな」

「ですな」


 提督席に座っているのは情報幕僚あがりでノートンと共に数々の戦場に立ったニールセン大将だ。それを補佐しているのはロビンソン中将だった。


「よし、スズハル閣下の言う通りにいこう」

 ニールセン艦隊は広く堂々とした陣形を組んでいた。

 圧倒的な存在感で虚空に布陣していたのだった。睨み合いを続けるエール宙域に増援するのではなく、ロアルド艦隊自体を餌にした形だった。


 リット艦隊は急速に減速した。もしかすると減速せずに方向を変えて逃げるべきだったのかもしれないが、ニールセン艦隊が広く覆うような陣形を組んでいたため、本能的に減速してしまったのだった。その中でリット艦隊は大きく隊形が乱れてしまった。


 待ち構えていたニールセン艦隊はむしろ加速し、リット艦隊に対して猛烈に襲いかかった。


 初手から無数の質量弾がリット艦隊に降り注ぐ。

 質量弾には通常限りがあるので、ここぞという時に使うのが通例だったが、35000隻の艦隊が惜しみなく使ったのだった。


 連続的にリット艦隊の艦艇に質量弾が命中する。

 爆発四散する艦艇が続出した。


「あぁっ……いかん、いかんぞ!」

 リット1級船団長はあわてふためいて全艦に回頭を指示した。

 メインモニタには深刻な被害状況が次々に映し出されていた。


 足の速い船ばかりで先遣隊を組んだのが禍いした。軽巡洋艦や駆逐艦、武装商船などの比較的装甲が薄い船艇はニールセン艦隊の大火力の前に次々に撃破されていった。


 それでもリット艦隊は何とか回頭には成功し、そのまま全速力で逃げ出す。

 後続と合流すれば、まだしも戦艦などを盾にできる。そういう計算だった。


「船団長! 前方に重力増大!」ヤドヴィガのオペレーターが叫んだ。

「今度は何だ!」

「数は4000隻ほどですが……、我々の後続との間に割り込まれました」

「何だと!」


 メインモニタには高速で割り込んでくる一団が表示されていた。

 エサとなって逃げていたロアルド艦隊だ。


 リットの艦隊が反転し逃げようとしている間に、追っているはずだったロアルド艦隊がいつのまにか退路に回り込んでいたのだった。


「少しはいいところを見せないとな、砲撃開始!」

 ロアルド提督が顎をさすりながら指示をくだす。

 ロアルド艦隊は整然と、かつ猛烈な砲撃をリット艦隊に浴びせかけた。

 

「い、いかん」

「後続が近くまでやってきています、連中を挟み撃ちにできそうですが」とヤドヴィガのオペレーター。

「その間に35000隻の艦隊に追いつかれてしまうだろ!」

 リットはデスクを叩いた。


 それでもリット艦隊は何とか退路を開こうと、必死にロアルド艦隊に対して突進する。可能な限り質量弾も交えてロアルド艦隊に攻撃した。


 しかしアルテミス宙域などで粘り強く帝国相手に戦ったロアルドは強靭だった。

 うまくリット艦隊の攻撃をいなし進路を邪魔しながらも機動して有利な位置をしめる。まだ新品のヤドヴィガの軽巡洋艦がまた1隻爆発四散した。


 さらにリットの言った通りでニールセン艦隊はあっという間に追いついてきた。

 35000隻もの艦隊にしては機動力が高かったが、実質的には共和国の将兵が乗り、共和国の艦艇で構成されているため熟練の度合いも高かった。ニールセンも大軍の指揮経験があった。


 数が少ない方よりも数が多い方が機動力が高く火力も大きかった。

 その上、戦艦などが配置されているとはいえ、急拵えきゅうごしらえの船団ではヤドヴィガに勝ち目はなかった。合流したばかりの艦艇も多数含んでいたため、連携もうまくいかなかった。


 リット艦隊は何とか罠を食い破ろうともがいたが、その間にも被害が続出した。

 後続の艦隊も接近してきたが、ロアルド艦隊がそちらの進路も邪魔をした。

 その間にニールセン艦隊が半分包み込むような隊形でリット艦隊を追い詰める。


 この段階ではヘルメス・トレーディングの戦術として艦艇を確実に撃破するよりも、できるだけ行動不能や大破、中破を狙った砲撃に変化してきていた。リット艦隊も徐々に諦め、また破損した艦艇があまりに多すぎるために火力も微弱になった。


 その結果、彼らはロアルド大将からの降伏勧告に素直に応じることになるのだった。



 




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